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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
最終章「姫様が好きだったんだ。」
75/82

75.雷撃の騎士

「行け、アルベルト。まずはあの女を始末せよ!!」


 それを聞いたルーシアが首を振って叫ぶ。


「な、何を言うか、魔王バーサス!! アルベルト殿は……」


「……御意」


 バーサスの言葉に頷いたアルベルトが剣を握り倒れていたルーシアの元へと歩き出す。その目は白濁。無表情でまるで意思のない人形の様。



(洗脳? 操られている……??)


 オリハルコンの長棒を杖に起き上がるルーシア。何が起こったのか分からないが黒騎士アルベルトは魔王の術で操られてしまったようだ。エルティアが言う。


「ルーシア、彼は一体……??」


「魔王に操られているようです。何らかの方法で術を解かなければなりません」


「そんなことが……」


 大好きな兄ウィルをいつも輝くような目で見つめていたアルベルト。だが今はその目は白く濁り彼の意思は感じられない。ルーシアがオリハルコンの長棒を手にエルティアに言う。



「私が何とかします! だからエルティア様は早くお逃げを!!」


 それを聞いたエルティアも立ち上がり首を振って言う。


「このような状況で私がたったひとり逃げるとでも思うか?」


「しかし……」


 ふたりとも満身創痍。とてもアルベルトと魔王軍を相手に戦うことなど不可。エルティアが言う。


「しかも彼はウィルの弟。私達が助けてやらずしてどうするのだ?」


「エルティア様……」


 ルーシアは知っている。この目をした時の彼女がもう何を言っても聞かないことを。エルティアが言う。



「ふたりでアルベルトの目を覚ますぞ。準備はいいか?」


「は、はい!」


 ルーシアは剣を持ちアルベルトに対峙するエルティアを見て思った。


(姫様、動けるんですね……)


 いつの間にか『飾り姫』の呪縛から抜け出したエルティア。先ほどまでの固まって動けなくなっていた彼女とはまるで別人。



(体が、手足が動く! そうか、アルベルトは魔物ではないからか? それに……)


 エルティアが剣を構え思う。


(万が一、彼に何かあったら……)



 ――ウィルが悲しむんだ



「はああああ!!!!」


 この戦いで初めてエルティアが剣を持ち戦場を駆ける。


「エルティア様……」


 何が起こったのか分からない。だが再び愛するエルティアと共に戦えることはルーシアにとってこの上なき喜び。


「参ります!!」


 ルーシアも愛用のオリハルコンの長棒を手にこちらへ向かってくるアルベルトに突撃する。



「あいつらふたりは強い。心してかかれ」


「……」


 バーサスの指示に無言で応えるアルベルト。手にした剣にはすでに雷属性スキル『サンダーボルト』が付与されている。



「はああああ!!!!」


 ガン!!!


「はっ!!」


 ガンガンガン!!!!



 エルティアとルーシアの同時攻撃。その多彩な攻撃をアルベルトはたったひとり剣でいなしていく。



(強い!! 剣に全く迷いがない……)


 ルーシアは前回『百災夜行』の時に戦ったアルベルトとは別人のようになっている彼を見て驚く。あの時はまだアルベルトには様々な葛藤があった。それが剣を鈍らせていたのかもしれない。だが洗脳された今の彼は、何の迷いもなくその抜群の戦闘センスが発揮されている。



「ギガサンダー」


(!!)



 ドオオオオオオン!!!!


「きゃあああ!!!」

「きゃっ!!!」


 エルティア達の攻撃をいなしたアルベルトが、間を置かず得意の雷撃を落としてくる。直撃は避けられたものの、強い電撃の余波を受け地面に倒れるふたり。エルティアが思う。



(体は動く。動くのだが、重い……)


 違和感しかなかった。

 ウィルが居た時に感じる重力すら感じさせないまるで空を舞うような躍動感がない。使命とか気持ちだけで戦っている感覚。無論エルティア達はそれがウィルの常時発動能力パッシブスキルのお陰だと言うことは知らない。ルーシアが言う。



「エルティア様、今のアルベルト殿は何か違います。ここは一旦私に……」


「何を言っている」


 そんなルーシアの前にエルティアが出て言う。


「ウィルの弟が苦しんでいる。それを私が助けずしてなにが……」


 エルティアが単騎アルベルトに突撃する。



「何が『六星』だ!!!」


 ガン、ガンガンガン!!!!


 エルティアの流れるような剣撃。これまでの硬かった動きが嘘のように軽くなっている。


「エルティア様……、私も行きます!!!」


 それに合わせるかのようにルーシアもオリハルコンの長棒をクルクルと回し、アルベルトに襲い掛かる。



「くっ……」


 さすがのアルベルトも覚悟を決めた『六星』ふたり相手にやや後退し始める。先ほどよりも早い剣撃。重い長棒。変わり始めた戦況を見てバーサスが叫ぶ。



「何をしている!! ふたりを抹殺せよ!!!」


「!!」


 その声。主の声がアルベルトの体の奥にある何かを揺さぶる。



 カンカン!!!


 ふたりの攻撃をいなし、後ろに跳躍。剣を斜めに構え独特の形を取る。空中にバリバリと電気の走る音が聞こえ始めると、アルベルト小さく口を開く。



雷鳴らいめい天翔てんしょう


 エルティア達の周囲に現れた無数の刃の様な電撃。バリバリと不気味な音を立てながら大きくなると、一斉にふたりに向かって襲い始めた。ルーシアが叫ぶ。


「エルティア様、お気を付けを!!!」


 カンカンカン、カン!!!!


 襲い掛かる電撃の刃を必死に叩き落していたふたりだが、やがてその迸る刃がふたりに当たり始める。


「きゃあ!!!」

「うぐっ!!」


 これまでに放った雷鳴らいめい天翔てんしょうよりも遥かに数が多く大きな電撃。満身創痍のふたりそれをすべて叩き落す力はなかった。



「エ、エルティア様……」


 電撃の刃に倒れたふたり。傷だけでなく、体の痺れも発動する厄介な攻撃。敵に回すとやはりアルベルトは手に負えない相手。腕を組み、その様子を後方から見ていたバーサスが言う。



「殺せ」


「……御意」


 アルベルトが再び倒れたふたりに向かって歩き出す。周りにいた魔物達も意外な展開に驚きながらもアルベルトの攻撃に歓声を上げる。エルティアが叫ぶ。



「アルベルト、私だ!! エルティアだ!!!」


「……」


 エルティアの悲痛な叫びも今のアルベルトには届かない。どうにかして彼を目覚めさせたい。だがエルティアは無力な自身に再び涙がこぼれ落ちる。ルーシアがよろよろと起き上がりエルティアの前に移動して言う。



「姫様には、指一本触れさせぬ……」


「ルーシア、もういい……」


 お互いもうこれ以上戦えないことなど明白。こんなところで足掻いても無駄なこと。



(だから今の私の望みはただひとつ……)


 アルベルトがエルティアの前に立ち、バリバリと雷属性が付与された剣を振り上げる。エルティアが目を閉じ心の中で祈る。



 ――私にはウィル、お前しかいない。



 ガーーーーーーーーン!!!!!



「!?」


 振り上げられたアルベルトの剣。それが突如大きな音を立てて真っ二つに折れた。



「姫様ーーーーっ、ルーシア!!!」


 それは真っ白な竜の背に乗った茶髪の少年。エルティアが顔を上げ涙ながらに言う。



「ウィル、やっぱり来てくれたか……」


 その目に溢れる涙。エルティアは心の底がぽかぽかと温かくなるのを感じた。

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