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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
最終章「姫様が好きだったんだ。」
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67.激突!!漆黒の竜

 ルーシア達『六星』が突入した魔界。その中央にある魔王城最上階より外の景色を眺めながら主であるバーサスが側近の堕天使ルーズに尋ねる。


「勇者が来ていないというのは本当なのだな?」


 光沢を放つ黒き肉体美。自信に満ちたそのオーラは最強の魔王たる威厳に相応しい。ルーズが答える。


「はっ。『六星』のうちあの天使族の女を除く五名の突入を確認しました」


 ルーシア達の動きは逐次魔王城へともたらされる。バーサスが言う。


「そうか。ならば予定通りドロアロスのみで問題ないだろう」


 魔王も警戒する『六星』。だがそれは勇者と言う強い光があって初めて輝く存在。勇者なき彼らなら漆黒竜ドロアロスとその他軍勢で十分対処できる。ルーズが尋ねる。



「拘束している天使族の女はいかがいたしましょうか?」


 彼としては憎きガルシアの娘。一刻も早く最も無残な方法で処刑したい。バーサスが答える。


「そのままだ。いずれこの地に勇者がやって来る。その時の為の切り札として残しておく」


 少し不満そうな表情を浮かべたルーズが尋ねる。


「今のバーサス様なら勇者と言えども恐れるに足らぬ存在ではないかと思われますが」



「万全を期したい」


 バーサスの目が強い決意の色に染まる。


「万全をもって勇者に当たる。先の戦いでは私に隙があった。強さを過信する隙が。だから今度は未覚醒と言えども全力で勇者他叩きのめす。だからあの女を使う。すべては確実な勝利の為だ」


「御意」


 ルーズは深く頭を下げその意に沿う。バーサスが尋ねる。



「時にルーズ。今日の私の……」


 そこまで言いかけたバーサスより先にルーズが答える。


「百点満点でございます。美しき肉美。皆を照らす我らが光」


「うむ。そうか」


 バーサスは満足そうにその答えに頷いて答えた。






「グゴオオオオオオオ!!!!!」


 ルーシア達『六星』は、突如現れた魔王バーサス側近の漆黒竜ドロアロスを前に戦闘態勢を取り始める。勇者ウィル不在の今、戦力低下は否めないが、全員で掛かればきっと討伐可能だ。


(だが、一刻も早くエルティア様の下へ行かねば……)


 とは言えこんな場所で足止めを受ける訳にはいかない。早くエルティアの元へ行かなければその身が危ぶまれる。オリハルコンの長棒を構え苦悩するルーシア。だがそんな彼女の気持ちを察してかふたりの『六星』がその前に立つ。



「ここは俺に任せてお前らは先に行きな」


 それは真っ白な美しい竜族のハク。同じドラゴンとして理不尽に暴れるドロアロスが許せなかったし、何より奴は長老の仇。そんなハクの隣に同じく白色の髪を靡かせながらもうひとりの男が立つ。


「ワータシも戦いまーす! 我が公国のお礼、きっちりとさせて頂きまーす!!」


 ミント公国の公子ジェラード。漆黒竜ドロアロスの攻撃を受け美しかった公国が無残な姿へと変えられてしまった。ルーシアが尋ねる。



「だが、たったふたりで……」


 そんな彼女の言葉を遮るようにハクが言う。


「この程度の三下ドラゴンに俺が負けるとでも思ったか? さ、早く言って姫様救出してこい!!」


 ジェラードもルーシア達を見てにっこり微笑む。それを見たアルベルトがルーシアとラフレインに言う。



「行きましょう。一刻の猶予もありません!」


「うむ、分かった! ハク殿、ジェラート公子、ご武運を!!」


 そう言うとルーシア達は急ぎ先へと進む。それを見たドロアロスが彼女達を逃がすまいと体をひねって叫ぶ。



「グゴオオオオオオオ!!!(一匹たりとも逃がさぬぞ!!!)」


 その前にすっと舞い上がったハクがドロイアスを睨みつけて言う。


「てめえの相手はこの俺だ。()()


 その挑発的な言葉にドロイアスの体が一瞬固まる。そして空中で対峙するハクを睨みつけ答える。



「生意気な若造が。大人の竜の恐ろしさをしっかりと教えてやらなければならぬな」


 人間に比べれば大きいのだが、まだドラゴンとしては成長途中のハク。それに対するドロイアスはその数倍もの大きさを誇る。ハクが大きな口を開けて言い返す。


「黙れ、クソジジイ!! てめえみたいな老いぼれは早くくたばっちまえよ!!」


 そのままドロイアスに突撃。鋭い牙で漆黒竜の皮膚に齧り付く。ドロイアスが黒き翼を羽ばたかせながら言う。


「笑止、笑止!! この程度の実力でこの漆黒竜に歯向かうとは!!」


 そう言いながらドロイアスは体を回転。ハクを振り飛ばす。


「瞬殺してやるぞ!!」


 そう言いながらドロイアスが大きな口を開く。



 シュン!! シュンシュンシュン!!!!


 そんな攻撃態勢に入った漆黒竜に地表から魔法の矢が放たれる。思わず後退するドロイアス。その射て手を見て舌打ちをする。


「ちっ、まだ居やがったか『六星』が」


 それは白き髪を風に靡かせ大きな弓を構えるミント公国公子ジェラード。ハクがそれに気付き宙を舞いながら声を掛ける。


「助かったぜ、ワータシ!!」


 ジェラードが弓を構えそれに答える。


「この戦いはワータシにとっても負けられぬ戦い!! 思う存分共闘しーましょう!!」


 ジェラードにとっても祖国を襲った憎き相手。軍事大国ミント公国を代表する者としてこの黒き竜に負ける訳にはいかない。ドロアロスが宙を舞い、自分に歯向かうふたりを見て言う。



「目障りな『六星』共め!! このバーサス様の力を得た漆黒竜に勝てると思ったか!! 絶命の衝撃(スクリームインパクト)!!!」


 ドオオオオオン……


 漆黒竜の雄叫び。命を刈るという絶望的な咆哮。聞いた者を恐怖で動けなくするという不気味な衝撃波がハクとジェラードを襲う。


「ぐっ、うぐぐぐっ……」


『六星』であるふたりにはそれほどてきめんな効果はないのだが、それでも思わず耳を塞ぎたくなるような雄叫び。そんな一瞬躊躇いを見せた彼らに、その漆黒竜の太いしっぽが襲い掛かる。



 ドオオオン!!!


「がああああ!!!」


 巨体のドロアロス。その大きな体を活かし太い尻尾を振り回して攻撃する。吹き飛ばされるふたり。地表に落ちたハクが同じく近くで倒れるジェラードに言う。


「ワータシ、俺の背に乗れ!」


「ハク殿の??」


 このままでは押し切られる。そう思ったハクがジェラードに言う。


「そうだ。俺の背に乗って矢を放て。とにかく今は奴の体力を削らなきゃならない!」


 少し考えたジェラードが顔を上げて返事する。


「わーかりました!! ワータシの弓もハク殿の背の上からならより効果てーき!! 失礼しますよ!!」


 そう言ってヒョイとハクの背に飛び乗るジェラード。ハクが白き翼を広げ空へと舞い上がる。空に戻って来たドロアロスがふたりを見て言う。



「何をしようと無駄なこと!! この私には勝てない!!」


 ハクの数倍もある大きな黒き体。ゆっくり羽ばたく翼も優雅にすら見える。


(純粋な力じゃ勝てねえ。だが素早さならこちらが上!!)


 ハクは背に乗るジェラードに小さく声を掛けてから突撃する。



「行くぞ、ワータシ!!」


「了解でーす!!」


 ジェラードを乗せたハクが機敏にドロイアスの周りを舞う。先ほどとは違い素早い動きにやや戸惑いを見せるドロアロス。すかさず背に乗ったジェラードが弓を構え叫ぶ。



「穿け、数多あまたなる敵を!! アイスヴァーン!!!!」


 弓を構えるジェラードの周りに現れる青き魔法の矢。彼の魔力に応じて次々と数を増やしていく。


「はああっ!!」


 ジェラードが氷結の矢を穿く。魔力を含んだ青き矢が漆黒の竜めがけて一直線に放たれる。ドロアロスが叫ぶ。


「そのような攻撃、効かぬっ!!!」


 前回ミント公国で矛を交えた両者。あの時はジェラードのアイスヴァ―ンもドロアロスの薄皮一枚凍らせるのが精一杯だった。だから今回もそう思った。だが少し違った。



 ドン、ドドドドン!!!!


 次々とドロアロスに命中する矢。標的が大きい分簡単に命中する。



 バリ、バリリリリ……


(なっ!?)


 ドロアロスは矢の当たった翼が凍り付いていることに気付き空中でバランスを崩す。



 バリン!!!


 それでも力を籠め氷結を破壊。姿勢を崩しながら再び宙を舞う。



(あの時よりも、強くなっている……)


 翼を羽ばたかせながらドロアロスは困惑した。前回戦った時よりも遥かに強く魔力が高い。


(勇者に出会ったためか……!?)


 魔王を倒すとされる勇者。その勇者に仕える『六星』は、勇者に出会ったことで何か変化が起きたのかもしれない。ドロアロスが思う。



(たった二匹とは言え、やはり『六星』。全力で潰さなければこちらがやれるか)


 漆黒竜ドロアロスが全力モードへと移行する。

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