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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
最終章「姫様が好きだったんだ。」
64/82

64.『六星』、出陣!!

 魔界。

 褐色の大地と淀んだ空気。空を覆うのは切れることのない灰色の分厚い雲。決して人間が訪れることのないこの不毛の地に、その魔王が居城を構える城がある。



「バーサス様。お呼びでしょうか」


 その魔王城最上階に立つバーサス。黒き肌に美しい肉体美。迸る筋肉が黒いつやを放ち見る者を圧倒する。長身で整った顔立ちのバーサスが言う。


「ルーズ。今日の私の肉美にくびは何点だね?」


 バーサスの前に跪く堕天使ルーズが答える。


「満点にございます」


「うむ。良きかな。今日も太陽の光は見えぬが、それに代わってこの私の美しい肉体が皆を照らすだろう」


「ははっ」


 ルーズは毎日行われるこの無意味な会話に内心辟易しながらも言う。



「バーサス様のお陰で私の怪我もすっかり治りました。ありがとうございます」


 とは言え魔王としての能力は一流。この魔界を統べるものとしての力は疑いようがない。バーサスが言う。


「ガルシアへの怨嗟は晴れたのか?」


「はい、お陰様で。ただ奴の血を引いた娘がおります」


 バーサスの頭に金髪の女の顔が思い浮かぶ。


「天使族の娘か。奴はしばらくこのまま地下牢に入れておけ。『六星』の集合は是が非でも避けなければならぬ」


 バーサスの脳裏に数百年前に敗れた勇者アルンとの戦いが蘇る。勇者の下に集結した『六星』。その相乗効果は計り知れない。ルーズが言う。


「とは言え勇者はまだあの双剣を手にしておりません。叩くなら今かと」


 バーサスが頷いて答える。


「そうだ。あの双剣が無き今こそ、勇者を破る絶好の好機。必ずや奴らはあの娘を奪還しにここへ来るだろう」


「バーサス様、私はあの娘を早く殺したいのですが」


 ルーズにとっては憎き天使族ガルシアの娘。顔を見るだけで殺意が抑えられない。バーサスが答える。


「それはできぬ。今は未覚醒の勇者。だがどんなきっかけで覚醒するや知れぬ。『六星』を殺されたと知ればそれが覚醒の機となる可能性がある」


「御意……」


 ルーズが静かに答える。



「それで、ドロアロスの方はどうなった?」


 バーサスが漆黒竜ドロアロスについて尋ねる。


「白竜戦で負った怪我もほぼ完治しました。間もなくこの魔王城へとやって参るでしょう」



「グオオオオオオン!!!!」


 そんなふたりの耳に魔王城テラスから竜の鳴き声が聞こえる。ルーズが言う。


「ちょうど来たようです。もう傷も完治しているようですね」


「うむ」


 バーサスはそう返事をしてテラスへと歩き出す。



「グオオオオン!!(我が主よ、回復が遅れたことをここに謝罪致します!!)


 魔王城のテラス。広いテラスに巨大なドロアロスが降り立つ。漆黒の皮膚。凶悪な圧。大きな翼を広げ主に応える。バーサスが言う。


「無事に白竜は倒せたのか?」


「グルルルル(はい、無事に倒せました。だが残念なお知らせがあります)」


 バーサスが言う。


「勇者のことであろう?」


「グルルルル!?(なぜご存じで!?)」


「もうすでに一戦交えてきた。だが安心せよ。未だ勇者は未覚醒。勝機は我らにある」


 ドロアロスはまだ子供の勇者の顔を思い出し答える。



「グルルルルル!!(御意、今こそ憎き勇者一行を亡ぼす好機!!)」


「間もなく奴らがここに来るだろう。してルーズ、いにしえの魔族達はどうなっている?」


 四枚の黒き翼を広げたルーズが得意げに答える。



「すべて順調です。人間共には『漆黒の魔物』と呼ばれているようで、その強さも立証済み。現在、数十体の個体の復活が終わっており、一部を人間の城へ向かわせております!」


「良き。だが心して戦え。未熟とは言え奴らは正当な勇者。その力が目覚め、『六星』が集結すれば我らとて危険。決して敵を侮るな!!」


「御意!!」

「グルルル!!(畏まりました!!)」


 ルーズとドロアロスが頭を下げてそれに答える。決戦の時は近い。魔王バーサスのその類い稀なる直観がそう告げていた。




「ウィル、ルーシア……」


 そんな魔王城の地下にある牢獄。じめじめとした暗き独房の中に、その金髪の美しい姫は囚われていた。冷たい鉄格子。小さな松明がひとつ廊下に灯るだけの暗闇。鉄格子の前に立つ漆黒のゴブリンが言う。


「お前、静かにしろ。コロスぞ」


 これまで何体か戦ってきた漆黒の魔物達。エルティアは理解した。彼らはこの魔界からやって来た特別種。目の前にいるゴブリンも小柄だが相当な強さ。魔物を前に再び体が震え思うように動けない。『飾り姫』の復活。やはり自分はウィルなしでは満足に剣も握れない。エルティアが思う。



(ウィル、初めて会った時から最後までお前に無理を言ってしまうが……)


 エルティアが目を閉じ、自分を強引に抱きかかえて助けてくれた時を思い出し心で願う。



 ――早く私を助けに来てくれ


 目を閉じたエルティアの頬に一筋の涙が流れた。






 一方、そのエルティア姫の救出の出発の朝を迎えたバルアシア王城前。ごく一部の者だけが知るこの重要任務。『六星』を中心に集まった者達の中で、その青髪の男が大きな声を上げて懇願していた。


「なぜ!! なぜこの僕が同行できないんでしょうか!!」


 それはバルアシア王国上級大将であるカミング。武芸では『無敗の両刀使い』と呼ばれ、ルーシアと並び国を代表する者。ただ今回の救出作戦には同行が許可されていない。困った顔のルーシアが答える。


「それは先にも申し上げた通り、今回の作戦は『六星』を中心にした編成。カミング殿には私が留守の間の国の守護をお頼みしたい」


 カミングが血相を変えて言う。


「そんな詭弁はもういい!! エルティア様が居ない方がどれだけ国の危機か!! 私も同行を……」



「あなた~、その実力で本気で行くつもりなの~??」


 それを聞いていたエルフ族族長ラフレインが言う。


(くっ……)


 以前彼女が来た際に王城にて敗北したカミング。ハクも続けて言う。



「あんたはここの留守だろ? それも重要な仕事だぜ」


 同じく白竜ハク。彼も瀕死の重傷を負わされた相手。苦虫を嚙み潰したような表情のカミングにハクが続けて言う。


「俺達『六星』は今でも十分強いが、勇者ウィルの下で更に強くなる。あんたも知っての通り魔王軍は強力だ。無暗に死に急ぐことはねえ」


「ぼ、僕は……」


 確かにここに集まった者達は皆強い。ハクやラフレインはもちろん、ウィルの弟である元黒騎士のアルベルト、そして少し離れた場所で副官ミチェルに叱られているジェラード公子も間違いなく強者。

 だがカミングとてエルティアへの思いは誰にも負けていない。


「それでも行きたいんだ! エルティア様の危機を知りながらじっとしていては……」



「あなたには皆の留守の間の守護を頼みます。カミング」


 そんな上級大将に、後方にいたエルティアの母である后が優しく言った。国の最高決定者の言葉。カミングと言えどもう従うしかない。


「はい、分かりました……」


 悔しそうな顔のカミングにルーシアが言う。



「必ず姫様は我々が救出する。それまで王都を頼む」


「分かった。ルーシア殿、お頼み申す……」


 悔しそうな顔で俯くカミング。ラフレインが沈んだ声で言う。



「ねえ~、そんなことよりウィルは本当に来ないの~??」


 肝心な勇者の姿が見えないラフレインが不満そうに言う。ルーシアが答える。


「ええ。それは最初に申し上げた通り、勇者の剣の修繕の為出発が遅れます」


 ハクが言う。


「なーに。魔王までの道を切り開くのが俺達の役目。それぐらいウィルなしでもやってやるぜ!!」


 つまらなそうな顔をするラフレインに変わり、ミント公国の副官ミチェルが前に出て言う。



「それでエルフの森までの移動は、ドラゴン族の皆様方にお任せすればよろしいのですね?」


 ミチェルがハクの後ろに待機するドラゴン族の精鋭を見て言う。ハクが答える。


「ああ、任せてくれ。スケルトンが出てくる入り口まで送らせて貰うぜ! グルルル……」


「グルルル……」


 ハクの鳴き声に呼応して部下のドラゴン族も鳴く。ミント公国のジェラード公子が言う。



「では早速参りまーしょう!! 早く未来の妻である姫君を助けたくてしかたありませーん!!」


 端正な顔立ち。美しい白い髪。黙っていれば絵になる公子だが話すとやはり残念な人となる。ルーシアが言う。



「では、それぞれドラゴンにお乗りください!! 出発します!!」


 その声に『六星』達が頷きドラゴンの背に乗る。




兄様あにさまの想い人。必ずこのアルが救い出して見せます!!)


 アルベルトはそう強く決意しながら、見送りに来て手を振るリリスに笑みを返す。



「出発ーーーーーーーっ!!!」


 上級大将ルーシアの掛け声で先発隊となる『六星』達が大空へと舞い上がった。

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