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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
最終章「姫様が好きだったんだ。」
61/82

61.『HI-MO計画』発動!?

「あ、兄様あにさま!!」


「ん? ああ、アルか」


 バルアシア王城廊下。ぼんやりと口を開け歩いていたウィルに向こうからやって来たアルベルトが声を掛ける。その隣にはバニースーツを着た魔族リリス。アルベルトにべったりとくっつくように歩いている。ウィルが尋ねる。


「そっちの子、ええっとリリスだっけ? もう大丈夫なのか?」


「あ、はい! お陰様で無事回復しました!」


 そう言ってリリスが頭を下げる。

 バーサスがエルティアを攫って消えた後、ウィルは怪我をした者達の回復を行った。特に致命傷の傷を受け虫の息だったリリスは優先的に治療。スライムを食べるという奇行を見せられた皆は最初驚いたが、終いにはどんどん治っていく傷を見て皆が感嘆の声を上げた。ウィルが言う。


「可愛い子だな。大事にしろよ」


「え? いえ、兄様。そう言うんじゃなくて……」


 慌てるアルベルトの横で絹のような白い顔を真っ赤に染めて目が泳ぐリリス。アルベルトは兄であるウィルに再会してから驚くほど感情が豊かになり、厭世的だった以前とはまるで別人のようになっていた。リリスが答える。


「が、頑張ります! お兄様」


 そう言ってぎゅっとアルベルトの腕をつかむリリス。だがそのアルベルトの表情は暗い。



「兄様、本当に申し訳ございませんでした。私のせいで……」


「いいって。お前のせいじゃない。悪いのは俺だ……」


 ふたりの脳裏には魔王バーサスに連れ去られた金髪の姫の顔が浮かぶ。一刻も早く助けに行きたいと思うふたりの気持ちは同じ。アルベルトが言う。


「全力を持ってエルティア姫をお救い致します。兄様の為にも!!」


「ああ、分かってる……」


 ウィルはそう言って意気込む弟の肩を感謝を込めてポンと叩く。

 アルベルト率いる魔物の軍とバルアシアら人間軍は和解した。盟主ガルシアが逝ったことでその跡を継ぐアルベルトが解散を命じた。少なくともガルシアが率いた魔物達に関しては、お互い害をなさぬ以上今後交戦することはない。アルベルトは従軍した仲間皆に礼を言い最後の別れを告げ、そして自身はバルアシア王城に残った。



(必ずや兄様の為にも姫を救い、バーサスを倒す!!)


 人間への恨みが完全に消えたわけではない。盲目的なスキル至上主義。自分達兄弟を不幸にした両親のような人間の存在。だが兄が無事であったことはそのすべてを覆すほどアルベルトを変えた。そして度重なる襲撃により罪のない人々を傷つけたことを心から後悔した。だから思う。


(これは私の贖罪だ……)


 姫を取り戻し、魔王を倒して世界に平和をもたらす。亡き盟主ガルシアが望んだ魔王のない世界。それが『六星』の使命であり、ガルシアの意を継ぐ自分の役割。そして今は尊敬する兄と共に戦えることが何よりも嬉しい。




「ここにおられましたか。ウィル様、アルベルト殿」


 そこへ銀色髪をひとつに縛った美しい騎士ルーシアがやって来る。先の戦いの疲れか、それとも仕えるべき主を奪われた悔しさか、その表情は冴えない。ウィルが言う。


「何かあったか?」


「はい。今日の午後ミント公国よりジェラード公子が来られます。夕方からは作戦会議が開かれますのでご両名のご参加をお願いします」


 黒き鎧を脱ぎ捨てたアルベルトは、赤髪の好青年。言われなければ彼が黒騎士だったなど一般の兵達は分からない。ウィルが首を傾げて尋ねる。


「ジェラード公子? 誰だっけ??」


「こ、公子じゃないですか! 白髪で弓使いの……」


「ああ、ワータシさんか。そうならそうと言ってくれよ」


「……」


 ルーシア自身、もう面倒なので彼の呼び名は『ワータシ』でいいのではと思っている。とは言え真面目な彼女。大国の公子にそのような呼び方はさすがにできない。目の前のウィルとは違う。



「あなたが羨ましい。自由なあなたが」


「ルーシア」


「はい」


 一介の『雑用係』と軍最高職の『上級大将』。ふつうなら膝を付いて会話をすべき相手なのだが、もうその必要はないと皆分かっている。ウィルが言う。



「姫様は俺が助ける。一緒に来てくれ」


「無論です。しがみついてでもあなたと共に参ります」


 ルーシアは胸に手を当て軽く会釈をしてその場を立ち去る。同じくアルベルトも胸に手を当てウィルに言う。



「私も兄様の矛となり敵を殲滅します。このアルベルトを使役ください」


 アルベルトは星のアザがある腕がじんじん疼くのを感じながら兄に忠誠を誓う。ウィルが再び肩をポンと叩き答える。


「ああ、頼むぞ」


「はい」


 ウィルは少しだけ笑顔になりその場から立ち去って行った。そして午後にジェラード公子がバルアシア王城に到着、夕刻より作戦会議が開かれた。






「やあ、皆さん。おー久しぶりでワータシはジェラード公子ですよ。ここに来られたことを光栄におーもいまーす!! でも今回のお話はちょっとゆーるせませんね!」


 バルアシア王城大会議室。そこに集められた今回の事情を知るごく一部の者達。少し遅れてやって来たミント公国の公子ジェラードはエルティアの件に強い怒りを我慢しつつも、重い空気を吹き飛ばすよう明るく挨拶をした。ジェラードの副官として同席しているミチェルが申し訳なさそうに言う。


「ワータシ様の副官ミチェルです。ワータシ様と共に今後の作戦に最大の協力をする所存です。よろしくお願いします」


 同席している皆がもう名前などどうでもいいと思いながら頷く。着席するジェラードと変わるように上級大将ルーシアが立ち上がり、皆に言う。



「ご存じの通り最悪の事態が起こりました。魔王バーサスの復活、そしてエルティア姫の拉致。バルアシアが、世界が今まさに闇に包まれようとしております」


 黙って聞く一同。ルーシアが銀色の髪を揺らし大声で言う。



「だがここに最も信頼すべき強者が集まった。ドラゴン族のハク殿、エルフ族族長ラフレイン様、ミント公国公子ジェラード様、ウィル様の弟アルベルト殿。そしてその末席に私ルーシア。これらは古の時代より『六星』と呼ばれた魔王と戦う者達です」


 席にいた皆がその『六星』を見つめる。少し前まで魔物の上級種として恐れられていた白竜ハク。その大きな姿に未だ一同の緊張は止まらない。特にハクと死闘を繰り広げたカミングの視線は決して良いものではなかった。ルーシアが言う。



「そしてその『六星』を従え魔王を討伐するべき勇者が、このウィル様です!!」


 皆の視線がルーシアの隣に座ったウィルに向けられる。パラパラと小さな拍手が起こる中、ウィルがやや困った顔で座り続ける。ルーシアが肩でウィルをつつき小声で言う。



「なぜ黙っているのですか!? ここで何か言うべきでしょうが!!」


「何かって、お前前に『俺は黙っていた方がいい』とか言ってただろ!?」


 ルーシアが呆れた顔で答える。


「あなたは本当に人間のクズだ。一度その脳みそを挿げ替えた方がいい」


「お前、マジで絶対俺のこと勇者とか思ってないだろ……」



 見かねたハクがウィルに声を掛ける。


「おい、ウィル。なんか言ったらどうだ? お前勇者だろ?」


 その言葉に反応したラフレインがハクに言い返す。


「あなたは黙ってらっしゃい! 我が主人は今言葉を選んでいらっしゃるのよ!」


「黙れ、クソババア」


「クソ……、いいですわ! 今日こそあなたのような下賤な種族と決着を……」



「皆様、お聞きください」


 そんな場の空気を一変するように后が立ち上がって言った。


「今この世界は魔帝ガルシアの脅威が消え平和な世が訪れるはずでしたが、それよりももっと恐ろしい魔王の復活が宣言されました。だが下を向く必要はありません。いにしえの勇者が魔王と戦ったときと同じく、今ここに現代の『六星』が集まってくれました」


 そう言って一同を見渡す后。そして言う。


「魔王は強大です。でもきっとここに居る勇者ウィルと『六星』の皆様方、それに我が娘が倒してくれます。私どもにできることは何でも協力します。勇者と、その仲間達に祝福を!!」


 そう言って后が拍手を始めると、その場にいた皆が合わせて手を叩く。ウィルが立ち上がって言う。



「魔王は俺が倒す! 姫様も俺が助ける!! 俺の大切なヒモ計画の為にもな!!」


 一瞬静まり返る一同。事情を知るルーシアだけが頭を抱えて首を振る。ハクが言う。


「あー、そう言うことだったのか! 『ひもひも』って言ってたから何のことだと思っていたが、魔王を倒すことが『ヒモ計画』って意味だったのか!」


「え? あ、いや、それは……」


 困った顔のウィルより先にラフレインが言う。



「素晴らしいですわ!! そんなに前から魔王討伐をお考えになっていたとは!! さすが我が夫。『HI-MO計画』、私も尽力致しますわ~!!」


「あ、だからそれは……」


 そんなウィルを遮るようにアルベルトが言う。



「兄様、不肖アルベルトも『HI-MO計画』、全力で全うします!! 兄様の手となり足となり魔王と戦うことを誓います!!」


「いや、だからお前らさ……」


 今度は后が手を叩きながら言う。



「分かりました。それでは魔王討伐作戦は正式に『HI-MO計画』と命名しましょう。皆さん、新たな作戦の下力を合わせて頑張りましょう!!」


「はい!!」


 皆が拍手でそれに応える。ウィルとルーシアだけが口を開けて天井を見つめた。

 その後、会議は具体的な作戦立案に移っていく。休憩を挟み、再び集まった皆を見渡し后が言う。




「さて、ではこれからの作戦ですが……」


 その言葉にすぐにルーシアが反応し答える。


「はい、后様。勇者ウィル様を先頭に、我々『六星』の精鋭部隊が魔界に乗り込むのが最も良いと考えております」


「魔界に? どうやってですか?」


 そう尋ねる后にルーシアが答える。


「私もずっと考えておりました。この世界から魔界につながる場所。ひとつだけ心当たりがあります」


 そう言ってルーシアがラフレインを見つめる。その意味に気付いたラフレインとハクが手を叩いて言う。



「ああ、そうか! スケルトンが湧き出てきた場所。あそこが魔界につながっているかもしれねえってことだな!!」


「そうです。可能性の問題ですが」


 ラフレインが言う。


「い~え、間違いないでしょう。あそこは確実に魔界への入り口のひとつです。エルフが保証しますわ~」


 后が言う。


「それでは三日後、魔王バーサス討伐に向けて勇者一行が出発します!! それまで皆はしっかりと体を休めておくように!!」


「はい!」


 それに一同が返事をして作戦会議は幕を閉じた。





(三日後か……)


 部屋に戻ったウィルはひとり考えた。

 エルティアのことを思えばすぐにでも行きたいのは山々だが、まず戦うための武器がない。青赤せいせきの双剣は先日グレム爺さんに預けたままだ。



「よし。明日取りに行ってみよう。場所が分からないからマリンの所に先に行くか」


 討伐隊出発までの三日。それぞれの準備が始まる。

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