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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
第四章「次はアンデッド討伐? いやそれよりあの黒騎士ってまさか?」
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58.兄様

「ルーシア!!」


「エ、エルティア様!?」


 再び城壁の外で治療を受けていたルーシアにエルティアが駆け付けて言った。


「大丈夫か!? 酷い怪我だ……」


 エルティアはルーシアの爆裂によって負傷した足の怪我を見て小さく首を振る。ルーシアが答える。


「申し訳ございません。私が居ながらこのような失態を……」


 そう言ってルーシアがバルアシア軍と魔物が入り乱れて戦う戦場や、破壊された城壁を見て嘆く。エルティアが負傷したルーシアの足にそっと触れ言う。



「心配ない。後は我々に任せておけ。お前は動くな。これは命令だ」


「はい……」


 エルティアからの言葉。ルーシアも黙って頷くしかない。


「エルティア様、スケルトンの方は問題なかったのでしょうか……?」


 そうルーシアはエルティアに尋ねつつ、後ろに立つエルフ族の族長にちらりと目をやる。その問いには族長ラフレインが答えた。



「大丈夫ですわよ~、ウィルが見事倒してくれましたの。そしてここに来たのも()としての役目。夫の活躍を見届ける為ですわ~!!」


 そう言って高笑いするラフレインにエルティアがキレそうになって言う。


「族長殿、ここは戦場。つまらぬ冗談は控えて頂きたい」


「え~、冗談じゃないわよ~。だってウィルがあんなに勇ましくぅ~」


 そう言ってアルベルトと剣を交えるウィルをうっとりとした目で見つめる。そのラフレインの服をぎゅっと掴みハクが言う。



「おい、どうでもいいが早く助太刀に行くぞ。クソババア」


「クソ……、あなたトカゲの分際で一体どれだけ失礼な……、ちょ、ちょっと放しなさいよ!!」


 騒ぐラフレインを強引に戦場へと連れて行くハク。それを見たルーシアが言う。



「大丈夫なのでしょうか?」


「ああ、問題ない。族長殿も実は『六星』だったのだ」


「なんと……」


 ルーシアは足の痛みとは別に背中に疼きを先程から感じている。


「では今ここに勇者の元に集まった『六星』が三名いるということですね」


「ああ、そうだ」


 白竜のハク、エルフ族族長のラフレイン、そして上級大将ルーシアの三名。エルティアは左胸の疼きを感じながらルーシアの言葉に答えた。



「ルーシア、あと少し聞くのだが、あれは一体どうなっているんだ?」


 エルティは上空で戦う白と黒の翼を持った天使族の戦いを指さして尋ねる。ルーシアも首を振って答える。


「申し訳ございません、私にも一体何なのか不明で……」


「白い翼のは……、魔帝ガルシアではないのか?」


「恐らく……」


 ルーシアもよく分からない。ずっと黒騎士と戦っていてもはや何が起こっているのか見当もつかない。ただ黒い翼の天使族が突然現れ、なぜか黒騎士と交戦。気が付けば今度は白い翼を持ったガルシアも現れて戦っている。

 エルティアがその戦う様子を見上げながらつぶやく。


「そうか。でもなぜだろう、懐かしい気持ちになる……」


「エルティア様……?」


 ルーシアはまだこの言葉の意味を理解していなかった。そしてエルティア自身もその意味にまだ気付けなかった。






(あれは、まさかエルティア……!?)


 その上空。黒き翼を持つ堕天使ルーズと対峙していた天使族ガルシアが、地上に現れた金髪の女性を見て思った。


(なんと美しく、成長したのだ……)


 感傷に耽るガルシア。だが自分に意識が向いて異なことに気付いたルーズが大声で言う。



「おい、私を見ろよ!! なぜ戦いの最中に意識を逸らす!? くそっ、いい加減私を侮辱するのは……」


 ガルシアは愛弟子アルベルトと戦う茶髪の少年に目をやってから答える。


「ぐちゃぐちゃとうるさいクズだ。この世には新しい芽が幾つも芽生えている。私やお前のような老害はもう消えるべきだ」


「な、なんだと……」


 ガルシアがルーズに向き合って言う。


「そして最初に消えるのはお前だ。堕天使ルーズ」


 既に『六星』ではなくなった天使族ガルシア。その残された最後の力を振り絞り目の前の仇敵に立ち向かう。






「うおおおおおおお!!!! ガルウウウウウ!!!!」


大宙そらに彷徨えし数多あまたふうの因子よ、今ここに集い、その真理たる力を発揮し果てまで飛ばせ!! ウィンドストリームっ!!!!」


 勇者固有スキル『常時発動能力パッシブスキル』の恩恵を受け全ステータスが上がったハクとラフレイン。数多の魔物軍とは言え雑兵の塊である彼らでは、勇者の下で戦う『六星』に敵うはずもなく次々と撃退されていく。


「す、すげえ!!」

「ドラゴン族に、エルフ族だって!?」


 これに驚いたのが想定外の援軍に喜ぶバルアシア兵達。カミング、ルーシア両上級大将が破れ敗北の空気が流れていた彼らにはそのすべてが力となった。

 バルアシア城壁外で行われる幾つもの戦闘。ただその中でも皆の注目を一番集めていたのは、やはり黒騎士と突然現れた茶髪の少年の一騎打ちであった。





「くぬぅ!! ギガサン……」


「はああああ!!!!」


 ザン!!!!



 距離を保ち、得意の電撃攻撃を試みるアルベルト。だがそれよりもずっと速くウィルが懐に潜り込みそれを阻止。魔法のたぐいであるギガサンダーは放つ瞬間一瞬の間ができるのだが、全集中しているウィルにとってそれは十分すぎる時間であった。



「アル、俺だ!! ウィルだ!! なんで分からねえんだ!!!」


「ぬぐぐっ……」


 我を忘れて半狂乱となってしまったアルベルト。今の彼には例えそれが実の兄であろうとも認識することはできない。それどころか目の前に映るのは『人間』の姿の敵。それがアルベルトの中に燻る復讐の炎に油をそそぐ。



「うおおおおおおおおおお!!!!!」


 突然大きな奇声を上げ剣を持ってウィルに突撃するアルベルト。ウィルもそれに黒き剣を持ち構える。


「くそっ! 分かんねえなら、徹底的に教えてやるよ!!!」



 ガン!! ガンガンガンガン!!!!!


 アルベルトの太い剣とウィルの黒き剣がぶつかり合い激しい音を響かせる。サンダーボルトで剣に雷撃付与されているアルベルトだが、ウィルは『全属性耐久スキル』を無意識に得ておりその威力を激減。雷撃の痺れは剣がぶつかり合う振動ほどにしか感じられない。



(強い、勝てない……)


 自我を忘れたアルベルトだが、本能的に戦う彼の頭にその相手の強さはしっかりと響いていた。得意の雷撃も打たせてもらえず、剣を振ってもまるで分厚い鉄の壁を叩いているような感覚。その相手を強いと感じる一方、どこか懐かしさが彼の心を包み込む。



(人間……)


 だがその視界に入るぼんやりとした相手。それは長きに渡って恨み復讐の対象としてきた人間。アルベルトの赤き髪が一気に逆立つ。



「ギガサン……」


「させねえぞ!!!!」


 雷撃を放とうとしたアルベルトにウィルが間を入れず斬りかかる。


 ザン!!!


 直撃。最高強度を誇る漆黒の鎧にひびが生えるも、アルベルトはその強力スキルを強引に発動させた。



「……ダァアアアアアアアア!!!!!」


 天に渦巻く雷雲。その自然の驚異がアルベルトの叫びに応えるように反応し、雷撃となって目の前の敵へと落とされる。



 ドド、ドンドドオオオン!!!


 アルベルト渾身の一撃。強力な相手にようやく放ったすべてを賭けた一撃。



(甘めぇよ)


 だがウィルはそれよりもずっと前にその雷撃を見上げて構えていた。


乱撃らんげき暴風漸ぼうふうざん!!」


 通常は双剣。だが今は一振りの黒剣を下から振り上げ竜巻を起こす。


 ゴオオオオオオオオ……



「なっ!?」


 ウィルが巻き上げた竜巻が、落ちかけた雷撃とその上で光る雷雲を全て吹き飛ばす。全く想定外の反撃。

 焦ったアルベルトが手にした剣でウィルに突進する。



「うわああああああ!!!!」


 ガン!!!!


 それを冷静に剣で弾き返すウィル。錯乱していたアルベルトの手から、その愛用の太い剣が後方へと飛ばされた。


「あっ、あ、うわあああああ!!!!」


 アルベルトが奇声を上げウィルに殴りかかる。ウィルは剣を地面に置き、拳を振り上げるアルベルトをじっと見つめる。



 ドフッ、ドフドフ……


 半狂乱になりながらウィルを殴るアルベルト。ウィルはなぜか一方的に殴られるまま。



(ウィル……)


 その様子を遠くから見ていたエルティアが心の中で小さくその名をつぶやく。ウィルが言う。




「……ごめんな」


(!?)


 消え入りそうな声でウィルが口にした言葉。それを聞いたアルベルトの手が一瞬止まる。


 ガバッ……


(!?)


 ウィルがアルベルトをぎゅっと抱きしめる。そして耳元で言った。



「ごめんな、アル。ずっと見つけてやれなくて……」



 アルベルトの体の力が一気に抜けていく。

 懐かしい声。懐かしい感覚。温かな抱擁、優しさ。アルベルトの中にあった幼少の頃の思い出が一気に溢れ出す。



「……兄様あにさま?」


 ウィルがより強くアルベルトを抱きしめる。


「ああ、俺だ。ウィルだ。ほんと会いたかったぞ、アル……」



「あ、兄様、兄様ぁ、生きて……」


 両膝を地面につき体を震わせるアルベルト。目が真っ赤になり涙が溢れる。ウィルが言う。



「強くなった。びっくりしたぞ」


「私は、アルは兄様に褒めて貰いたくて、ずっと頑張ってきて……」


 ウィルがアルベルトの頭を撫で、笑顔で言う。



「よく頑張った。さすがは俺の自慢の弟」


「兄様……」


 アルベルトはウィルの胸に顔を埋め子供のように号泣する。ウィルはそんな弟の頭を何度も撫でながら同じく涙を流す。

 引き裂かれた長き年月。だがそれは逆にふたりの絆をさらに強くするものとなった。

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