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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
第四章「次はアンデッド討伐? いやそれよりあの黒騎士ってまさか?」
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57.狂人アルベルト

「ギガサンダー!!! ギガサンダー!!! ギガサンダーーーーーっ!!!!」


 幼き日に敬愛する兄と今生の別れをし、両親に売られたアルベルトは、ずっと精神不安定な状態で過ごして来た。定期的に彼を襲う不眠症。それは不安や恐怖をどこにも発散できない彼の負のエネルギーが蓄積されたもの。

 そんな彼もガルシアに拾われ、リリスに心の安らぎを感じ、少しずつだが落ち着きを取り戻しかけていた。だがその彼の心を決して見たくない光景が再び破壊する。



「き、騎士様……、私は、大丈夫……」


 堕天使ルーズの衝撃弾を受け、胸に穴が空いたリリス。だが幸い急所は外れており一命は取り留めていた。しかし一刻を争う状態。すぐに魔物軍のヒーラーがやって来て治療を行う。どくどくと溢れ出る鮮血。あまりの怪我の深刻さにヒーラーの表情も曇る。



「消えろおおお!!! ギガサンダーーーーーーっ!!!」


 黒騎士アルベルトは狂ったようにその超攻撃的スキルを乱発した。



 ドン、ドドドドオオオオオオオオオオン!!!!!


「ぎゃああああ!!!」

「うわあああ!!!」


 敵味方問わず曇った天上より落とされる怒りの雷撃。その破壊力は、まるでこれまで彼が溜めた怒りや復讐のエネルギーの大きさを誇示するかのようにどんどん激しくなっていく。




「馬鹿なのか、あいつは……」


 その様子を少し離れた場所から見ていた堕天使ルーズは呆れた顔でつぶやく。怒りで我を忘れ暴走する。敵味方関係なしに雷撃を落とすその姿を嘲笑しながら見つめる。


「目障りなガルシアの手先め。この私が地獄に落としてやる!!」


 ルーズは二本指を暴れるアルベルトに向けつぶやく。



漆黒の衝撃弾(ダークネスショット)!!」


 ドキュン!!


 ルーズの指先から放たれた漆黒の弾丸がひとり暴れまくるアルベルトに向かって飛ぶ。



 ドン……


 漆黒の弾丸。静かに飛ばされたその一撃がアルベルトの肩を貫通する。急所は外したが確実にヒットさせたルーズが一瞬喜ぶ。だがそのすぐ後に彼の背筋が凍ることとなる。



「そこかーーーーーーっ!!!!」


「!?」


 我を忘れて暴れていたアルベルト。だが自分に対して悪意を持つ相手、攻撃を試みる相手に対しては頭の片隅に残る冷静さが機能した。電撃の嵐が吹く中、離れたアルベルトに睨まれたルーズが一瞬恐怖で動けなくなる。



「ギガサンダーーーーーーーっ!!!!!!」


 ドオオオオオオオオオン!!!!


「ぎゃああああ!!!!」


 これまでにない規模の雷撃。金色に染め上げた天空から落とされる怒りの鉄槌。アルベルトに睨まれ一瞬動けなくなったルーズは、その雷撃を避け切ることができず左腕に被弾。汚れた白の衣装ごと焼け爛れる。



「痛い痛い痛い!!! クッソおおお!!! こ、今度はガルシアの手下だと!? 許さない、許さなーーーーーーい!!!!」


 動かぬ左腕。雷撃で焦げた白のローブ。怒りの炎に包まれた堕天使ルーズが詠唱を始める。



「闇に彷徨えし邪の因子よ!! 今我の命に従いここに集え……」


 ルーズに集まる強大な邪の因子。アルベルトの雷撃の嵐が吹く戦場にあってもその異様さに皆が振り返る。

 ルーズは興奮していた。ガルシアの仲間をれることを。あのガルシアの慟哭する顔を拝めることに。




「やめぬかーーーーーーーっ!!!!」


(!?)


 詠唱途中の堕天使ルーズ。突如その()()に強い圧を受け息が止まる。



(な、なんだ!?)


 締め付けられる首。止まる呼吸。何者かが自分の首を握りしめ、後方へと飛翔する。



「お、お前、ガルシア!!??」


 真っ黒な肢体、純白に輝く四枚の翼。

 ルーズの首を片手で締め上げ後方へと飛翔させていたのは、憎き仇敵ガルシアであった。



「放せっ!!!」


 ガン!!!


 ルーズが掴まれたガルシアの手を振りほどく。



「はあはあ……、お前、よくのこのこ私の前に出て来られたな……」


 ルーズが首の痛みも忘れるほどに興奮する。

 天使族ガルシア。地上に降りたその生粋の天使は誰の目にも美しく気高い畏敬の対象であった。ガルシアが言う。



「ルーズか。まだ生きておったのか、お前……」


 ガルシアが堕天使ルーズを哀れんだ目で見つめる。ルーズが拳をぎゅっと握り、黒い翼を羽ばたかせながら答える。


「ああ、生きていたよ。お前に復讐するために、ずっとずっと。この顔の痛み、忘れた日はないんだぜ……」


 そう言って顔に巻かれた包帯をゆっくりと外していく。その下から出たのは顔半分が爛れ崩壊した醜き姿。無表情でそれを見つめるガルシアにルーズが言う。


「お前にやれたこの傷、ずっと痛むんだよ……。堕ちた私に天使おまえの傷は治せない……、分かるか? この屈辱が……」


 ガルシアは愛弟子アルベルトがひとり暴れる姿を横目で見ながら答える。



「私の大事な仲間が取り乱している。悪いがお前などに付き合っている時間はない」


 ルーズが引きつった顔で笑いながら言う。


「なあガルシアよ。元同じ天使だから言っておいてやるぜ。今のお前じゃもう何もできないだろ? だってお前、もう『六星』じゃないんだろ??」


「……」


 ガルシアはできるだけ冷静に務めた。

 数百年前、勇者アルンと共に戦い目の前のルーズを含めた魔王軍を倒した。だがそれも過去の話。時が流れ、天使族と言えども老い力を失った。当時の仲間も先日の白竜ワイトを最後に誰もいなくなった。だから求めた、早急に勇者を。目の前の邪を打ち倒す新たな力を。ルーズが言う。


「私もバーサス様復活前は随分力を失っていたよ。でも魔王様は復活された。お前達が倒しきれなかった魔王様が私に新たな力を授けてくれた!! ああ、いい。こうしてまたお前に相まみえ、今度は私が蹂躙できるこの世界が!!」


 ルーズは恍惚の表情を浮かべ涎を垂らしながらひとり話す。ガルシアが答える。



「よく喋るクズだ。お前ごとき、今の私で十分やれる」


 そう言いながらもその視線は気が狂ったように暴れる愛弟子アルベルトに向けられる。それを見たルーズが奇声を上げる。


「おい、こっち見ろよ、こっち見ろよ!! キィーーーーーー!!! ブッ壊してやる、ブッ壊してやるぞォオオオオオ!!!!」



(すまない、アルベルト……)


 数百年前の因縁。復讐の塊となった堕天使を前に、ガルシアは愛弟子の救助に向かうことができなかった。

 そしてそんな純白の翼を持つ天使を、バルアシア城最上階からひとりの女性が見つめていた。



「ガルシア……」


 その気品高き淑女。バルアシアの后は、戦場に現れた天使族の男を見て涙を流した。






「ギガサンダーーーーー!!!!!」


 ドン、ドドドドオオオオオオン!!!!


「うわあああ!!!」

「ぎゃあああ!!!!!!」


 主であるガルシア登場にも拘らず、アルベルトは我を失ったまま暴れ続けた。


「ギガサンダーーー!!! 壊れろっ、ギガサンダーーーーーっ!!!」


 超強力スキルの乱発。既に敵味方死傷者多数。その破壊は王都バルアシアの城壁にまで及んでいた。

 無差別な雷撃に逃げ惑うバルアシア王兵達。狂ったように暴れるギガサンダー使いに一般兵が対処することなど不可能であった。



「くそっ、私が居ながら、この無様な様は……」


 城壁近くで仰向けになって治療を受けるルーシア。ここも危険だと治療兵から移動を勧められる。だがルーシアはそれを首を振って拒否。戦場で赤き髪を逆立て雷撃を落としまくる敵を睨み小さく言う。


「この身が砕けようとも、あいつを止める……」


 そう言ってオリハルコンの棒を杖のように地面につき、ゆっくりと歩き始める。スキルの特性上接近戦が絶対有利のルーシア。それを可能にしていたのが彼女の機動力。疲れを知らない名馬と共に俊敏さが彼女の武器であった。


「ル、ルーシア様!! 無理です、今は治療を!!」


 それでもルーシアは黙って敵に向かって歩みを進めた。バルアシアの危機。その使命から盲目的にその狂人へと向かう。



「!?」


 だがそんなルーシアでさえ、怒りの頂点に達したアルベルトの攻撃を前に思わず立ち尽くした。



「許さない、許さない……、この私をすべてを捨てて全部ブッ壊す……」


 赤い髪は逆立ち、その澄んだ瞳も怒りで真っ赤に染まる。

 そんなアルベルトが深く何度も呼吸をし、持てる力を超えて電撃攻撃に集中する。王都の空が金色に染まる。ゴロゴロと雷を帯びた雷雲が一面に広がり、そして集結し始める。



「あれはまずい……」


 オリハルコンの長棒を支えに天を仰いだルーシアの顔が絶望の色に染まった。これまでとは桁違いの雷雲。地表にいる皆がその電気をすでに感じている。



「やめろ!!! アルベルトーーーーーっ!!!」


 堕天使ルーズと戦うガルシアもその巨大な力に気付き叫ぶ。あれではこの辺りにいる皆が死ぬ。だがそんなガルシアの声も狂ったアルベルトには届かない。



「ミンナ、壊れろよ……、ギガサンダー」


 目の焦点も失ったアルベルトが小さく最後の電撃を命じる。

 轟く雷鳴。一か所に集まった雷雲が轟音を放ち、そしてその巨大な電撃が天から落とされた。




「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」



 もうダメだと思った。皆の絶望の眼差しがその巨大な雷撃に向けられる。

 だがそんな雷の塊に、真っ白な一筋の光が勢いよく飛んでいく。



 ドドドドオオオオオオン!!!!


 その白き光から飛び出した()()が雷撃を空中で破壊。唖然とする皆の前で地表に降り立ったその茶髪の少年は、全力でアルベルトに向けて走り叫ぶ。



「なにやってんだよ!!!! アルーーーーーっ!!!!」



 ドオオオオン!!!!


 右拳。

 少年の渾身の力を込めた右の拳が意識のなかったアルベルトの頬に打ち込まれる。吹き飛ばされるアルベルト。天を仰ぎながら突如感じた顔の痛みに薄ら笑いをしながら言う。



「殺す。ゼンブ、殺す……」


 ゆっくりとアルベルトが起き上がる。その顔に表情はなくもはや廃人のよう。対峙する()()()が剣を取り小さく言う。



「クッソ馬鹿な弟だ。俺が分からねえのか? いいぜ、この兄が、稽古つけてやる!!!」


 アルベルトとウィル。十数年振りの兄弟稽古がここに始まった。

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