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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
第四章「次はアンデッド討伐? いやそれよりあの黒騎士ってまさか?」
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51.援軍到着

 バルアシア王国を出たウィル達。行軍は順調に進み、ハク達ドラゴン族が棲む森までやって来た。


「いよー、ウィルじゃねえか!!」


 バルアシア軍を迎える新白竜のハク。純白の翼を大きく広げてウィルの訪問を歓迎する。エルティアが軽く会釈して言う。


「ハク殿、お久しぶりです。皆の怪我の具合はいかがでしょうか?」


 ウィルと抱き合って再会を喜ぶがエルティアに言う。


「姫さん、相変わらず堅てぇなあ。もっと気楽にしてくれればいいぜ!」


「あ、ああ。ありがとう……」


 一国の姫、エルティアの性格を考えればこれでも気楽に接したつもりであった。ハクが言う。



「みんなのお陰でだいぶ仲間も良くなってきた。感謝するぜ!」


「いえ、それは我々の務め。だがそう言って貰えると有難い」


 やはり堅いエルティア。ハクがウィルに尋ねる。



「ウィル、スケルトン退治に行くんだろ?」


「ん? 何で知ってるんだ??」


 ハクが大きな口を開けて笑いながら答える。


「ああ、そりゃよお、エルフの族長さんが顔色変えて救援求めて来たしな! それにバルアシアから主力を送るって聞いたから絶対お前が来ると思ったぜ!!」


「ラフレイン殿がここに来られたのか?」


 やや驚いた顔でエルティアが尋ねる。


「そりゃそうだろ。一応同じ森の住民だしな」


「そうだな……」


 少し考えれば当然の事。ハクがウィルに近付いて尋ねる。



「それよりよぉ、ウィル。そのスケルトン退治、俺も連れて行ってくれ!」


「は? いいのか、お前」


 ハクはまだ子供っぽいところはあるが、一応若くても族をまとめる白竜。まだ怪我をした仲間が多くいる状況で彼が抜け出すことに問題はないのか。エルティアが言う。


「ハク殿、さすがに今貴殿がここを留守にするのは……」


 ハクが翼を広げ答える。


「いいんだよ! ウィルが行くって言うのに俺がここでじっとしてられる訳ねえだろ! さっ、乗りな。ウィル!!」


 そう言ってウィルの襟首を掴んでいきなり背に乗せるハク。同時に翼を広げ舞い上がるハク。エルティアが慌てて駆け寄り足を掴んで言う。


「ま、待て!! 勝手にふたりだけで行くな!! 私も行くぞ!!!」


「お、おい。ちょっと待てって!? こら、ハク!!」


 ハクは足に掴まったエルティアも一緒に背に乗せどんどん空へと上昇していく。エルティアが前に座ったウィルにしがみつき大声で言う。



「まったく何を考えているんだ!! お前らは!!」


「あはははっ! いいじゃねえか、姫さん。俺りゃウィルと一緒に戦えて嬉しいぜ!!」


「まあ、俺も早く帰って豊穣祭の準備を手伝えって言われてたしな……」


 基本『雑用係』のウィル。今回の遠征前も上官である黒ひげに早く帰って来て祭りの準備を手伝えと言われていた。エルティアが尋ねる。


「わ、私と一緒に行く祭がそんなに楽しみなのかーー!!??」


「え? なに、姫様聞こえないよ!!」


 空の中、ハクの羽ばたく音と風を切る音がふたりの声をかき消す。ハクが叫ぶ。



「しっかり掴まってろよ!! 飛ばすぜ!!!!」


「うわあああ!!!」


 ふたりを乗せた白き竜は、全力でエルフの森近くへと飛んで行った。






 一方そのエルフ族の里では大きな事件が起きていた。


「ぞ、族長!! 大変です!!!」


「どうしたの~??」


 ドラゴンの巣とバルアシア王国。二か所の訪問を終えて里でゆっくりしていた族長ラフレインは、慌ただしくやって来た従者をやや不満そうな顔で見つめた。従者が言う。



「ス、スケルトンの大群と、超大型のスケルドラゴンが出現し、暴れております!!」


「え?」


 これにはさすがのラフレインも顔色を変えた。

 スケルトンの群れならまだ追い払うことも可能である。だがスケルドラゴン、しかも超大型となるとドラゴン族の手助けがないと最悪里の崩壊につながる。ラフレインが従者に言う。


「すぐに竜族とかげちゃん達に援軍要請して!!」


「はっ!!」


 続けて言う。


「精鋭を揃えて迎え撃つわよ。私も行く。足止めぐらいはしなきゃ!!」


「かしこまりました!!」


 従者が頭を下げ退室していく。ラフレインは透け透けの服のまま大きな杖を持って外へと駆けだした。




「これは……、ちょーヤバいじゃん!!!」


 里の外れの巨木の上に立ったラフレイン。境界線を越えて多くのスケルトンが不気味な唸り声を上げながらゆっくりと押し寄せて来る。

 そしてその後方には、エルフの里の巨大な神木よりも更に大きなドラゴン型のスケルトン。漆黒のスケルドラゴンがゆっくりとこちらに向かってやって来ている。


「あんなのに襲われた里なんてあっと言う間にやられちゃうわよ……」


 何が起きたのか。見たこともない巨大な漆黒のスケルドラゴン。離れていても感じる邪悪な圧。エルフの族長としてこのままでは蹂躙されると感じ皆に命令を下す。



「戦えない者は安全な場所まで避難して! 戦える者は全力で撃つわよ!!!」


「はっ!!」


 周りの木々に上ったエルフ達が一斉に魔法の詠唱を始める。


そらに彷徨えしえんの因子よ、集え!! ブレストファイヤー!!!!」

そらに彷徨えしふうの因子よ、集え!! ウィンドストリーム!!!!」


 魔法が得意なエルフ達。対魔法に強い耐性を持つスケルトン達に向かって次々と魔法が放たれる。



(端っから全力で行かなきゃいけないわね……)


 大きな杖を体の前に出し、そのままふわりと宙に浮く族長ラフレイン。そして静かに詠唱を始める。



大宙そらに彷徨えし数多あまたえんの因子よ、今ここに集い、その真理たる力を発揮し……」


 周りにいたエルフ達が族長の詠唱を耳にし、思わず振り返る。周りの空気がぼっと音を立て燃え始め彼女の頭上の空が朱色に染まっていく。ラフレインが杖を振り掲げ叫ぶ。



「果てまで堕ちよ、メテオフレイムっ!!!!」



 ゴオオオオオオオ……


 エルフの里上空に集まった朱色の雲。その切れ間から灼熱に燃え滾る隕石が出現。ラフレインの号令と共にそれが漆黒のスケルドラゴンの頭上へと堕とされる。



 ドオオオオオオン!!!!!


 直撃。巨体のせいで動きが遅いスケルドラゴンは、ラフレインの放った隕石魔法を避けることなく直撃を受けた。


「よし!!」

「やったぞ!!!」


 周りで喜ぶエルフの戦士達。スキル『全属性魔法』の持ち主であり、上級魔法使いでもある族長ラフレイン。その彼女の最上級魔法を直撃して無傷でいられる魔物はいない。森に燃え立つ火柱。その強力な火力で周りの木々も勢い良く燃え始める。



(……うそ?)


 だが魔法を放った当人は全く違った感覚に陥っていた。

 魔法を使う者だけ分かる()()()。直接触れなくてもどの程度対象物に効いたかぐらいは感覚で理解できる。ラフレインが叫ぶ。



「逃げて!! すぐに全員避難して!!!」


「え?」


 族長の魔法を受け燃え上がるスケルドラゴン。なぜ逃げる必要があるのか。そんな皆の疑問はすぐにその黒煙の中から現れた黒き骨竜を見て理解した。


「ま、全く効いていないだと!?」

「どうなってるんだ!!??」


 スケルドラゴンはまるで何事もなかったかのように里へと近付く。ラフレインが叫ぶ。



「逃げて!! とにかくみんな逃げてっ!!」


 ラフレインの声に応えるようにエルフ達が里の中へと逃げていく。続けて足止めしようと魔法を詠唱する。



「天より降臨しす数多あまたせいの因子よ、今ここに集い、その真理たる力を発揮せよ!! ホーリーレインっ!!!!」


 先程とは打って変わって天に輝く銀色の雲。そこからまるで槍のように聖なる光がスケルドラゴンに落とされる。



 ドン!!! バキン!!!!!


「なっ!?」


 死霊が苦手とする聖属性攻撃。その光の槍が漆黒のスケルドラゴンに当たり音を立てて砕かれる。



 ドン!! バキバキバキ!!!!!


「きゃああ!!」


 その間に里の境界線まで迫ったスケルドラゴン。巨大な尻尾を振り回し里の破壊を始める。



「痛ーーーーい!! あんなの無理無理っ!!!」


 巨木から振り落とされたラフレインが思わず弱音を口にする。従者達がラフレインの元に来て言う。


「一旦後退を!! 体勢を立て直しましょう!!」


「そうね、あれを食い止めるにはどうすれば……」


 里には魔物が侵入できない強力な結界が張ってある。死霊の汚染は防げないが、結界がある以上多少は時間を稼ぐことはできる。ラフレインは従者と共に一旦里中心地へと後退した。




「族長!! 白竜様が応援に駆けつけてくれました!!」


 里中心に戻ったラフレイン。

 そんな彼女に従者が予想よりもずっと早い吉報を伝える。


「ほんとぉ!? やったわ!!」


 喜ぶラフレイン。すぐにその目に大空を舞ってくる一体の白き竜の姿が映る。



(え? 一体だけなの??)


 多数の援軍だと思っていたラフレイン。予想に反して里に舞い降りて来たのはたった一体の白竜に人間ふたり。エルフ達が集まり見守る中、地面にゆっくりと羽ばたきながら舞い降りた白竜が翼を収めて言う。



「よお、族長さん。来てやったぜ!」


「あ、ありがとう。でも、え? それだけ……?」


 戸惑うラフレインに白竜のハクが言う。



「なに言ってんだ。最強の援軍じゃねえか」


 そう言って自分の背から降りたウィルの背中をドンと叩く。


「痛っ! 何すんだよ!!」


 それに笑って応えるハク。ラフレインの期待とは裏腹に現れた目の前の茶色の少年が、先に街道であった最低ランク冒険者だと気付くのに時間は掛からなかった。

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