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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
第三章「政略結婚とか言うので原因のドラゴンを何とかします」
38/82

38.新たな共闘作戦開始!!

「ミント公国への漆黒のドラゴン襲撃が確認され、その迎撃に長老が向かわれました!!」


 それを聞いたハクの白い顔が真っ青になる。老齢でほぼ寝たきりだった長老。それが飛び立って向かうとは。ドラゴンが伝令に尋ねる。


「漆黒のドラゴンとは一体何なのだ!?」


「わ、分かりません。だがとても大きく巨大で、応戦しているミント公国もほぼ壊滅状態でした!!」


「そんな……」


 それを聞いていたミント公国の副官ミチェルが崩れ落ちそうになる。ハクが部下達に言う。



「すぐに俺達も向かうぞ!!」


「は、はい!!」


 そう答えるドラゴン達だが、皆既に満身創痍。このまま連れて行ったとしてどこまで戦えるのか。そんなハクがふと思い出す。



(ちょっと待て。漆黒のドラゴンって確か……)


 ハクは幼い頃から聞いていた長老の勇者との戦いの話を思い出す。そこに魔王の側近として出て来た竜がいた。漆黒の竜。同じドラゴンなのになぜ悪いことをするのか幼いハクには不思議であった。


(漆黒竜ドロアロス……、もしそれが本当ならば……)


 長老が勇者と倒した魔王の側近。その復活を知れば白竜である長老が黙っているはずがない。



「ならばやっぱ俺が行かねえと……」


 そうひとりつぶやくハクの翼をじっと見ていたルーシアが言う。


「白竜殿。その翼にある星のアザ、もしや……」


 そう言われたハクがルーシアをじっと見つめる。やや警戒しながら小さく答える。



「ああ、俺は『六星』ってやつだ。よく分かんねえけど、勇者を助ける存在だってよ」


 やや面倒臭そうに答えるハク。それを聞いたルーシアが目を輝かせて言う。


「そうか! 私もそうなんだ!!」


 そう言って来ていた鎧を外し服を捲り上げハクに背中を見せる。驚いたミチェルが言う。



「ル、ルーシア様。そのようなこと女性が!!」


「……なるほど」


 人間の女の肌など全く興味のないドラゴン族。そのドラゴン族の盟主ハクがルーシアの背中の星のアザを見て深く頷く。


「確かに俺のと同じだ。だからなのか? さっきからこの翼のアザがずっと疼いてやがる」


 ルーシアが笑って首を振り答える。


「それは違う。我らのアザが疼くのは勇者様が現れた時。そう、ここにウィル様がいるからだ」


「おいおい。それじゃあなんだ。このガキが勇者様だと言うのか?」


 やや苦笑しながらハクが尋ねる。ウィルが慌ててそれに答える。


「あ、あのな! 俺はな……」


「そうです!」


 ウィルが何か言おうとしたのを遮りルーシアが続ける。



「ここにいるウィル様は勇者なのに『ヒモ』になりたい等とほざく救いようのないクズ男ですが、残念なことに彼が勇者なのです。ほんと残念なのですが!!」


(来たーーーっ!! 全力、俺否定!!)


 もはや笑うしかないウィル。それにミント公国のミチェルが続けて言う。


「私もそう思います。ウィルさん、でしたか? その双剣はどこで入手しましたか?」


 そう言ってミチェルがウィルの腰にある青赤せいせきの剣を指さす。驚くウィルが答える。


「え? これか? これは洞窟の奥で拾ったんだけど……」


 古く錆び付いたような古剣。とても切れ味が良いとは思えないが『折れない』と言う一点でウィルはずっと愛用している。ミチェルが言う。


「伝承にある勇者様もウィルさんと同じように赤と青の二本の剣を使っていたと記載されています。偶然にしてはおかしくないですか?」


「し、知らねえよ。たまたまだろ……」


 どんどん外堀が埋められていくような感覚になるウィル。こんないい加減な自分が勇者なはずがない。そう言いたいのだが皆の視線がそれを否定する。



「ハク、とか言ったな。頼みがある」


 そんな中、エルティア姫が一歩前に出てハクに言う。


「な、何だよ……」


 先程まで戦っていた相手。自分が石にした相手。エルティアが言う。


「私も漆黒のドラゴン討伐に参加させて欲しい」


「は?」


 それを聞いたウィルが口を開けて驚く。じっと黙ってエルティアを見るハク。ウィルが言う。


「ちょ、ちょっと姫様、マジで言ってんの……??」


「ああ。本気だ。その代わりハクよ。石になった仲間の戻し方があれば教えて欲しい」


「……」


 黙り込むハク。ルーシアもそれに応えるように前に出て言う。



「無論、私も一緒に行きます」


「ありがとう。ルーシア」


 金髪と銀髪の美女ふたりががっちりと手を握り合う。そしてウィルを見てふたりが言う。



「ウィル。もちろんお前も行くのだろ?」

「それは当然ですね。この流れで行かないと言ったら『ただのクズ』が『キング・オブ・クズ』に昇格するでしょう」


(おい、ルーシア!! 真顔で人の存在自体を否定するのやめろ!!!)



 ハクが言う。


「俺もウィルには来て欲しいと思っていた。あんたが何者かは知らねえけど、強さだけは本物だ。それ以外は知らねえが」


(おいおい! こいつもルーシアに毒されたキャラになりつつあるぞ!!!)



「ウィルさん。私からもお願いします。我が主であるワータシ様をお助けください」


 副官ミチェルも両手を合わせてウィルにお願いする。ウィルがため息をついて答える。



「あー、もう分ったよ。ま、どっちにしろ姫様が行くって言ったら俺も行かねえといけないけどな」


「な、なんだ、ウィル。そんなにこの、わ、私と一緒に居たいのか?」


 思わぬ言葉に自分でも思いがけない言葉で返すエルティア。ウィルが答える。


「そりゃそうだろ。姫様いなくなったら誰のヒモになればいいんだよ?」


「ふっ、まあそうだな」


 それを聞いたハクが部下から()()()を受け取りウィルに渡す。



「そら、ウィル。そんなに欲しけりゃくれてやるよ。持ってけ」


「……え?」


 ハクがウィルに渡した物。それを見たウィルが尋ねる。


「おい、これなんだ?」


「何だって、()、じゃねえか。欲しいんだろ?」


 ドラゴン族が生活で使う麻で作った特製の紐。それを渡されたウィルが怒って言う。



「こ、こんなヒモじゃねえって!! 俺が欲しいのはな……」


 そんなウィルの襟をハクが掴んで言う。



「他の紐が欲しけりゃ後でやるよ。今は急ぐ。早く乗れ!」


「え?」


 そう言ってハクはそのまま自分の背にヒョイとウィルを乗せる。そして皆に言う。


「お前達も俺の部下の背に乗って行け。遠慮するな、ここにいるのは精鋭達。速さも一流だ!!」


「うむ。では遠慮せぬぞ!!」


 そう言ってエルティアにルーシア、副官ミチェルがそれぞれ竜の背に乗る。エルティアが部下に支えられたままのカミングに言う。



「お前はバルアシアに戻ってこのことを伝えてくれ。あとしっかり体を休めろ」


「は、はい……」


 自分なりに精一杯頑張った。だがやはり大事なところでまた力になれない。カミングはまだ力の入らない体を見て悔し涙を流す。ハクが言う。



「じゃあ行くぞ。ウィル、しっかり掴まってろよ!!」


「ああ、分かった!! 頼むぞ!!」


 そう言ってウィルがハクの背中をポンと叩く。



(え?)


 そこにいたルーシア、エルティア、そしてハクは体の底から力が漲って来るのを感じた。常時発動能力パッシブスキル、ウィルが仲間と認めた者の能力を向上。特に『六星』と呼ばれる従者にはその効果は絶大となる。



(なんだこれ!? 力が溢れてる!! これなら一気に長老のところまで飛べる!!)


(ああ、疼く……、ウィル様と一緒に居ると、背中がこんなにも心地良く疼く……)


(この左胸の衝撃は一体何なんだ……、疼く快感。そして溢れる力……)


 ハクにルーシア、そしてエルティアが満ち溢れるエネルギーを前に興奮し始める。翼を大きく広げたハクが叫ぶ。



「行くぞ!!!!」


「グルウウウウウ!!!!」


 それに呼応する部下のドラゴン達。そして舞い上がる一行。ぐんぐんと空へと上昇する。



「すっげえ高けえ!!!」


 興奮するウィル。ハクが笑いながら言う。


「そうだろ!! 凄いだろ、ドラゴン族は!!」


「ああ、すげえな!!!」


 満足そうなハクは眼下に広がる森を見て大きく息を吸ってから言う。



「これで元通りだ!! ゴオオオオオオオ!!!!!!」


 ハクの口から吐き出される白いブレス。それがあっという間に森を覆うように舞い降りていく。


「綺麗……」


 太陽の日差しを浴びてキラキラと輝くハクのブレス。ウィルが尋ねる。


「何やったんだ?」


「ああ、石化解除のブレスだ」


 見ると石にされた兵士達の石化が次々と解除されていく。ウィルが泣きそうな顔で言う。



「おい……、そんな便利な方法があるなら先に言ってくれよ……」


 先程、死ぬほど不味いスライムを生で食べてエルティアの治療をしたウィル。今思い出しても吐き気を催す。ハクが大声で言う。



「あー!? なに?? 何だって?? 聞こえねえ!! さあ、行くぞ!!!」


「うわ、ちょっと待てって!!」


 急に加速してミント公国を目指すハク。ウィルは振り落とされないように必死にその白い背中にしがみつく。新たな共闘作戦がここに開始された。

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