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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
第三章「政略結婚とか言うので原因のドラゴンを何とかします」
37/82

37.姫様復活!

(こいつは一体何者なんだ……)


 見た目は子供。先ほどまで戦っていた青髪の魔法騎士の方がずっと強そうに見える。だが、対峙した時からずっと体が小刻みに震えている。まるで何かの本能が『そいつと戦うな』と告げているように。そしてハクは自分の翼をじっと見つめる。



(アザが、疼きやがる……)


 純白の翼に浮かび上がった星形のアザ。長老の話では自分は勇者を支える従者『六星』のひとりだという。ハクがウィルを見つめる。


(こいつが勇者? 馬鹿言ってんじゃねえ!!)


 見た目で相手を判断するハクの悪癖。相手は少年。白竜である自分が負けることなど考えられない。




「ルーシア」


「はっ!」


 背中を向けたまま立つウィルの後ろで、名を呼ばれたルーシアが片膝をついて答える。その姿に驚くカミングをよそにウィルが言う。


「他の連中の救助を頼む」


「かしこまりました」


 ルーシアが軽く頭を下げ立ち上がる。カミングが首を振って言う。


「な、何やってるんだ!? こんな雑用係に……」


 軍部最高職である上級大将。その彼女が底辺職である雑用係に頭を下げその指示を受ける。歩き出すルーシアが不満そうな顔をするカミングの腕を掴み言う。



「お前もその怪我を治してもらったんだろ? あれが国ではなく、()()と言う単位で私が仕えるお方だ」


「世界!? 一体何の話で……」


 まだ納得いかないカミングの腕を掴み、ルーシアは黙って各地で撤退しながら戦う連合軍の救助に向かう。





「姫様、石にしやがって!!! 俺のヒモはどうするんだよ!!!」


 目を充血させてハクに叫ぶウィル。一方のハクはその意味が分からず戸惑う。



(紐? 一体何のことを言っているんだ?? 紐が欲しいのか……?)


 人間の言葉を話すドラゴン族。ただそんな彼らも『ヒモ』などと言う卑賎な言葉は知らない。ウィルが右拳を振り上げ叫ぶ。



「許さねえ!! うおおおおおお!!!!」


 突撃。動体視力の優れたドラゴン族ですら捉えるのが精一杯の動き。だが人間の拳程度に白竜が負けるはずがない。ハクは瞬時に純白の翼で体を覆うようにカードする。


(白竜の翼の硬度は鋼鉄以上。素手で殴るなど、あまりにも……)



 ドンドンドン、ドドドドン!!!!


「ぐっ、ぐわあああああああ!!!!」


 ウィルの拳が次々とハクの翼に打ち込まれる。

 完全に油断したハク。その想像以上の破壊力に鋼鉄の強度を誇る翼が折れそうになる。



(な、何なんだ、こいつは!!!)


 たまらず後方へと逃げるように後退するハク。小柄なのに力では勝てない。ハクは動揺した。


(な、ならば……)


 ハクが大きな口を開けて息を吸う。それを遥か後方で見ていた副官ミチェルが言う。



「あ、いけない!! あれはブレス!!!」


 突如現れたバルアシアの援軍。その得体の知れない少年に見入っていたミチェルが顔を青くする。



(白竜を圧倒するあの子、だけどあのブレスは……)


 戦況が変わりかけたこの戦いが、再び劣勢になってしまう。ミチェルが叫ぶ。


「気を付けて!! それ石化ブレスよ!!!!」




(遅い! 最大出力は無理だが、こいつひとりなら!!!)


 ハクのブレイクブレス。広範囲に石化の息を吐く特別スキルだが、一度使ってしまうと石化ガスの充填に長時間必要となる。先ほど放ったばかりのブレイクブレス。この状況で再度使用することはハクの体にもとても大きな負担であった。


(だがそんなことは言ってられねえ!!!)



「ブレイクブレス!! グハッ!!!!」


 ハクが絞り出すように吐き出したブレス。もうそれは息と言うよりはピンポイントでウィルを狙った石化ガスを含んだ小型の空気砲に近かった。



 シュルルル……、ボフッ!!


 グレーの石化ガス。それが高速で飛びウィルに直撃する。ハクがガッツポーズを作り言う。


「よし、当たった!! これでお前も石だ!!!」



「ああ、当たっちゃった……」


 それを見ていたミチェルが落胆した声を出す。もしかしたら形勢逆転できたかもしれない不思議な助っ人。ミチェルの目に足元から徐々に石化する茶髪の少年の姿が映る。




「石化ねえ……」


 徐々に石になっていく体を見ながらウィルがつぶやく。ハクが言う。


「あはははっ!! これでお前も終わりだ!! この俺が人間などに負けるはずが……」



「はあっ!!」


 バキン、バキバキン!!!



「……え?」


 石化するウィルの体。だが彼はそれをなぜか気合で破壊する。ウィルが言う。




「石化ね。確かに厄介だったよ、最初は」


 ウィルが『黄泉の洞窟』で受けた石化攻撃を思い出す。

 初めて受けた石化。それは小さな兎ぐらいの魔物であった。戦闘力が低いため油断したウィルがその異常状態攻撃を受ける。


(やべ!! これ、体が……)


 そうこうしている内に全身が石となり全く動けなくなってしまった。その後数週間。意識はあるものの何もできない時間が過ぎていく。そしてその瞬間は不意に訪れた。



(はああああああ!!!!)


 固まったまま気合を入れるウィル。すると体がそれに応じた。



 バリン、バリバリン!!!!


「はあ、はあはあ……」


 どうやったかは知らない。気合で石を砕いた。それ以降石化は()()()()()と言う認識になった。





 ウィルが拳に力を込めてハクに言う。


「もう一度言う。俺のヒモへの道は……」



(こ、殺される……)


 逃げなきゃいけない。

 だが全身恐怖に駆られたハクは身動きひとつできなかった。ウィルが一瞬でその懐まで来て叫ぶ。



「誰にも邪魔させねえんだよ!!!!!」


 ドオオオオオオオン!!!!



(あ、負けた……)


 声も出なかった。

 成すがままに吹き飛ばされたハクが青い空を見ながら思った。もう何か根本が違う。対峙して最初に感じた『戦ってはいけない』と言う本能の忠告。やはりそれは正しかった。



 ドン……


 吹き飛ばされたハクが仰向けに落ちる。周りにはそれを驚いた目で見ていたドラゴン達が集まる。


「ハ、ハク様!!」

「お気を確かに!!!」


 仲間の声を聞きながらハクが小声で言う。


「大丈夫だ。おい、この戦、もう止めるぞ……」


 盟主ハクの敗北。もうこのまま戦ってもドラゴン族に勝ち目はなかった。





「ウィル様!!」


 そこへ味方の救助を終えたルーシアが戻って来る。仰向けに倒れたハクを見て頷いていう。


「敵将の討伐、お見事です」


「え? ああ……」


 そう答えるウィルの表情は暗い。ルーシアが鞄から取り出したスライムの麻袋を手渡して言う。



「もう一体残っています。エルティア様をお救いください」


 それを受け取りながらウィルが答える。


「他人に状態回復はやったことないなけどな……、まあやってみるか」


 そう言いながら渋い顔をしてスライムを取り出す。




「あ、あの!!」


 そこへ幼いが利発そうな女の子が駆けて来る。ルーシアの前で深く頭を下げて自己紹介する。


「私はミント公国公子付き副官のミチェルと言います! あの、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか……」


 幼いのに礼儀正しく品のある話し方。ルーシアが答える。


「私はバルアシア上級大将ルーシア。聞きたいことは一体?」


 ミチェルは石になったエルティアの元へ歩くウィルの、その腰につけられた青赤せいせきの双剣を凝視しながら尋ねる。



「あの方は……、勇者様、でしょうか?」


 一瞬驚いた表情をするルーシア。そしてすぐに答える。


「ああ、そうだ」



 そんなふたりが石化した姫に手をかけるウィルを見つめる。


「治れっ!!」



 一瞬の静寂。そして石の割れる音が皆の耳に響いた。


 パキン、パキパキ……



 そして音を立てて崩れ落ちる石片。その下から金色の髪が美しいエルティアが現れた。


「姫様っ!!」


 安堵したウィルが名前を呼ぶ。エルティアの目に溜まる涙。そして大声で言う。



「ウィル!? うわあああん!! 怖かったよーーーっ!!!」


 そう言ってウィルに抱き着くエルティア。突然の号泣に抱擁。戸惑うウィルが抱きしめ返して言う。


「姫様、良かったな」


「うん、うん……」


 その様子を微笑ましく見つめるルーシア。兵士に支えられながらやって来たカミングは、対照的にそれを不満そうに見つめる。ウィルが言う。



「姫様、もうこんな危ないことはしないでくれ。俺のヒモ主なんだし」


「ああ。でもきっとお前が助けに来てくれると思っていたぞ……」


 少し落ち着きを取り戻したエルティアが涙を拭きながら答える。





「ひとつ、教えて頂きたい!!!」


 そこへウィルに殴り飛ばされたハクが数体の部下と共にやって来た。


「き、貴様!!」


 オリハルコンの長棒を構え警戒するルーシアを手で制し、ウィルが尋ねる。



「何だよ?」


 ハクが軽く会釈して尋ねる。


「お前ほどの力があれば、この俺を()()できたはず。なぜしなかった?」


 ハクが感じていた違和感。そのひとつが自分を殺さなかったということ。ウィルが頭を掻きながら答える。



「ああ、それはお前から悪意が感じられなかったからだよ」


「悪意……」


 幼い頃からたったひとりで戦ってきたウィル。自分を本気で殺そうとする魔物や、そうでない友好的な魔物。その違いは会った瞬間見分けられる。生きる為の食事として食べた魔物以外、基本悪意のない魔物は殺さない。ハクが言う。



「これだけ人間を攻撃し石化までしたんだぞ!! それでもか!!」


「それはお互い様だろ?」


 ウィルが地面に倒れるドラゴン族を見て答える。ハクが首を振って尋ねる。



「そもそもなぜお前達人間は俺達を目の敵にする? 俺達が何かしたというのか!?」


 静かになる一同。ドラゴンを見ては討伐してきたミント公国の副官ミチェルが言う。


「それはドラゴン族が危険だから……」


「俺達にしたらお前らの方がずっと危険だ!!」


「……」



 ドラゴンを討伐する。そこに明白な理由などなかった。

 ただ単に恐れていたため。魔物は悪と言う先入観。最強国家と言う国威発揚がため。ドラゴンに悪意がなかったとすればその多くが意味のないものとなる。ミチェルが思う。


(それが本当なら私達は何か大きな間違いをしていたことになる……)



「あの……」


 ミチェルが真剣な顔をするハクに声を掛けようとした時、伝令の飛竜がやって来る。



「ハク様!! 大変です!!」


 ドラゴンやそこにいた者みなの視線が伝令の飛竜に集まる。伝令が言う。



「ミント公国への漆黒のドラゴン襲撃が確認され、その迎撃に長老が向かわれました!!」


「何だってっ!?」


 今や飛ぶことすらままならない長老の出陣。ハクは目の前が真っ白になった。

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