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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
第二章「姫様に求婚するオークが邪魔なので討伐します」
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16.ウィルと姫様の密会!?

 バルアシア王国中庭にある修練場。

『バルアシア随一の剣の使い手』と称されるエルティアには、彼女専用の修練場がある。そこに朝から籠ったままの彼女。気合いの入った掛け声が辺り一面に響く。



「はあ、はああああっ!!!」


 実戦では『飾り姫』と揶揄されるエルティアだが修練中の彼女は美しく、見惚れるほどの剣術を披露する。


「フレイムバースト……」


 手にした剣に炎属性を加える。



「はああああああ!!!!」


 ザン!!!!


 ゴオオオオオオ……


 エルティアの攻撃を受けた木製の人形が炎を上げ、一瞬で灰となる。エルティアが叫ぶ。



「次っ!! 次を用意しろ!!!」


 そう指示された王兵が青い顔をして答える。


「も、もう在庫がありません!! エルティア様……」


「……そ、そうか」


 朝から籠りすでに昼過ぎ。三桁は用意されていた修練用の木製人形はすべて彼女の剣によって灰となってしまった。



「ふう。ありがとう、もう下がってよいぞ」


「は、はい!」


 ようやく終了を告げられた王兵が頭を下げて退出する。

 汗だくのエルティア。剣を置き、ふうと息を吐いて腰掛ける。そして小さくつぶやく。



「私なぜ、こんなにイライラしているのだ……」


 理解できない苛立ち。オークへ嫁ぐ日が近付いているせいか。はっきりとした答えが出ない自分自身にさらに苛立つ。


「あいつは私の苦労も知らずに他の女といちゃついて……、ん?」


 エルティアはギルドで見たウィルと受付嬢の姿を思い出す。


「いや、よく考えてみればウィルは冒険者。ギルドの職員と話をするのは至極当然のこと。そうだ、そうじゃないか!」


 そう言ったエルティアの表情が再び曇る。


「……とは言え、なぜ手を握る必要があるのか? クエストの依頼なら会話だけでも済むはず」


 そこまで考えたエルティアの表情が再び苛立ち始める。



「あいつは私のヒモになりたかったはずだろう!! そもそもだな……」


 エルティアの言葉が止まる。


「いや、そもそも私はウィルにスキルの確認に向かったのではなかったのか? なぜそれをせずに帰って来てしまったのだ??」


 目まぐるしく変わるエルティアの表情。手をポンと叩くと立ち上がりひとり言う。


「彼は今日、雑用係で城内にいるはず。きちんと話に行こう。まあ、その前にこの汗だくの服を着替えなきゃな。異性に面会に行くのにこれはあまりにも失礼だ」


 そう言うとエルティアは嬉しそうに鼻歌を歌いながら自室へと向かった。






「はあ、いい加減疲れてきたな……」


 ウィルは雑用係の仕事として、王城にいる馬の厩舎の掃除を行っていた。床掃除に排泄物の処理、新しいエサの準備と戦に使う馬には特に念入りにケアをしなければならない。

 ブラシで床をこするウィルに黒ひげが言う。


「おい、ウィル! ちゃんと掃除やってるか?」


「ああ、やってるよ……」


 そう言いながら適当にブラシを回してサボるウィル。黒ひげが言う。


「おい、フン片付けは終わったのか?」


「あー、終わったよ」


 段々返事が面倒になって来たウィルが適当に答える。


「あ、エサやりは終わったか?」


「床磨いてからやるよー」


 あくびをしながら答えるウィル。



「あっ、お、おい。ウィル!!」


 いい加減腹が立ってきたウィルがブラシを置いて黒ひげの元へと向かう。


「何だよ!! 俺、ちゃんとやってるって……、あっ」


 黒ひげの横に立つ、真っ赤でタイトなドレスを着た金髪の美女を見てウィルが固まる。



「姫様!? なんでこんな所に??」


 エルティアが美しく甘い香りがする髪に手をやりながら答える。


「いや、その、なんだ。前回お前に聞きそびれてしまったことがあってな……、少し時間を貰えないか?」


 ウィルが上官である黒ひげの顔を見る。


「あ、も、もちろん、どうぞ!! さ、ウィル。姫様がお待ちだ。すぐに行け」


「あ、ああ。分かったよ」


 ウィルは厩舎掃除で汚れた作業服のまま、美しく着飾ったエルティアと共に歩いていく。



「あいつ、本当に姫様とどんな関係なんだよ……」


 只者ではないとは分かっていた黒ひげ。改めてウィルのことを考えた。





「すまないな、仕事中に急に……」


 美しく手入れされた中庭。季節の花々が咲く庭園の椅子にふたりが座る。ウィルが自分の服を見てからいう。


「姫様、俺、めっちゃ服汚いんだけど。馬の糞とかついているし……」


 エルティアがくすっと笑って答える。


「気にするな。それがお前の仕事の服だ。兵士なら鎧。何も失礼に値するものではない」


「あ、ああ。そうか。ありがとう」


 そう言ってはにかむウィルをエルティアも笑顔で見つめる。エルティアが言う。



「そうそう。まずお前に礼を言わなければならない」


「礼?」


「ああ、そうだ。先日の『百災夜行』の時、私を応援してくれただろう? あれから不思議と力が湧いてな。本当に感謝している」


 そう言って小さく頭を下げるエルティアにウィルが答える。


「いいって別に。姫様、マジで強いんだから俺もびっくりしたよ!」


「そ、そうか。そう言って貰えると嬉しい」


 エルティアが前を向いて小さく頷く。そして尋ねる。



「なあ、ウィル。お前のスキルについてなんだが……」


 そう尋ねられたウィルの表情が一瞬曇る。彼にとって『外れスキル』の話は、云わば禁忌。だがエルティアは構わず尋ねる。


「『虚勢』、だったな? 空威張りとか言う」


「そうだけど……」


 小さな声で答えるウィル。



「本当は『応援スキル』とかではないのか?」


「応援スキル?」


 ウィルがエルティアの顔を見て首を傾げる。


「ああ。他者を応援して力を与えるスキルのことだ。違うか?」


 ウィルがスキル鑑定所での話を思い出す。そして答える。



「いや、それはないかな。ちゃんと鑑定所で見て貰ったし。相手をびっくりさせるだけの『外れスキル』だってさ」


 最後は半ば自虐的に答えるウィル。やや納得できない表情のエルティアだが、本人がそう答えるならそう思うしかない。


「そうか、分かった。なんとなくそんな気がしてな。悪かったな、時間を取らせて」


 そう答えるエルティアにウィルが尋ねる。



「なあ、そろそろ俺をヒモにしたいとか思うようにならないのか?」


「なぜそう思うようになるんだ? 理解できん」


 エルティアが呆れた顔で答える。


「いつになったらヒモにしてくれるんだ?」


「だからそれは言っただろう。勇者様を見つけ出し、この世を救ったらだ」


「うー、それは分かっているんだけど……」


 何の手掛かりもない勇者探しに頭を抱えるウィル。エルティアが言う。



「それより私のヒモなどになって良いのか? あのギルドの可愛らしい女が怒るのではないのか?」


 じっとウィルを見つめるエルティア。口を開けてそれを聞いていたウィルが尋ねる。


「ギルドの女? 誰それ?」


「め、眼鏡をかけた、ピンク髪の女がいるだろ!」


 ウィルが手を叩いて答える。


「あー、マリンのことか! あいつはだな……」


 ウィルを見つめ、耳を立てるエルティア。だがそんなふたりに別の場所から大きな声が掛けられる。



「エルティア様ーーーーっ!!」


 ウィルとエルティア、ふたり同時にその声のする方へと視線を向ける。


「カ、カミング?」


 それは上品な青い髪をした上級大将カミング。一直線にエルティアの元へと駆けてくる。エルティアがやや驚いて尋ねる。



「どうしたと言うのだ、そんなに慌てて?」


 カミングが息を整えて答える。


「え、ええ。エルティア様が見知らぬ男を一緒にいるのを見て思わず……、はあはあ……」


 カミングは取り出したハンカチで汗を拭きながらウィルに尋ねる。


「お前は一体誰なんだ?」


 そう尋ねるカミングの目は明らかにウィルを見下したもの。汚れた作業服に馬の悪臭。兵士以下の身分であろう男がなぜエルティアとふたりきりで話しているのか。ウィルが答える。


「誰って、俺はウィルっていうんだけど……」


「身分は?」


「雑用係」


「ざっ、雑用……」


 カミングが唖然とする。雑用係がどうして姫様と一緒に並んで座ることができるのか?



「分をわきまえよ!!! 雑用係ごときが姫様と並んで座るとは!!」


 突然大声で怒鳴るカミング。上級大将としては当然の行い。あまりにも身分が違いすぎる。エルティアが慌てて言う。


「カミング、良いのです。彼は恩人。それに話に誘ったのは私の方ですから」


「ひ、姫様。例えそうだとしても……」


 思わぬ返しに戸惑うカミング。黙って聞いていたウィルが面倒そうな顔で立ち上がりふたりに言う。



「よく分かんねえけど、俺行くわ。じゃあ、姫様。約束は守ってな!」


「あ、おい! ちょっと待て……」


 エルティアが止めるにかかわらず、ウィルは軽く手を上げ中庭へと消えていく。カミングがまるで汚物でも見るような目でウィルを見送った後、片膝を付きエルティアに言う。



「エルティア様。大切なお話があります」


「大切なお話?」


 真剣な表情となったエルティアにカミングが言う。



「はい。漆黒のオークについてのお話です」


 エルティアはカミングの真剣な眼差しを受け、黙って彼の話を聞くことにした。

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