書籍発売記念SS. シーフードと迷い猫
詳しくは活動報告にて!
「……どうしましょう」
悩みに悩んでいたら、いつの間にか知らないところにいた。
*
「なぁノラ」
「?」
結婚したって何も変わらない。なんてことのない午後の執務室。いつも通りエド様の膝上にいたら、急に反応が返ってきた。仕事が終わったのかと手元を見たけれど、そうでもなさそう。
「今日はお祝いだからご馳走にしようと思うんだが、何が食べたい?」
オイワイ。ゴチソウ。……ご馳走!?
思わず頭を上げたら、エド様の顎に直撃した。痛い。恨みがましい目をしたら、理不尽だと言われた。なぜ。
「あてて……分かった。嬉しいのは分かったから、考えておいてくれ。なんて言ったって今日は……」
もう頭の中にはシーフードしかない。春といえば鯛。アクアパッツァが美味しい。他にもエビのリゾットだっていいし、ホタテのクリームパスタも最高。
「おい、聞いてないな?」
「うむむ。美味しいものがありすぎるわ」
「聞いてないんだな」
なんか頭上のエド様がうるさいけど、どうでもいい。脳内食べたいものレースの真っ最中なんだから。アクアパッツァとクリームパスタが乱戦だわ。どっちもどっちというか、これは長引きそう。
「……んで、そろそろ決まったか?」
「決まらないので散歩してきます」
「なるべく早く帰ってこいよ」
ぴょんっと膝の上から降りて、そうして思いつくままにふらふらと散歩しに行った。
*
あたりをキョロキョロと見回しても、まったく見覚えがない。何の変哲もない住宅街だけど、私の行動範囲外だ。本当なら焦るべきなのだろうけど、でも。
「いい匂い……」
いろんなお家から香る晩御飯の匂いに鼻をひくつかせる。
ここのお家はズッパ、向こうのご家庭はペペロンチーノ。イカ墨な家もあるみたい。
昔はマーレア料理どころか自国の料理さえ全然知らなかった。けど、この国に来てからエド様にたくさん作ってもらって、たくさん食べて。今では匂いだけで何の料理か想像できる。
「お腹すいたわ」
私も、お家に帰ろう。
実は焦る必要がない。たとえここがどこかわからなくても、家の方向はなんとなくわかる。どこを向いていても、まるで磁石のように方向がわかる。
さて帰ろうと家の方に振り向いたら、足元に猫がいた。どうやら魚屋から盗んできたところらしく、口に魚をくわえている。
「……これって、そういう運命ってこと?」
今日のご馳走のリクエスト、決めた。
迷いがなくなったら足取りが軽くて。美味しいごはんを想像しながら、夕焼けの中をスキップで帰った。ずいぶん遠くに来ていたし、水上都市・マーレリアでの徒歩移動は不便なのもあって、離宮に着いたときには辺りは真っ暗になっていた。
「私のご馳走が待って……」
あ、でも、遅くなったからもう無理かしら。
ドアを開ける前に今更思ったけれど、また鼻をひくつかせる。ううん。大丈夫。さすがエド様だわ。
「どこ行ってたんだ、まったく。帰ってくるのが遅くなるなら先に言え。ご馳走はもう作ったが、文句は聞かないからな」
帰ってくるなりエド様がくどくど言ってくるけれど、そんなの聞こえない。
だって……。
「これ、食べたかったやつ」
テーブルに、綺麗に盛られた鯛のカルパッチョが並んでいた。思わずエド様をのぞき込むと、ふはっと息を吐くように笑う。
「……だと思ったよ」
エド様の満足気な笑みに迎えられて、テーブルに着く。
「いただきます!」
我ながら、良い飼い主に拾ってもらったわ。
って、あれ。……そういえば、今日ってなんのお祝いだっけ?
……発売記念です。
書籍には挿絵が八枚。電子・アニメイト・メロンブックス/フロマージュブックス特典があります。
本屋さんで見かけましたら、お手に取っていただけると嬉しいです。




