65. 愛しい家族と一緒に
「ポカポカして気持ちいい……」
殿下とアリアさんはどこからか私の結婚の話を聞きつけてきて、まだ招待状が届いてないんだが、なんて手紙を送ってきた。破ろうとしたら止められた。
エドはとても嫌そうにカルロス陛下への招待状を書いていた。届いた時のあちら側のしたり顔が想像できる。
そのうちに伯爵が正式に処罰されることになり、私はエドの婚約者として社交界から認められた。おかげでお茶会やらの用事が増えた。面倒だと思っていたけれど、マーレリアの貴族の娘は商魂逞しい以外はさっぱりしていて案外気に入っている。
陛下や王妃様と食事会もした。こっそりエドの手料理も混ぜたら驚いていた。エドは恥ずかしさのあまり手で顔を覆っていた。乙女かと思った。
そんな風に日々を楽しく過ごしていたら、いつのまにか暖かな風が吹くようになっていて。マーレリアにきて、二度目の春が訪れていた。
*
ふんわりとベールが上がる。目の前のエドのやさしい笑顔に心臓が跳ね上がったような気がした。……不整脈かしら。
「綺麗だ」
「エド様も、王太子らしいですよ」
「王太子なんだが?」
いつものように軽口を叩きながら、エドの目をじっと見る。キラキラしていて真っ直ぐな瞳。
「……どうした、また飯が欲しいのか?」
「それは当たり前ですよ」
「当たり前なのか……」
元々、海鮮を目当てに頑張って漁港まで行ったんですから。荷物を捨てられてヤケクソになって。
ただ、今は違う。
「……でも、一番欲しいのはあなた」
あなたと、家族として、一緒にごはんが食べたい。
「っな! えぇ……はぁ!? おま、な、何言ってんだ。そんな、のっ!」
すぐに真っ赤になるエドに、笑みが溢れる。
「俺はノラのものだ! ……ずっと前からな!」
……国外追放されて、漁港であなたと出会った。
あなたの作ったごはんが、美味しかった。
誰にも興味がなくて気ままな私が、あなたの元へはいてもいいと思った。
あなたはいつのまにか、大事な人になっていた。
自分の前世を思い出した。
首輪に喜んでしまった。
次第に、あなたをもっと知りたいと思うようになった。
あなたを助けたいと思った。
寄り添いたいと思った。
眩しいあなたを見て、私も、自分の過去に向き合えた。
未来を、見れるようになった。
……だから。
「愛してるわ、エド」
私から唇を重ねた。ぺろりと舐めたら、エドはもっと赤くなって目を見開いた。
ねえ、エド。家族になりましょう。何があっても助けてあげる。だからあなたも私と一緒にいて。
ごはんを作って、一緒に食べて。
── Buon appetito! ──
今までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。中編から始まったこの物語もひとまず完結です。(寂しくなって番外編とか追加しそうですが)
いいね、ブクマ、評価、感想、コメントなどとても励みになりました。いただけたら喜び踊ってます。
|ω・`)お疲れーとかごはんおいしかった!の感じでひょいっと評価していただけると喜ぶ秋色だったりします)
またどこかでお会いできたら嬉しいです。ではでは、今日もおいしいごはんを。




