57. 再来、バカ夫婦
年が明け、陛下方に挨拶やしきたりを終えて、普段の業務や書類仕事に戻ってきた頃のことだった。
執務室にメイドさんがやってきて、お客様だと言う。そして後ろから足音が。
……嫌な予感は的中した。
「相変わらず冬のマーレリアは居心地が悪いなー」
「帰れ」
ティエラエールの国王夫妻が、またもやアポなしでやってきた。
「なんだよ、つれないなぁ。そんなだからモテないんだぞ〜」
「うるせえ!」
ひとまず応接間に場所を移す。
「で、なんの用だ?」
「いや用はエレノア嬢の方にあって」
「は?」
「そう怖い顔するなよ。ちょっと話があるだけだ」
エド様が凄い嫌がっていた。私としても、この後何があるのか予想ができない。そのまま別室に促される。
まずは冤罪を晴らせ、婚約が正式に成立したことを祝われた。
「……ここからが本題だ」
桁違いの威圧感に少し驚く。これは、王、いやそれよりも上の存在。とはいえ、それに怯える私ではない。
「これから先、俺とエドアルドは、一国の主として、災厄に抗わなければならない。君は、エドアルドと共に戦い、支え、救えるか?」
そんなの、答えは決まっている。
「できるかはわかりません。ですが、その覚悟はあります」
「へぇ……」
「私を、舐めないでくださります? 王族に嫁ぐことの重さは、生まれたその時から理解しております」
私は、ただ成り行きに任せたわけではない。国母の責任は、嫌というほど教えられた。エド様に絆されていなければ、私はとうに逃げている。
「言うねぇ〜。ま、わかったよ。認めてあげよう」
ピリッとした空気が消え、おちゃらけたカルロス陛下に戻る。
部屋に戻れば、エドアルド様が駆け寄ってきて全身チェックされた。
「何もなかったようだな。よかった」
「そんな心配しなくても。取って食ったりしないのに〜」
「実際取って食っただろうが!」
ああ、まあ、こんな和気あいあいとしていますけども経緯だけみれば一発触発な話ですものね。
親交深い国の王且つ旧友が自分の婚約者をぶんどった挙句、家に遊びにくるって……。
「しょうがないじゃないかよ〜。俺とカミちゃんは運命の赤い糸で結ばれてたんだから」
「まあ、陛下ったら」
「はぁぁぁぁ。隙を見ればいちゃつくのをやめてくれ」
……私今、角砂糖を食べていたかしら。
もう放っておいて、エド様と結婚式についての話をすることにした。正直、新年直後のことは済ませたけれど、やることが多くて暇がない。話せることはさっさと話しておいた方がいい。
「あら、婚姻の儀についてのお話をしていらっしゃるの?」
「カミッラ様……」
「もう殿下の婚約者なのでしょう。カミッラと呼んでちょうだい」
やっとイチャコラが止まったらしく、いつのまにかこちらにきていた。どうやら今までは認められていなかったらしい。心の中では勝手にカミッラさん呼ばわりしていたけれど。
「では、カミッラさん。そうですが、何か……」
「ちょうどよかったわ。今日はこれを渡しにきましたの」
小さなジュエリーボックスを渡される。様子を伺うと、どうやらこの場で開けていいらしい。
「イヤリング……?」
ベルベットの布の上に、大ぶりなパールと繊細な金の装飾のイヤリングが置いてあった。
「ええ、私が陛下との婚姻の儀で身につけていたものよ。サムシングボロー、ということになるかしら」
確かに、まだサムシングボローを誰から借りるかは決めていなかった。でも、カミッラさんはマーレリア出身で、この文化には馴染みがないはず。
「なぜサムシングフォーを取り入れることを知って……」
その瞬間、エド様が目を逸らした。
犯人はあなたですか。
「ゆ、許してくれ。こいつが、手紙で聞いてきて。送り返さないと煩いんだ」
「だから全部知ってるよん」
「……昔、一通送り返さなかっただけで次の月には五通きたんだ。俺には無視する余裕がない」
もはや変態的な何か……。ティエラエール国王陛下って暇なの??
「私へのラブレターは毎日二通ですけれども。つまりひと月に60通以上」
「当たり前だろカミちゃん!」
「……いや張り合われても困るんだが」
謎の光景に頭が混乱する。ヘタレがセクシーな男性とセクシーな女性のイチャコラに挟まれている。凄く大変そう。
……よし、見捨てよう。
「おい、ノラ待て。この状況から逃げるな」
「私は別室におりますから、どうぞご歓談を楽しんでください」
「これが歓談なわけないだろ!?」
私は騒がしいのは嫌いなんです。
にっこりと笑ってお辞儀をすれば、エド様は絶望し、カルロス陛下はそれを揶揄う。
「では私も一緒に。女性同士で話したいこともありますから」
ただ、カミッラさんのその一言に、私も驚いた。
え?




