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【完結】隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中
冬のドルチェ

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54. カニのハサミは使いよう



「ハサミ?」


 ロッソ夫人におやつでも貰おうと厨房の前に来ると、そこにはハサミのついた茶色いクモのようなものがいた。とりあえずしゃがんでつついてみる。動いた。クモとは動きが違う。もっとシャカシャカ動くんじゃないの?


「えいっ」


 とりあえず鷲掴みする。生臭い。

 ……よし、ロッソ夫人に見せましょうっと。クモは益虫だけれど、これは違うようだし。もしかしたら褒めてくれるかもしれないわ。


「見てくださいこれー……」

 

 厨房にはなぜかエド様もいた。


「あらエレノアちゃん」

「ん?」


 最近忙しそうにあちこち行ってて、あんまり構ってくれないエド様が。


「エド様何してるんですか?」

「カニをもらった話をしていたんだが……ああ、逃げ出していたのか。捕まえてくれてありがとう」


 年末が近づいてきて、マーレリアの港は少しずつ静かになってきた。他国の商人は帰ってゆき、逆にマーレリアの商人達は帰ってくる。

 その関係でエド様も王太子としてあちこち行っていたわけなのだけれど……。


「カニってなんです?」

「その手に持ってるやつだ。そいつはエビと同じ甲殻類で海鮮だ」


 こ、これが、海鮮……。確かに生臭くはあったけれど……。

 ということは今日は漁港関連だったということ? ずるい。私も行きたかった。


「ノラも来たことだし、久々に俺が作ろう」

「このクモもどきで?」

「いや近くはあるが、クモガニな。ズワイガニとかと同じ科目だ」


 ふぅん。今度漁師のおじ様方に聞いて見ることにしましょうっと。

 それにしても……海鮮ということは。

 チラリとエド様を見ると、呆れたように、でも嬉しそうにクモもどき改めカニを持つ。


「カニのサラダでも作るか」


 そうしてカニは塩水の入った鍋に沈められた。裏側ってこうなってたのね。


「まずは茹でる」


 どうやら生きているものを茹でるのだとか。さようなら、カニ。

 ……おお。茹ってくると赤くなるのはエビやタコと一緒らしい。美味しく食べてあげるから、美味しく茹ってちょうだい。


「茹ったものから全てを取り出す」


 ボキッとかバキっとカニの足を折って、その中から身を取り出すエド様。いつもヘタレなのに、料理とケンカになると物怖じしないのはなぜ?

 今度は甲羅の方の下の方をベリっと取った。


「この泥みたいなやつなんですか?」

「ミソだな。旨みがある」


 そのまま甲羅も剥がして、ミソをスプーンで掻き出す。今までのもの全部ボウルの中に入れているけれど、いいのかしら。


「……よし。これを混ぜる」


 全部??

 エド様は躊躇いものなく、調味料のレモン汁、塩、白胡椒。そしてエクストラバージンオイル、パセリも混ぜた。


「これでほとんど終わりだ」


 え、これだけ? だって、まだ……。


「サラダなのに、野菜がない」

「別にいいだろう。だったらフルーツサラダはどうなるんだ。あとパセリを忘れないでやってくれ」

「……たし、かに?」


 ごめんなさい、パセリ。そして後に残ったのは真っ赤な殻達。ハサミを広げたり閉じたりして遊ぶ。


「コラ、危ないからやめろ」

「このハサミ、捨ててしまうんですか?」

「……いや、そんなことはない」

「と言いますと?」


 エド様は作ったカニのサラダを殻に乗せ始めた。それをハサミの上に置く。


「おお〜〜!」


 芸術点が高いわ。

 得意げなエド様の顔を乱してやりたくも、我慢できずにカニのサラダを食堂に運ぶ。向かいながらエド様が、これは食堂とかによくある伝統的な前菜なのだと教えてくれた。


「いただきます!」

「ああ、どうぞ」


 フォークで掬ってパクリ。

 ……ピリッと酸っぱい。なにより主役のカニが、


「カニ!!!」

「もっと何かあるだろう」

「これはカニとしか言いようがないです」


 旨み、甘みなんて言葉じゃ足りない。カニをエクストラバージンオイルとパセリが風味豊かにしていてとっても美味しい。

 堪能しているところを、エド様は相変わらず嬉しそうに見てくる。


「はい!」

「……ん?」

「美味しいものだから」

「いや、まあ知っているが」


 目の前に差し出すと、少し躊躇った後、パクリと食べた。うん、それでいい。


「美味しいですか?」

「まぁ、素材がいいしな。というか俺が作ったんだが」


 自分が食べてはあげると、観念したように、エド様はもう一つフォークを持ってきた。

 よくわからないけれど、私が美味しいと思ったものは、エド様にも食べてほしい。


 ……その頃、残りのカニはロッソ夫人によって未だ茹でられていたのだとか。


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