49. 万霊節にはご馳走を
「ついてきてほしいところがある」
エドアルド様にそう言われ、素直についていくと、そこは教会だった。
「ああ、万霊節……」
それは異界の者……死者が戻ってくるとされる日。大陸ではどの国でもほぼ共通で、故人を思い出しながら家族と過ごす。
ここ最近は忙しくて日付なんて確認していなかったけれど、もうそんな時期に。
「今年も先に来ていたようだな」
少し丘になっている裏手には墓標と花が二つ、並んでいた。
快晴の下、風が通り抜ける。エドアルド様の持っている花束が揺れた。
「ここには、兄上達が眠っている」
優しく花を手向けて、寂しそうに目を閉じるエドアルド様の横顔を、見ていた。
私も目を閉じる。
……エドアルド様のお兄様方。守ってくださり、ありがとうございました。後のことは、私にお任せください。そちらに逝くのを全力で遅らせますので。
目を開けて隣を見ると、今度はエドアルド様が私の方を見ていた。パチリと視線が交わる。
お互いに少し笑って、帰ることにした。
「……ノラ、ありがとう」
「私は何もしておりませんが?」
長年かけて調べたのはエドアルド様。私はうまく行くようにきっかけを作っただけ。
つい先日のことを思い出すように空を見上げる。
「……だが、あれはやりすぎだ! 倒れたときは肝が冷えた!」
「ゲッ。悪かったですよ……リアリティを求めたかったというかなんというか」
せっかくいい雰囲気だったのに、すぐにエドアルド様はいつも通りになって叱る。そんな怖い顔しなくても。
「大切な人が自分のせいでいなくなるのは、もう二度と、ごめんだ」
「泣かないでくださいよ……ごめんなさい」
「泣いてない!」
あーあー、鼻先が赤くなって。しょうがないから、頭を撫でてあげる。坂の高低差がちょうどいい。
そうやってすぐ思い出して繊細になっちゃうようだから、お兄様方あんなに過保護だったんじゃないですか。
「でも私は、身一つで国外追放されても生きてる悪役の令嬢ですよ?」
「それでも、心配なものは心配だ」
差し伸べられた手を取って、隣に降りる。
「なあ」
「なんです?」
「エド、と呼んでくれないか?」
私がノラだったら、貴方はエドですか。
「いいですよ、エド様」
「……様はいらない」
立場的に必要でしょうが。そんなに頬を膨らませて、子供じゃあるまいし。感情の忙しい人。
でも、まあ、愛称は、大事な人に呼んでもらえるものだから。
「じゃあたまーにエドって呼んであげます」
「たまにか」
「たまにです」
繋いだ手を振りながら、家に帰る。今日はご馳走が待っている。
「兄上は貝類が好きだったんだ」
「貝、ですか!」
故人の好きだったものを食べるのも、定番。家族で味覚は似るというし、きっと美味しいものが好きだったでしょうからとっても楽しみ。
ん……? 家族……?
「あ!」
「どうしたんだ」
「……なんで万霊節なのに家族で集まらないんですか?」
我が家では集まらないことが当たり前すぎて今まで気づいていなかったけれど……普通の家はそうですよね?
ぎくりとしたエド様。これはまた気まずいからって……。
「もう少し、だけ待ってくれ。心の準備っていうものがだな」
「そんなに怖い人たちなんですか? 優しそうでしたけど」
「いや、逆だ。優しすぎる。その、落ち着かない」
また随分贅沢な悩みだこと……。人によって事情は違うから責めませんけど。
「この件が片付いたら、挨拶しに行こう」
「はーい」
「あとは、手紙が届いたら、ノラの実家もか」
うっ……。
お祖母様のベールは持ってきたいけれど、実家には帰りたくない。
「まだまだ忙しそうだな……」
「ええ本当ですね……」
まあいいや。とりあえずご馳走食べてから考えましょう。そうしましょう。




