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43. しょうがないエドアルド様



 エドアルド様が倒れた。

 今日はなんだか返しにキレがないわね……と心配していた時だった。よく真っ赤にする顔が真っ青になっていて。何を呼びかけても反応しないものだから、心臓がどこかいってしまったような気分になった。

 ……ねえ、なんで、いつもみたいに、ノラって言ってくれないの?


「誰か!」


 そう叫んで、執務室を飛び出した。すぐに人が向かっていくのに安心しながらも、足を止めない。この間帰ってきた道を、急いで走って。もう二度と開けることはないと思っていたドアをノックもせずに開けた。


「一体どうし……」

「ッハァハァ。エ、エド、アルド様がっ、倒れたの!」


 先生はすぐに準備をしてついてきてくれた。本来お医者様は貴族に対してそうするものだから、道具はまとめてあった。

 離宮に戻って、先生が診察している間、気が気じゃなかった。

 お祖母様は、少しずつ動けなくなっていったから、耐えられた。でも、こんな思いをするなら、大切な人なんてもういらない、と思った。どうして私は、忘れていたのかしら。


「疲労による風邪ですね。気絶するように眠ってます」


 先生の淡々と、でも少し呆れてもいるようなその言葉に、やっと心臓が戻ってきたような気がした。

 よかった。またひとりぼっちになるのかと思った。


「解熱剤は置いていきますから、とにもかくにも、安静にさせてください。仕事などは取り上げた方がいいでしょう」

「そうしますわ」

「では、お大事に」


 見送って、ロッソ夫人がテキパキと看病の準備をした。その間私のできることといえば、邪魔にならないようにベッドの脇でぼぅっと見つめるくらいだった。


「エレノアちゃんも、風邪がうつらないようにね」

「……」


 ロッソ夫人は部屋を出ていった。

 そう言われてもなんだか離れる気にもなれず、とりあえず撫でてみる。

 いつもと違って静かなエドアルド様は落ち着かない。つついてみたり、周りをうろうろしてみたりするけれど何も変わらない。


「う、うぅ……」


 何か喋った。近くに行ってみる。寝言らしい。随分と苦しそうだ。


「あに、うえ……」


 ポロポロと涙が流れる。他人の目から涙が流れるのはあまり見たことがなくて気になる。目元にキスをすればしょっぱかった。それもそうだ。


「おれの、せい、だ。おれ、の」


 これは体調じゃなくて夢でうなされているらしい。起こしてあげるべきなのかしら。


「ぜったいにっ、ゆるさないっ」


 ……誰を?

 夢の内容がおそらくクーデターの頃なのはわかる。けれど、エドアルド様が他人を恨んでいる話なんて聞いたことがない。そんな素振りすら見たことがない。これは、なんの話?


 ……私は、この人を知っていると思っていたけれど、本当は何も知らない。まだ会って一年も経っていない。


 ねえ、あなたの家族は? どうやって育ってきたの? これからどうなるの? 何を、企んでいるの?




「ノラ、ずっと側にいてくれたのか」


 布団が動く音で目が覚めると、エドアルド様が起きていた。青白いのから赤みが差していて、ほっとする。


「別にちょうど今いただけです」

「泣くなよ。いや、泣かせてごめんなぁ」

「泣いてないですから」


 そう頭を撫でてくるからぐいぐいと押し付ける。この人熱で幻覚とかでも見えているのかしら。


「次倒れたら心臓にパンチしてあげます」

「俺は別に止まってたわけじゃないんだが」

「何か言いましたか?」


 まだ本調子には程遠そうだから、おでこをぐいって押して寝かせる。ついでに氷嚢も置いてあげた。


「あれ、仕事は?」

「側近さんとロッソ夫人を説得できるならどうぞ」

「……やめておく」


 ええ、それが賢明な判断だと思いますよ。さっさと治して私にごはんを作ってください。


「しかし、人と会う予定があったんだがなぁ」

「今日ですか?」

「いや明日だ」

「じゃあ、一筆くらい出してあげますよ。どんな人です?」


 私ってなんて親切なのかしら。エドアルド様は少し悩んだ後、


「この国一番の学者だ」


 と言った。学者???


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