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4. ようこそ、マーレリアへ



「起きてくださいましーー!!」


 勢いよく開いたドアの音に目を覚ますと同時に布団を剥ぎ取られ、驚きながら目元を擦る。

 寒っ! ……何が起きたの?


「まあ!! 変な寝相!! そんな端っこで丸くなって首が痛くならないのです?」


 丸いのはあなたの目ですよ。そんなに驚かなくても。

 ぐいっと伸びをして辺りを見渡す。まだ暗い。自分の部屋でも、野原でもなく、知らない部屋。綺麗なベッドに、高そうな装飾品。

 そういえば、昨日連れてこられた後、客室を当てがってもらった。日当たりのいい角部屋。

 ……ということはこのおばさまは離宮勤めのメイドさんといったところかしら。


「……おはよう」

「おはようございます。まるで巻貝みたいでしたねぇ」


 マレーリアらしい海鮮のたとえ。誰かと寝たことなんてないから気にしたことなんてなかったのだけれど……。


「ふぁぁ……」


 安全だと分かったら、また眠くなってきた……。

 少しぼぅっとしたまま、ベッドから降りて洗面台に向かう。

 早くしないと、お祖母様に怒られちゃうわ。ん? いや、もういないじゃない。お父様が怒鳴……国外追放されたのだったわ。

 顔を洗うと、水が少し違う気がして、ここはマレーリアなのだと実感した。顔がちべたい。

 さて、着替え……着替……着、るものがない。昨日来ていたものは回収されてしまったし、クローゼットの中は空。


「はーー、ご自分で、身支度を……。ああ、昨日のお召し物は洗っておりますから、こちらを」


 驚いた様子で立ち尽くしていたメイドさんが慌てて服を持ってくる。重苦しいドレスじゃなくて、ちょっとした下級貴族くらいの服。動きやすくてちょうどいい。

 野宿の癖で手櫛で髪を整えていたら、「そんなガシガシやっちゃダメです!」と櫛で梳かされた。気持ちいい。寝たい。


「食堂までご案内いたします」

 

 まだ暗いのに、もう朝食らしい。うっつらうっつらとついていく。窓を見ると外が真っ白で驚いた。


「ねぇ、これ……」

「ああ! 霧ですよ! 他国から来たのなら驚かれたでしょう。海に囲まれてますから、寒い日のマーレリアの朝はこうなんですよ」


 メイドさんはまったくここ最近春らしく暖かかったのに、急に寒いなんて……と口を尖らせてそう言った。

 季節なんて、気にしたことがなかっ……ダメだ、瞼が下がってきて……。


「!?」


 カーペットのシワにつまずいた。のに、強い力で腕を掴まれて、転ばずに済んだ。


「おい、大丈夫か?」


 シトラスとほんのり汗の匂い。

 顔を上げると、昨日ごはんをくれた人、エドアルド様が焦ったような顔をしていた。


「おはようございます」

「眠そうだな、おはよう」


 いえ、衝撃ですっかり目が覚めました。

 それにしても、乱れた髪。赤らんだ頬。昨晩はお楽しみだったんですか? いや、このお人好しさんに限ってそんなことはないか。


「なんだ?」

「いえ、なんでも」

「……。まあいい」


 いや、そんな失礼なことなんて考えてませんよ。

 追及は諦めて、くるりとメイドさんの方を向くエドアルド様。


「今日は晴れそうだ。せっかくだし、こいつをバルコニーまで案内してくれ」

「! かしこまりました」


 バルコニー?

 そうしてエドアルド様はさっさと自室の方へ行ってしまった。早朝の鍛錬を終えた後なのだとか。真面目だこと。

 メイドさんはなぜか嬉しそう。


「殿下は、お嬢様を相当気にいってらっしゃるようですね」


 朝のバルコニーはあのお方のお気に入りなんですよ、滅多に人を誘ったりしないんですから、なんて。

 

「私はここから先は入れませんので」


 そうして、霧で白くなったバルコニーのガラス扉を開けた。

 徐々に霧が晴れる。そこには不思議な色の朝があった。光が反射して、海に太陽の道ができている。空は青く、雲はピンク、地平線はオレンジ色に染まっていた。


「……綺麗」


 バルコニーの柵から乗り出すように眺める。

 しばらくすると、後ろから足音がして、振り向いた。マグカップを持ったエドアルド様が得意げな顔で立っていた。


「ようこそ、マーレリアへ」


 金髪が、光を浴びて、眩しいほど煌めいていた。


「今日の夕食は楽しみにしておけ」


 夕……食……!?


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