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29. ある夏の日のこと



 夏らしいきっぱりとした青空の下、暑い風に庭の洗濯物が揺らめく。遠くの方を見ればキラキラ光っている海の上にたくさんの船があった。

 今日は授業も巻きで終わって、午後はとっても暇で、バルコニーで果実水を飲みながら、今日も平和で幸せだなぁとぼんやりしていた。


「幸せ、かぁ」


 私は、自由に生きて、美味しいごはんを食べて、昼寝ができれば幸せ。最近は、エドアルド様の魚介料理でより幸せ。

 今までだって不幸せに思ったことはないけれど。でも今の方がずぅっと幸せ。


「……エドアルド様は、どうなのかしら」


 エドアルド様は、毎日公務で忙しそうで、それでストレスを溜めていることもあって、どこか情緒不安定で。王太子として、重いものを背負っている。


「あの人、国王陛下に向いてないわよね」


 お人好しさんで、優しすぎる。元婚約者様は、鈍感だったから良かった。人の苦しみなんて、他人に言われなきゃわからないくらいが上には合っている。でなければ、いつか自分が擦り切れてしまう。


「私みたいに、無関心ならよかったのに」


 生きづらい人、なんて思いながら果実水をもう一口飲む。

 そこで、はたと気付いた。


「……なんで私、エドアルド様のことなんて考えているの?」


 「無関心ならよかったのに」と私は確かに言った。そう、私は無関心だったはず。他人のことなんて考えない。自分に関係があるかないか、ただそれだけだったはず。

 なのに私は当然のように、エドアルド様のことを考えた。もちろん、エドアルド様は関係がある。この国の子爵家の養女となったのだから、当然。

 でも、ただそれだけ。

 エドアルド様はここにいて欲しい、と言ったけれど、いつかは出ていく。エドアルド様に婚約者ができた時なのか、王太子から国王陛下になる時なのかはわからない。それでも、私はこの国の部外者だから。


「エドアルド様の幸せなんて、考えても仕方がないのに」


 でも、エドアルド様には、幸せになって欲しい。あの人の笑顔は、どこかがじんわり暖かくなる。これは、お祖母様と暮らしていた頃と一緒。


「ああ、そうか」


 大切な人には、幸せになってほしいものね。


「愛おしいはわからないけれど」


 ……私にとって、エドアルド様はとっくに大切な人になっていたらしい。


 あの人は、見ず知らずのノラ令嬢を助けてしまうほどお人好しで。

 困っている人を放っておけなくて。なのにそれを認めなくて。

 それでいて、かっこいいのに、とってもカッコ悪い。だから話していて楽しくて、いじり甲斐がある。

 料理が上手で、ごはんを私にくれる。食べたい、といえば喜んで作ってくれる。それで、私がおいしいと言えば嬉しそうにする。


 しつこいけれど、その分大切にしてくれる。


 だから、無関心ではいられない。


「……そういえば」


 エドアルド様は、私と一緒にいる時幸せそうだ。どうして忘れていたのだろう。

 これからどうなるかはわからないけれど、私がいる間は心配しなくてもエドアルド様は幸せじゃない。

 エドアルド様は婚約者問題をどうするおつもりなのかし……


「っノラ、そこにいたのか」

「あら、エドアルド様。お仕事は一段落ついたんですか?」


 いつのまにかエドアルド様が後ろにいた。これは中庭やら棚と棚の隙間やら色々探し回っていたご様子。残念でした、今日はここです。


「どうにかな。それより、大事な話がある。今度、一緒に漁港に行かないか?」

「漁港!!」

「わかった。魚は食わせてやるから、ちょっと待て。今日じゃない、今度だ。ああもうこれ聞いてないな」


 漁港にいけるのが嬉しくて、今まで考えていたことはどこかにいってしまう。脳内は、ただ食べたい魚介料理のみ。


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