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2. ごはんをくれたお人好しさん


「は、腹が減っているのか?」

「そうです……魚食べたい……」


 予想していたよりも声が低い。懇願するように見上げると、濃いブロンドの髪に真っ赤な瞳の男性の整った顔があった。

 案外近い。しゃがんでくれているらしい。そして後ろの方には付き添いらしき屈強そうな茶髪の男性が一人。怪訝な顔でこちらを見ている。

 いやそんなことより……、この人の右手の方からいい匂いがするわ。


「これが気になるのか? 貰い物だが、食べるか?」


 串……? いや、これは魚の切り身!!

 ほぼ反射で起き上がって掠め取り、もしゃもしゃと食べる。

 ああ、そうそう。これこれ。パリッとジュワッと油が滲み出る皮に、ほろほろと崩れて旨味が口に広がる白身魚。これが食べたかったのよ!


「………………もっと食べるか?」

「食べます」


 さてはこの方、お人好し。できるだけ媚びて、もっと食べさせてもらおう。

 媚びたように上目遣いをしておねだりすれば、お人好しさんはいそいそと煙が出ている軒下に行って追加を買ってきてくれた。しめしめ。


「ほら」


 二本目も美味しい! むしろ焼きたて熱々だからもっと美味しい。えへへ、シーフード最高! 

 夢中になって食べつつ、お人好しさんの物申したげな視線に気づく。


「それで、お前名前は?」


 ちょっと待ってください。まだ食べてますから。口が白身魚でいっぱいで喋れません。


「まだ買ってやるから、名前を教えてくれ」

「…………エレノア・ウェ、ただのエレノアです」

「そうか、エレノアか」


 ごくんと飲み込んでから答えた。

 危ない危ない。もう勘当されたのだったわ。あ、三本目はちょっと皮が多い。嬉しい。お人好しさんが追加でもう一本買ってきてくれた。


「見た目からして、この国出身ではないな。だが、旅人や商人にしては身なりがいい。何者だ?」


 ああ、胃の容量的に最後の四本目。油が滴り、湯気がホワホワと出ていて……。味わって食べましょう。骨と串にも気をつけないと。

 美味しい……この国に追放されてよかったわ。海洋国家万歳。


ふぁふぁ(ただ)の国外追放された元侯爵令嬢です。ご馳走様でした」


 さて、さっさとずらかりましょう。いくらお人好しさんでも恩を着せてくる可能性はなきにしもあらず……。

 くるっと背を向けたところだった。


「ちょっと待て。その説明をされて見逃すわけがないだろう」

「……あっ」


 しまったわ。適当に逃げ出してきた商家の娘とでも言えばよかった。

 逃げるか、逃げないか。

 とりあえず顔だけ振り向いて目は合わせつつ、一歩前へ進む。


「こら、どこにいく」

「ちょっと、首根っこ掴むのは反則でしてよ! 魚の骨が刺さって……!」

「これだけ綺麗に食っておいてそんなわけないだろう!」


 まったく、衛兵が髪の毛を切るから! 前みたいにくるくる巻かれたロングヘアーだったらこんなに首が無防備じゃなかったのに。

 いやそもそも、よく見ると身なりがいいどころじゃないわね。お人好しさんのくせに立ち振る舞いに品性を感じる。もし大貴族だったら……国外追放されて早々指名手配になる可能性が……。


「きゅ、急におとなしくなったな。すまない、そんなに痛かったか?」

「いえ、まだお名前を聞いていなかったと思いまして」


 すると、細長くてキリッとした目をぱちくりさせたお人好しさん。ごほんと咳払いをした後胸を張ってこう言った。


「俺はエドアルド・マリーノ。この国の継承権第一位の第三王子だ」


 ……まさかの大貴族どころか、王族だった。


「王太子殿下が見ず知らずの娘に魚串をあげることなんてあるのですね」

「なっ……べ、別にあげたわけじゃないぞ。そもそも怪しいと思って、しゃべらせるためにだな……」


 しかもどうやら嘘が下手くそらしい。

 そんなこんなで魚串は食べられたけれど、国外追放されて早々に連行される羽目になった。


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