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18. ペスカトーレは具沢山


 エドアルド様の尻すぼみな小さな声を遮るようにノックされる。

 ここできたのが、沢山海鮮が乗ったトマトソースのパスタ。目を引くムール貝に、アサリ、ホタテ、イカにエビ。なんて素晴らしいのかしら。


「はぁ、まあいい。これはペスカトーラ……いやペスカトーレという」

「ぺすかとーれ?」

「漁師という意味だ。元々は漁師たちが食べる売れ残りをトマトで煮た物だが、ここのものは最高品質のものを使っている」


 正式な料理名は海の幸でペスカトーラだが、とエドアルド様が一口食べたので私もパクリと。

 具沢山だからこその濃厚でコクがあるソース……、なによりぎゅもぎゅもとしていてかみごたえのある貝やイカから旨みがじわぁっと。トマトの酸味がそれをシメる。そしてなによりその礎のパスタ。質が良すぎる。


「トマトと海鮮……!」

「頼めばおかわりもできると思うが」

「いえ、この後も楽しみなので」


 第一の皿でここまでとは恐るべし貴族御用達レストラン……。

 ふとエドアルド様をみると口元を緩めて目尻をとろりと下げていた。うーん、なんか見覚えがあるわ。……そう、ロッソ夫人が撫でてくれる時と同じ顔。


「うまいか?」

「ええ、とっても」

「ならいい」


 上機嫌。とっても上機嫌だわ。最初の方は調子が狂っていたくせに。あれはなんだったのかしら。

 少し雑談しながら待っていると次はタコをにんにく、唐辛子でトマトソース煮込みにした料理が。うん、文句なしに美味しい。


「そういえばどこまで調べたんですか?」

「言っていいのか?」

「どうぞどうぞ。隠すことなんて何もないですし」


 その後運ばれてきた野菜とチーズでお腹を休めながらそう聞いた。真面目な顔になるエドアルド様。


「名前、年齢、身長、体重、出自、親族、交際関係、今回の経緯と……」

「いや、身長、体重なんてどこで知ったんです??」

「国家秘密だ」


 そしてほいと資料を渡してくれる。へぇ、今私って157cmで体重45キロなのね……。知らなかったわ、なぜか私が。

 あと、その誤魔化そうという意思を感じるキメ顔やめてください。


「ふぅん」


 資料をざっと眺めても間違っているところはない。元婚約者様の恋愛事情をこんなところで知ることになるなんて、思いもしなかったわ。

 ……それにしても、


「そのアリア・フローレンスだが、国内では聖女と呼ばれているそうだな。フローレンス家の養子として学園に通う平民出身。休日の慈善活動中に嵐が発生した際、彼女の祈りによって鎮まり、事なきを得たらしい……んだが」


 学友の変な妄言だと思っておりましたが、本当だったんですね。これ。


「エレノア、お前はどう思う?」

「いえ、どうとも。ああ、そういえば、私のこと初めて名前で呼びましたね」

「ああ。ん? ……い、言えた?」


 自分で驚いてどうするんです?

 エドアルド様は目を見開いて口を半開きにしている。何にそんなにショックを受けているのやら。


「……私の名前は言いづらかったですか?」

「そ、そそそそんなことはない!」


 あからさまに動揺している。フォークが震えてますよ。発音的にそこまで言いづらい気はしないけれど……母国語が違うし。


「ノラでいいですよ。そっちの方が呼びやすいのでしたら」

「っはぁ?」


 もはや動揺を隠せず真っ赤な顔で防御の姿勢をとるエドアルド様。人の愛称を聞いたら死ぬ魔法にでもかかっているのかしら。


「嫌なら別に……」

「っ嫌ではない! …………ノラ」


 そしてしばらくの沈黙の後、ドルチェが運ばれてきた。アフォガード美味しい。


 結局、聖女の話も調査結果も流れてしまったけれど、まあでもディナーが美味しかったのでなんでもいい気がした。

 ……ただ、帰っている間ずぅっとノラと呼んでくるのが、非常に鬱陶しかった。



「結局、大事な話ってなんだったのかしら」


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野良…?
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