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11. 市場は危険もいっぱいなのね


「というかさっきから食い物ばかりだな。何かそれ以外で欲しいものはないのか?」

「別にないです。あ、あっちのやつ美味しいそう……」

「こら、引っ張るな。買ってやるから待て」


 屋台で売られていたのは、や……野菜スティック? 確かに魚の匂いがしたのに……。


「バーニャカウダだな」

「おっ! お嬢さんお目が高いですね。うちのはアンチョビが多めで旨みが強いのが特徴なんですよ」

「アンチョビ……!」


 赤と黄色のパプリカにズッキーニ、セロリが棒状に切られてカップの中に入っている。見事に初夏の野菜ばかりだ。アンチョビの旨みが染みて……至福。


「山岳地帯のうちの故郷の料理なんです」

「……どうやら連れも気に入ったようだ」


 その後も歩いていると、ある船の前でエドアルド様が足を止めた。どうやら、骨董品やアクセサリー類を扱っているらしい。寄っていいかと聞かれたのでどうぞと着いていく。一世紀前の香水瓶や他国との交易品などなど……エドアルド様がじっとみていたのはチョーカーネックレスだった。なぜ……貴方はつけないでしょうに。


「……なぁ……いや、なんでもない。なにか欲しいものはあるか?」


 どうやら買うのを諦めたらしい。一通りぐるっとみるけれど、特には……。首を振る。


「すまない、またにする」


 店主にそう告げて船から降りる。そう言って何も持っていないことをアピールしないと泥棒と勘違いされてしまうこともあるのだとか。

 さて、次は何を食べようか、と思った時だった。


「きゃーーー!!私のバッグが!!」


 女性の悲鳴。そしてこっちに向かって逃げている泥棒。よくみるとショルダーバッグだ。それはバレるに決まっているでしょうに……。


「トマス」

「はい、エドアルド様」


 エドアルド様の一言で、トマスさんが一瞬にして泥棒を締め上げた。まるで猟犬のよう。おお、鮮やかだわ。そして騒ぎになってきて。エドアルド様はどうやらこういう事態に慣れているのか、騒ぎを聞きつけてきた衛兵に事情を話していた。

 ……だから、本当は二人組だったなんて気づきもしなかった。


「っこいつがどうなっても知らねえぞ!」


 いつのまにか人質にされていた。エドアルド様は青ざめ、トマスさんは驚愕している。私も驚いております。なぜこうなっているのか。


「兄貴を解放しろ、さもねえと……」

「…………くさいわ」


 下水道の臭いが染み付いているというか。もしかしてそこに隠れていました? そんな服を着て拘束しないでちょうだい。

 耐えられなかったので腕の中からするりと抜けまして。私を人質にしたいなら海鮮の匂いをつけておいた方がいいわよ。


「「「は?」」」


 スッとエドアルド様達のところに戻ると、なぜか周りの人々が固まったまま口を揃えてそう言った。そんなに大人数が同調するなんて、仕込みか何かかしら。


「ったく、なんなんだ!」


 一番最初に動いたのはエドアルド様で、目をぱちくりとさせている泥棒をぶん殴って床に叩きつけた。細いと思っていたけれど、案外力があるのね。


「トマス、あとは頼んだ。おい、これ以上騒ぎになる前に帰るぞ」

「えぇ、まだ食べたいものが……」

「また連れてきてやるから! まったく、お前の体はどうなっているんだ。柔らかすぎるだろう!」


 エドアルド様に腕を掴まれ、人ごみの中を走る。ちょ、力強いですって。後ろを振り向くと、本当に騒ぎになっていた。


「ちゃんと前を……」

「って、あっ……」


 何かを踏んだと思ったらエドアルド様を巻き込んで勢いよく転ぶ。おそらくあれは、イカ……?

 そしてそのまま人気のない狭い運河に落っこちた。水は嫌だ。水は嫌だ。水は嫌だ。ピャッと飛び上がりすぐに橋の上に登る。濡れてしまった……。


「落としたやつが先に上がりやがって……」


 エドアルド様もびしょ濡れだ。でも言葉とは裏腹に少し楽しそうにしている。それにしても、イカで滑って落っこちるなんて。


「市場って危険もいっぱいですね……」

「絶対、落ちたことしか言ってないだろ」


 翌日、新聞に「謎の軟体少女」と大きく書かれていた。どうして……。軟体なのは昨日踏んだイカなのに。


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