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怪奇調査部  作者: siro
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 アウグストは十字架を握り締め祝詞を呟き始めた。同じく洋平も日本の祝詞を呟き、自身の体を清めていく。

 一歩門の中に入れば、そこは活気ある町だった。門を潜る前までは昼間だったはずなのに町の中の空は夕暮れだ。町の中心部にある教会へと続く道の周りでは住民達が楽しげに雑談をしたり買い物をしている。

「夕方の17時か」

 アウグストは時計台を見ながら呟いた。

 洋平は外から見た際に見つけた甲冑姿がいた方向を見つめていた。

「アウグスト、あそこら辺がたぶんオークション会場だと思う。鎧を着た亡霊があそこら辺にいた」

「へー、宿がある場所だな」

 アウグストはスマフォに入れておいた町の地図を拡大しながら言った。

「宿屋に行ってみるか」

 二人頷き、その場所に向かおうとしたところパンを抱えたご婦人に呼び止められてしまった。

「おや! あんた達観光客かい?」


「……えぇ」

 アウグストがイタリア語で答えると、ご婦人は勝手に話し始めた。

「だったら、この先にある教会広場に向かいなよ、今ならマーケットに間に合うよ」

「マーケット?」

「そう、お土産に石鹸がおすすめだよ。パンも美味しいしジェラートもね!」

 そう言うと手を振って去ってしまった。


「何て言ってたんだ? 癖の強いイタリア語なのはわかったけど」

「あぁ、この地方のなまりがはいってたからね。教会の広場でマーケットが出てるって言ってたんだよ」

「……話しかけられたってことは俺たちを認識しているのか」

「みたいだな、それなのに何か攻撃するわけでもない……、君、今日は何日だっけ?」

「何おっさん? 今日は9月25日だぜ」

「「……」」


 アウグストが呼び止めた少年の答えに、二人は固まった。


「なぁ、アウグスト。火災があった日って」

「9月26日の早朝だ」

「つまりこの町は今」

「火災の前日だろうな」


 思わず洋平はもう一度周りを見渡した。長閑な田舎町だ。子供達は駆けずりまわっていたり、カフェの前ではエスプレッソを立ち飲みをする人々は、平和そのものだ。それが数時間後には灰とかしてしまう。


「……どうする?」

「とりあえず、二手に分かれてざっとみよう。俺は教会の方をしらべる。洋平はオークション会場らしき場所へ」

「わかった。じゃー1時間後に教会前の広場で集合でいいか?」

「あぁ」


 そういうとお互い駆け足でその場を去った。

 洋平は甲冑の亡霊を見かけた場所へと急いだ、そこは情報通り宿屋があった。昔ながらの建物で中に入れば、天井も低く、古い建物だ。

 中の装飾も古めかしく豪華だ。

「すいません」

 そう声をかけるも受けつには誰もおらず、奥に入り階段をのぼると、奥に古めかしいシャッター付きの小さいエレベーターが一台。大人二人分しか乗れないくらいのさいずだ。

 とりあえず横にあった階段で上に登ると、2階にたどり着いた。ホテルの部屋のドアは古いつくりで鍵で開けるタイプだ。試しに一つドアノブを掴むも、びくともしなかった。

 廊下を歩く人影を見つけ追いかけると、その人物は壁へと吸い込まれてしまった。


「あれは、ただの幽霊か」


 たぶん間取りをよく覚えていない宿泊客だったのだろうと思いながら洋平は上の階へと向かった。あらかた見て回るも、入れそうな部屋はなかった。そして禍々しい気配も見つけられず、洋平は首を傾げた。

「ここらへんで見たのになんで見つからないんだ? 上にないなら地下か?」

 1階にもどり足元を見つめるも、ホテル内の扉はどれも開くことができず、仕方なく外に出た。周りから見て回る限り、従業員用の裏口以外の扉は見つからなかった。


「んーマフィアのオークションだから、入り口は別とかか?」


 洋平は頭をかきながら、周りの家々を見て回るも怪しい空気を感じることもできなかった。そもそも、この町事態、怪異が作り出した空間。大本を見つけ出すのはなかなか難しいことだ。


「んーお手上げだな。とりあえず待ち合わせの場所に行くか」


 時計台をみながら、洋平は教会へと足を向けた。

 自身の時計は時を刻むのをやめてしまっていた。


 ときどき、町の住民に声をかけられながらも教会の広場にくると顔を青ざめたアウグストが待っていた。


「アウグスト、どうしました?」

「あー、なんか気持ち悪すぎて中に居れなかった。やばいのが教会の内部にいる」

「え、神聖な場所に?!」

「あぁ、しかもカトリック系のものじゃない。カトリックの祝詞が何も効かなかった」

「ちょっと見てくる」


 洋平は慌てて教会の扉を開いた。

 むわりと禍々しい気配に洋平は思わず眉をしかめた。ポケットからハンカチを取り出し気分的に口と鼻を覆い隠しながら進む。

 洋平の目には床の石畳の隙間から漏れ出ているように見えた。


「おい、ヨウヘイ。何か見えているのか?」


 アウグストも洋平を真似てハンカチを口に当てながらついてきていた。


「あぁ、あそこの石畳からたぶん妖気らしきものが漏れ出してる」

「あそこは、地下墓地だ。入り口は向こうだな」


 指差したのは鉄格子が嵌められた扉だ。

 アウグストが無理やりこじ開け、古めかしい木の扉を開けるとより一層濃い妖気が飛び出してきた。


「うっ……きついな。これが東洋の怨霊の気配か」

「怨霊というより妖気? とりあえず、この地下に仕舞われているんだと思う。そうだ、これを身につけてみてくれ」


 洋平は内ポケットに入れていたケースからあるものを取り出した。それは小さな棒に括り付けられた紙垂(白い紙を段々に折り畳んだもの)。その棒をアウグストの胸ポケットに突き刺した。


「ん? 少し楽になった」

「それはよかった。簡易だけど邪悪なものを払う力があるんだ」

「へー便利だな。そういえば、ホテルはどうだった?」

「どの部屋にも入れなかったよ。変な気配もなし、壁をすり抜ける幽霊はいたけど」

「壁をすり抜ける? それ隠し扉があったんじゃないか?」

「え?」


 その発想に至らなかったことに、洋平はしまったと思うも、そのまま地下墓地へと足を踏み入れた。ひんやりとした空間の中は真っ暗だ。電球のスイッチを見つけたアウグストがボタンをおすと古めかしい電球が音を立ててついていく。


「うわー・・・お墓だな・・・」

「あぁ」


 洋平は頭蓋骨が並べられた棚を見渡しながら、思わず足を引っ込めてしまった。


「怖いのか?」

「こ、怖くないよ」


 虚勢をはりながら洋平は階段をゆっくりと降りた。

 進んでいくと扉にぶつかり、これ以上先にいくことができない。


「扉だ、やっぱりドアノブが回せないな」


 びくともしない様子に洋平が一歩下がった瞬間、アウグストが扉に向かって蹴りを入れた。


「うぉ?! いきなり何するんだよ!」

「ん? 壊そうとしただけだ」

「ちょ! 神父がそんなことしていいの?!」

「さぁ? だってこの怨霊はカトリック由来じゃないし、大丈夫だろ?」

「そ、そういう問題?」


 驚く洋平を他所に、アウグストがドアの部に手をかけると空きはしないが、ガチャガチャと動いた。


「え、動く」

「ふーん。なるほど、もしかしてヨウヘイを警戒してるのかもな」

「なるほど。ということは、ここに日本由来のものがあるって感じだな」


 印がわりにスギの小枝を突き刺そうとした瞬間。突風が吹き荒れ吹き飛ばされてしまった。


「うわっ!!」

「いてっ!!」


 気がつけば、教会前の広場。時計の針はもう9時を過ぎていた。


「めちゃくちゃ嫌がられたな」

「ですね。でも異国の地でここまで力を発揮できるのはおかしいですよ」

「洋平もやっぱりそう思うか」

「えぇ」

「もしかしたら、教会の下に何か封印してたのかもな」

「封印ですか?」

「あぁ、よくある事さ。強い悪魔を封じ込めるために上に教会を立てて重石にするっていう方法」

「わぉ」


 洋平は驚きつつも、砂埃を落として周りを見渡した。

 人々はもう家路につき、暖かな光が窓からこぼれ落ちている。

 アウグストは洋平が見えていないものが見えていた。


「あぁ、違うか。この街全体が重しだったんだ」

「ん? 何か見えてるのか?」


 アウグストには町に沿って汚れた気配が煙のように立ち上るのが見えていた。特に濃く見えるのが教会の裏手と先ほど洋平が調査したホテルから。


「これ、複雑そうだな」

「やっぱりそう思う? Bランク以上だとするとAかな?」

「ダブルAじゃないか? うまく妖刀の気配で隠れているが悪魔もいるね」

「そうなのかー。Cランクだったら俺でも払えるだけどなー」

「同じく。点数稼ぎになったんだけど、これは無理だなー」


 そう言いながらアウグストは電子タバコを取り出した。

 ほんの少しだけふわりとでた煙を見つめながら、怪異の町を眺める。


 時計の針はずいぶん早く回っている。


「どうでるかな?」

「一応本来の時間は、まだ昼間だ。悪魔の力はそこまで万全じゃないはず。妖刀は時間とかあるかい?」

「妖刀もたぶん夜が本領発揮なんじゃないかなー? あまり関係ない気もするけど」


 のんびりと洋平が答えてると、ホテル方角で悲鳴が上がった。

 騒ぎ声は大きくなり、ホテルから人々が飛び出してきた。皆血だらけなうえに、銃まで発砲し始めていた。


「さて、何を見せる気だろうね」

「なんだろうね」


 銃声で周りの家々の窓に光が灯ってくるなか、突然教会の扉が開いた。

 その音に驚き振り返った二人だったが、爆風に吹っ飛ばされたのはアウグストだけだった。


「アウグスト!!」

「うぁ!!」


 洋平も風は感じたが、飛ばされるほどでもなかった。見れば一人の男が身体中に爆弾を身につけて立っていた。


 地面に叩きつけられたアウグストは顔を上げた瞬間慌てて叫んだ

「気を付けろ! 洋平! そいつ悪魔に乗っ取られてる!!」


 その言葉に洋平はなるほど、と納得した。

 宗教観の違いや言語の違いによって、怪異への影響の差が出るという論文を読んだことがあるのだ。理解できる言葉と、理解できない言葉で罵られた場合、罵られているだろうなという想像はできてもダメージが比較的少ないのは理解できない言葉だ。

 その現象が今起きたのだろうと洋平が思っていると、今度は視覚的に悪魔が仕掛けてきた。


「銃はあかん!!」


 まさかの発砲に洋平は慌ててアウグストが飛ばされた方向に逃げた。


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