【番外編】本当の夫婦に
リアベラ海のあるサウス地方には、ハネムーンの名目で来たはずなのに。
まさかやり直しの結婚式をすることになるとは思わなかった。
でもこぢんまりとした教会で。
気心の知れた少人数で。
まさに“仲間”にお祝いしてもらう結婚式は、とても心地の良いものだった。
挙式の後は、近くのレストランで食事をした。
ソアールとカシウス。
チャーチャやワイリー他、この地まで同行してくれた使用人たち。
そのみんなでサウス地方の郷土料理を楽しみ、用意されたウェディングケーキでケーキカットも行った。
満腹になった後。
ウェディングドレスからレモン色のワンピースに着替えた。ウォードもスカイブルーのセットアップに着替え、ソアールとカシウスと共に向かったのは……。
真珠の養殖場。
ウォードが私に贈ってくれた青い真珠のピアスは結局、見つかることがなかった。残念なことに。でもウォードは自分だけの真珠の買い付けができると話してくれていたのだ。母貝への核入れ体験をして、一年間、育ててもらう。そして自身で取り出すか、取り出してもらい、出来上がった真珠を贈ってもらえるサービスがあると。
その真珠の買い付けに来たわけだ。
ウォード、ソアールとカシウス、そして私の四人で、青い真珠についての説明を聞き、核入れ体験をした。
「一年後。シャルロンお姉さま。ここで再会しましょうね。今日食べた魚介のリゾット。とっても美味しかった。来年また、シャルロンお姉さまと一緒に食べたいわ」
「ええ、ソアール皇女。来年のホリデーシーズンにまた会いましょうね」
春には母国へ戻ってしまうソアールとカシウス。二人は皇族であり、今はこんなに気軽に会って話しているが、本来こんなに簡単に会える相手ではない。帰国してしまえばなおさらだろう。
でもこうやって再会の約束ができた。
そういった意味でもウォードが、真珠の買い付けを提案してくれて良かったと思う。
「ウォード殿、シャルロン様。今日は素敵な結婚式にお招きいただき、ありがとうございました。そして青い真珠の核入れ体験。貴重な経験ができました。一年後の再会もそうですが、夏にはバカンスシーズンもあります。よければ我が国へも遊びに来てください」
カシウスの別れの挨拶を聞いたソアールが「そうよ! シャルロンお姉さま、バカンスシーズンに遊びに来て!」と瞳を輝かせる。チラッとウォードを見ると、頷いてくれた。
「そうね。ウォードと二人でラエル皇国へ遊びに行かせていただくわ」
「わーい! 嬉しいわ、シャルロンお姉さま!」
私にぎゅっと抱きつくソアールの頭を撫で、馬車に乗る二人を見送る。
「ではわたし達も帰ろうか」
「はい」
ウォードと一緒に馬車に乗り、貸別荘に戻る。
夕食は貸別荘のテラスで食べることになった。そこになんとウォードは、楽団を呼んでくれていたのだ。サウス地方の明るい陽気な音楽が奏でられ、メロディに合わせ、この地方独特のダンスが披露される。
「お二人も踊ってみませんか?」
元気な踊り子に声をかけられ、ウォードと私もダンスに挑戦。
舞踏会のダンスとは違い、全身を動かす、躍動感のあるダンス。
ウォードも私も初めての挑戦だったが、二人とも笑顔で踊ることができた。
夕食の後は、夜の庭園を散歩し、胃袋を落ち着かせ、入浴となった。
一度目の結婚式では薔薇風呂に入った。今回は湯船がまるでリアベラ海みたいな色に変わる、バスソルトをいれてくれた。爽やかなシトロンの香りと、白い花が浮かべられ、今が冬であることを完全に忘れてしまう。しかも体の芯からしっかり温まることができた。
入浴後は全身にみずみずしいレモンの香油をつけてくれたので、とてもフレッシュな気持ちになった。ネグリジェもレモンシャーベット色で、自分がもぎたてのレモンになった気分だ。
バスルームを出て、ベッドルームに行くと、窓際のテーブルにシャンパンとフルーツが置かれている。それを見ると、一度目の結婚式を思い出す。食べたくもないのにフルーツをお願いしたわよね、私。
思わず微笑んでしまう。
そこでカチャッと音がして、ウォードが部屋に入って来た。
私とお揃いの色のガウンを着ている。
この季節、風邪をひかないよう、髪はしっかり乾かす必要があった。
だからウォードの髪は、お風呂上りとは思えない程、サラサラだ。
「シャルロン、一杯飲むか?」
「ええ、そうしましょうか」
シャンパンのコルクは既にはずされていた。ウォードはボトルストッパーをはずし、フルートグラスにシャンパンを注いでくれる。
着席し、シャンパンで乾杯した。
部屋の照明は抑えられている。
窓の外を見ると、街灯の明かりより、星空の方が明るい。
当然だが、海は暗く、見えなかった。
シャンパンを飲んでいるウォードを見ると、なんだかソワソワしているように思える。
もしかして緊張しているのかしら?
かくいう私は意外にも落ち着いている。
それはまだ、お互いに触れあうような行為をしていないからかもしれない。
ともかくこの時点で私は落ち着いていた。
対するウォードはソワソワしている。
いつも冷静なウォードが緊張するなんて。
意外だけど、なんだか可愛らしいわ。
すると。
突然の爆発音と、光を感じ、驚いて窓の外を見る。
「まあ……!」
花火が打ち上げられていた。
それは前世の日本とは違う、西洋花火。
「よかった。いいタイミングだ。今日の最後の思い出に、花火の打ち上げを頼んでいたんだ」
「! ウォード、だからソワソワしていたの?」
「ソワソワ……そうだな」
照れるウォードが、心から愛おしく思えた。
「改めてシャルロン。今日はありがとう。君のウェディングドレス姿、一生忘れないよ」
ウォードの整った顔を花火が照らす。
碧眼の瞳には、花火の光が映り込み、キラキラと輝いて見える。
優しい笑顔にトクンと胸が高鳴った。
「ウォードも素敵でしたよ。私も今日のこと、絶対に忘れません」
それからは……自然な流れでキスをして、気づけばウォードに抱きあげられ、ベッドに横たわっていた。その後は先程までの落ち着いた気持ちなんて吹き飛び、ずっとドキドキが止まらない。
でもようやく。
身も心も。
ウォードと結ばれて。
私達はこの日、本当の夫婦になることができた。
・**~ happily ever after ~**・
お読みいただき、ありがとうございます!
ウォードに呼ばれ、ちゃんと二人が身も心も結ばれるまでを書き上げました(笑)
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