【番外編】もう一度ふたりで
「驚きです!」
チャーチャが笑顔で目を細める。
「まるで若奥様が着るために仕立てられたようですね。ピッタリです。マーメイドラインのウェディングドレスなんて斬新ですよね。しかも背中の総レースの美しさ! トレーンも長く、しかもそちらも全てがレース。さりげなく青い真珠も散りばめられていて、なんて美しいのでしょう! トレーンが長い分、ベールは短めですが、まるで聖母様のようですよ」
ウェディングドレスをもう一度着ることになるとは思わなかった。
しかもオーダーメイドしたわけではない。
でもチャーチャやメイドに着せてもらうと、絶賛してもらえた。
「ありがとう、チャーチャ。私は着替えもお化粧も済んでいるわ。後はみんなも着替えて頂戴」
リアベラ海のあるこの地にいるのは、ウォードと私、そして使用人のみんな。彼らは一度目の結婚式の時、忙しく働いてくれていた。でも二度目のウォードの結婚式には、見守り人として参列してもらうことにしたのだ。
勿論、カシウスとソアールとその護衛騎士も参列してくれる。二人は教会で待っているという。
チャーチャたちは手早く淡い水色のドレスに着替え、そして出発となる。
今さら、ではあるが、ファーストミート。
一度目で私のウェディングドレス姿を、既にウォードは見ている。でも「新生ウォードとしては初めてなんだ。だから教会で会おう」と彼が言うので、出発のタイミングも馬車も別々だ。つまりこのウェディングドレス姿をウォードが目にするのは、教会の祭壇の前となる。
チャーチャと御者に手伝ってもらい、馬車に乗り込む。
今日も朝から陽射しは、冬とは思えない強さ。
「では若奥様、教会で!」
チャーチャ達使用人に見送られ、馬車が動き出す。
彼女達もこの後、馬車に分譲し、私の後を追う。
馬車の中で一人になると……。
緊張してきた。
結婚式はもう経験済みなのに。
しかも今日は、参列者は少なく、気心の知れた者ばかり。
そこで「あっ」と気づいてしまう。
結局ウォードと私はまだ心身共に結ばれたわけではない。
今日は初夜のやり直しもある。
だからなのかしら?
今さら初夜のことを考え、顔を赤くするなんて!
これから神聖な場所である教会へ向かうのに。
窓の外に見えるブーゲンビリアの花を見て、気持ちを落ち着ける。
程なくして、教会に到着した。
「シャルロンお姉さま、なんてお綺麗なの! まるで聖母様みたい!」
教会のエントランスで待っていてくれたのは、フリルたっぷりの水色のドレスを着たソアールと彼女を護衛する騎士。手にはバラの花びらの入った籠を持っている。なんと皇女自らが、フラワーシャワーで迎えてくれた!
「ソアール皇女様、ありがとうございます!」
エントランスの階段を上り切ると、そこで待っていたのはカシウス。
ゆったりとした碧い貫頭衣姿で、ウエストには宝石も飾られたシルバーのベルトをつけていた。真っ白な黄金の飾りがついたサッシュをつけており、皇族の一員であると分かるオーラに溢れている。
「ウォード殿のところまで、エスコートしますよ、シャルロン様」
カシウスがブラックオリーブ色の瞳を細め、微笑みを浮かべる。
通常は花嫁の父親が務めることが多い、エスコートの役目。
もしこんな美貌の父親がいたら、お嫁に行くのが惜しくなってしまいそうだわ!
カシウスの腕に手を添えると、教会の扉がゆっくり内側から開く。
待機していた助祭が開けてくれたようだ。
純白のフロックコートを着たウォードがこちらを見て、感極まるという表情になっている。私が到着する前に、泣き出してしまうのでは?と心配になりながら、祭壇まで続く青い絨毯の上を歩き出す。
「こんなに美しく聡明なシャルロン様を妻に迎えるウォード殿が、羨ましくてなりません」
「!? 既に私、ウォードの妻ですよ……?」
「二度目の挙式の相手は、僕がよかったです」
カシウスの冗談なのか、本気なのか判別がつかない言葉。これに苦笑しているうちに、祭壇とウォードが目前に迫る。
「シャルロン、とても綺麗だよ」
一度目の結婚式の時。
ウェディングドレス姿の私を見て、ウォードが驚き、喜ぶ姿も夢想し、乙女心はときめいていた。だが実際は……。正装したウォードに私が見惚れ、気が付かなかった? そんなことはない。あの時のウォードは、ウェディングドレス姿の私を見ても無反応だった。でも、それはもう過去のこと。書き換えることはできない。大切なのは、今。
今のウォードは、完全にとろけそうな表情になっている。
「では新郎新婦は、こちらを向いてください」
司祭の声にウォードと二人、祭壇の方を向くことになる。
私がゆっくりバージンロードを歩いている間に、チャーチャ達は着席していた。
「それではこれより、ウォード・アルモンドとシャルロン・デイヴィスの挙式を執り行います」
司祭が手元の本を開いた。
主の言葉を引用し、ウォードと私が永遠の愛を神に誓うことを説いていく。
美しい讃美歌が流れ、正面のステンドグラスからは、淡い色合いの陽射しが射し込んでいる。
これまでつけていた結婚指輪を改めて交換することになった。リングピローの指輪を見ると、きちんと手入れしたからだろうか。新品の指輪のようだ。これをお互いにつけあうと、なんだかとてもドキドキする。
「ではこちらに、それぞれサインをお願いします」
書類はこの地を治める地方領主が発行したもの。通常はこれを王都にある管理局に提出だが、既にウォードと私は結婚している。よってこれは記念として額縁に入れ、屋敷に飾ることになるだろう。
サラサラとお互いにサインを書き込む。
司祭はサインを見て、頷く。
「では最後に誓いのキスを」
ウォードが私のベールを持ち上げる。その手が震えていると分かり、私の緊張感も高まった。
結局。
キスを……しそびれたままだった。
つまり、夫婦でありながら、この誓いのキスが二度目になる。
優しく私の腕にウォードの手が触れた。
恥ずかしさにこのまま俯いていたいが、それではキスができない。
胸が高まる中、ウォードを見上げる。
澄んだ泉のようなウォードの碧い瞳には、しっかり私が映っていた。
もうウォードは絶対に私に無関心・無反応にならない。
鼻の奥がじわっと熱くなり、涙が溢れてくる。
「シャルロン、目を閉じて」
「あっ……」
ゆっくり瞼を閉じると、ウォードの唇がふわりと重なる。
一度目とは違う、長いキスと響き渡る鐘の音。
――「わたしにもう一度恋して欲しい」
ウォードが私に伝えた言葉が脳裏に浮かぶ。
確かにこの瞬間。
私はウォードのことをさらに好きになっていた。
彼のことを好きだと思うのは、何度目なのかしら?
これからもきっと私は、ウォードと新しい思い出を重ねる度に、何度でも彼に恋することだろう。
参列者から盛大な拍手が沸き起こった。
お読みいただきありがとうございます!
完結設定を……していませんでした(泣)
ということで番外編として急遽書き下ろし、公開しました(汗)
よろしければいいね!、感想、☆評価などお願いします(祈)
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