え、どうして……?
奪われたピアスが戻ってきてくれたら、勿論、それは嬉しい。
でも真珠の買い付けもすごくいいと思う。
だって……一年後にまたここへ来ることができるかもしれない。来ることができなくても二人で受け取る約束をしているなら……一緒にいられるはずだ、ウォードと。
「ようやく笑顔になったな、シャルロン」
そう言うとウォードが手を伸ばし、私の頬に触れた。
その瞬間。
「痛っ……」と短く叫び、ウォードが悶絶する。
そこで理解した。
無理に腕を伸ばすと、背中の傷口が開きそうになり、痛くなるのではないかと。
立ち上がってベッドに近づくと、涙目のウォードが私を見上げた。
「傷口、開いていませんよね!?」
「どうだろう……?」
「背中、見せていただけますか?」
「うん」
子供のように素直に横向きになったウォードの背中を見る。
寝間着越しに不自然に一箇所、盛り上がっている箇所があった。
きっとここだ。
血が滲んでいるような様子はない。
大丈夫そうだった。
「特に問題はなさそうですが、無理に腕を伸ばさないようにしましょう」
「そうだな。痛み止めがないのが辛い」
嘆くようなウォードの言葉を聞き「うん……?」と何かが引っかかる。
さっきもウォードは「鎮痛剤はないんだよな?」と言っていた。そして今も「痛み止めがないのが辛い」と言っていたけれど……。
この世界、そもそも論で鎮痛剤なんて言葉はまだない。痛み止めがないことを疑問に思う文化でもなかった。
え、どうして……?
「ドラッグストアがあったら便利なのに」
「あー、それな、ほし……えっ」
驚愕するウォードと目が合う。
私だって仰天している。
ドラッグストアなんて言葉、この世界では使われていない。
これを知っているということは……間違いない。
にわかに信じがたいことだが、ウォードは……転生者だ。
「あなたは……転生者ですよね? ここが乙女ゲーム『ヒロインは恋するお年頃』の世界だと分かっていますか?」
「……まさか君も転生者なのか!?」
「そうです」と答え、丸椅子に腰を下ろす。
驚きで心臓がバクバクしていた。
まさか、まさかという思いでいっぱいだった。
「もしかして記憶が覚醒したのが、馬車の事故だったりします?」
「そうです。そうなんです! まさに馬車から川に落ち、岸にたどりついて力尽きて倒れた時から覚醒が始まって……眠っている間に、前世の記憶を取り戻しました」
ウォードの口調が変わっている……! 間違いなく、転生者だ。
「そうだったのですね。そうなると本当に最近……。私は六歳の時に覚醒していました」
「早いな……」と驚きの表情の彼に尋ねる。
「前世の名前で呼ぶのと、ウォードと呼ぶの、どちらがいいですか?」
「ウォードにしてください。前世の人生は終ったと分かっているんで」
「……死の瞬間の記憶があるのですか?」
ウォードはこくりと頷いた。そしてその碧眼で遠くの景色を見るように、目を細めている。
「俺は大学三年生で、妹がいました。妹は大学一年。スマホを自宅に忘れたから、駅まで持ってきて欲しいって頼まれて……。公衆電話からわざわざ電話かけてきたんです。スマホがないと、電車にも乗れないって大騒ぎするから、バイクに乗って駅に向かったんですよ。そうしたら子供が急に道路に飛び出してきて。避けたらその先に、若い女性がいたところまでは覚えています。多分、その人のことを巻き込み、俺は……死んだんだと思いました」
そこでウォードが私に視線を向け、尋ねた。
「シャルロンは……シャルロンと呼ぶのでいいですか?」
「はい。そう呼んでください」
「シャルロンは前世の最期の記憶は?」
私はふるふると首を振ることになる。
「覚えていないのです。それ以外は割と鮮明に覚えているのに。でもきっと急だったのでしょうね。だから覚えていないのかと」
「なるほど……。もしかしたらシャルロンは……俺が轢いてしまった女性なのかもしれないです。今時珍しいストレートの黒髪で、赤いフレームの眼鏡がよく似合っていました。白のトップスに、明るいラベンダー色のふわっと広がったロングスカート履いていて。あんな状況なのに清楚な人だなって」
これには私は絶句する。
確かに私はストレートの黒髪で、赤いフレームの眼鏡をかけ、その装いをしていたから。






















































