あなたを待ちます
最後の一口のスープを、ゴクリと衝撃と共に飲み込むことになった。
カシウスは……なんてことをウォードに伝えていたの!?
これはウォードとしては、彼のことを意識する以上だったと思う。
ウォードがカシウスのことを敵対視しても、おかしくない案件だった。
というか……。
カシウスは「私の妻にシャルロン様を迎えることもいとわない」と手紙に書いたというけれど、それは同情、なのよね? ハーレム制があるから、妻は何人でも財力さえあればもてる。皇族であるカシウスなら、不憫な私を妻の一人に迎えることなど造作もない。でもそれは建前。
だってカシウスはこうも言っていたのだ。
――「この国では男性が就くような職業にも、女性が就いているんですよ。騎士であるとか、法務官であるとか」
妻として迎えるが、仕事を見つけ、自分らしさを発揮すればいいと思ってくれているのでは?
「シャルロン様」
「あ、はい。失礼しました。つい考え込みました」
そこで大皿の魚料理が届き、実に食欲をそそるいい香りが個室の中を満たす。
食欲はない……と言っていたことを訂正する必要がありそうだ。
店員が目の前で骨を取り、お皿に盛りつけてくれる。
前世で言うなら、アクアパッツァのような料理だった。
「カシウス殿下の親切心には、心から驚かされます。他国の貴族の令嬢に過ぎない私を、ハーレムの一員に迎えてくださるなんて。しかもそれはいわゆる契約婚ですよね? 不遇の私を助けるための。私は皇太子の妻の一人として、ラエル皇国で仕事を見つけ、活躍の場を、自ら見つけるチャンスをいただけるなんて。とても光栄な申し出だと思います。ありがとうございます」
魚料理にレモンを絞っていたカシウスの手が止まった。
「シャルロン様」
「はい」
「僕は慈善家ではないので、不遇な令嬢を見つけたら、ハーレムに迎え、自立を目指す――なんて支援活動はしていませんよ」
「そ、それは……」
そこでパクリと魚を食べたカシウスは、おもむろに話し出した。
「そもそも僕はハーレムで沢山の妻を持つつもりはありません。できれば妻は一人だけでいいと思っています。どうしても後継ぎができない……ということであれば、検討も必要かもしれませんが……」
「そうなのですね」
カシウスの身分なら、女性なんて選り取り見取りだろうに。一途なのね。
「よってもしラエル皇国にシャルロン様を迎えるにしても、皇后はただ一人、シャルロン様と決めていました」
「え」
「まだ分かりませんか? 僕はシャルロン様が好きです。妻に迎えたいくらい」
衝撃的過ぎて、持っていたフォークを落としてしまい、ガシャンと大きな音を立ててしまう。慌てて謝罪することになる。謝罪はできたが、爆弾発言に対しては……。
「え、えーと、えーと」
いきなりストレートに「僕はシャルロン様が好きです」と言われてしまい、完全に動転していた。
「以前のあなたは、ウォード殿のことをどこか諦めていました。これならソアールの教育係であるあなたと会う機会を増やすうちに、僕の想いも伝えられるかもしれない――そう思っていたのに。ウォード殿が馬車の事故に遭って以降、変わってしまった」
魚に添えられていた野菜を静かに口へ運びながら、カシウスはしみじみと語る。
一方の私は、もう自分自身が心臓になってしまったかのように、心臓をバクバクさせていた。カシウスの指摘通り、私は確かに変わっていた。馬車の事故により、ウォードが記憶喪失になった。そして私への対応が変わったので、彼のことをもう一度好きになっていたのだ。
「今日、背中に傷を負ったウォード殿を見て、泣き叫ぶあなたは……どうやら僕の出る幕はないと悟りました。その一方で、ぐっすり眠るウォード殿に、シャルロン様は不安になっています。何があなたをそうも悩ませるのか。それは僕には分かりません。ただ、シャルロン様を想う僕の気持ちに、変わりはありません。ですからいつでも頼ってください。ウォード殿とうまくいかないと思ったら。僕はあなたを待ちます」
「そ、そんな……! そんな都合のいいことは、できませんわ!」
「都合がいいのはどちらでしょう? 僕はシャルロン様を好きなのです。ウォード殿の元を離れ、僕のところへ来てくれるなら……むしろ僕にとっては好都合」
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リアルタイム読者様、遅くまでありがとうございました。
ゆっくり、お休みくださいませ。
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