あなたを奪いたい
「分かった。ではそうしてくれ」
カシウスがそう応じると、騎士はそのまま小走りで先へ進む。
「この病院のすぐ隣にレストランがあるそうですよ。見舞客がよく訪れるレストランで、味の評判もいいとのこと。先程の騎士が、病院の職員に教えてもらったそうです。そこに行くのでいいですか?」
「あ、はい。勿論です」
正直、食事を楽しむ気分ではない。ただ体力のために食べるだけ。どこでもよかった。それに食事が喉を通るだろうか。今の私の状態で。
「シャルロン様は、ウォード殿が深い眠りについていることが、気がかりなのですか?」
「えっ……」
そこで夜間出入り口に到着し、外に出た。
風の冷たさを感じ、思わず身震いしてしまう。
夏のような日中に比べ、夜はやはり気温が低くなっている。
するとカシウスは着ていた上衣を脱ぎ、私の肩にかけてくれた。
「ありがとうございます」と御礼を言うと「どういたしまして」と微笑んだカシウスは、再び私をエスコートして歩き出す。
「怪我をした兵士や騎士は、みんな寝ていますよ。薬を塗ったり、縫合したり、手当はしています。ですが安静にして体を休めるのが一番です。他の動物達もそうでしょう?」
「それはそうですよね……」
単純に回復のためで休んでいると分かっているなら、気にならない。
でも私は別のことで悩んでいた。
「回復のために休んでいることは理解している。でも他に気にかかることがあるのですね?」
「はい。それをお話することはできませんが……」
「無理に聞き出すつもりはありませんよ。ただ、それはウォード殿に深く関わることなのでしょう。そしてそのことをシャルロン様が、とても心配しているのだと分かりました」
病院横の馬車止めのスペースを抜けると、そこには確かにレストランがあった。前世で言うファミレスみたいな作りで、夜の営業だがアルコールよりも食事をメインに営業しているのが分かる。よってファミリー層の客も多く、白衣姿の男女も見えた。つまり病院の職員も利用しているようだ。
開放的な席ばかりと思ったら、意外にも個室があり、そこへ通してもらうことになる。これはカシウスの立場を鑑み、先に店へ向かった騎士が、個室を押さえてくれた結果だ。
個室に入ると、そこは抑えられた照明に、左右の壁には海を描いた絵画。
絨毯は濃紺で、水色のテーブルクロスが敷かれている。
花瓶に生けられた白い花が映える素敵なコーディネートの個室だった。
早速、席に着き、あまり食欲がないことを打ち明ける。すると、「ではこうしましょう」とカシウスは大皿の魚料理を注文し、あとはパン、スープそれぞれという形の注文をしてくれた。大皿の魚料理は、テーブルに出されたものを、店員さんが骨を取り、サーブしてくれる。よって二人でシェアできた。これなら私が少食でも、大丈夫そうだった。カシウスの配慮に感謝だ。
「シャルロン様」
「はい」
グラスの水をお互いに飲み終えたタイミングで、カシウスが口を開いた。
ブラックオリーブ色の瞳を細め、微笑を浮かべると、カシウスはこんなことを言い出す。
「なんて勝手なことをしたのですか――そうあなたに怒られそうです」
「!? 一体なんの話ですか??」
驚いて尋ねると、カシウスは「実は……」と、驚きの話を始めた。
「シャルロン様がソアールの教育係となり、あなたが夫であるウォード殿から軽んじられていると分かった時。僕は……許せないと思いました。シャルロン様はとても聡明で、お優しい。それなのにウォード殿は、なぜそこに気づけないのか。僕はあなたの良さを手紙にまとめ、それをウォード殿に送りつけたのです」
「え、え、え……」
驚き過ぎて、間の抜けた言葉しか発することができない。
そこにスープが到着し、配膳されている間に、カシウスの今の発言について考えることになる。
カシウスは……私の長所を手紙にしたため、それを……ウォードに送りつけていた。ウォードはそれを読んでいる。だから……なるほど。合点が行く。ウォードがカシウスを必要以上に意識していた理由が。
そこで美しく澄んだコンソメスープが、目の前に置かれた。
「あ、いい香りですね」「本当だ。これはきっと手間暇をかけたのでしょうね」
これはカシウスと二人、まずは味わうことになる。
そう。さすがリアベラ海の街なだけある。
コンソメスープも、魚介で作られていた。
セロリの風味がいいアクセントに感じる。
すっかりスープで気分が和んだまさにその時。
ニコニコしているカシウスは、思い出したようにこんな一言を告げた。
「ウォード殿に送った手紙の最後に書いていたんです。もしシャルロン様が不幸になるようなら、僕が奪うと。ラエル皇国では、ハーレム制度が認められていることもあり、結婚に対しても寛容です。よってシャルロン様が婚姻経験をお持ちでも、妻に迎えることができます。ですからいざとなれば、国王陛下に申し出て、ウォード殿とシャルロン様を離婚させます。その上で私の妻にシャルロン様を迎えることもいとわないと、書いたのです、手紙に」
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