考える
牢屋と言われる部屋がある場所に連れて行かれる前に、一畳ほどの物置のような部屋に連れて行かれ、身に着けている宝飾品、ドレスを脱ぐように言われた。代わりにネズミ色のワンピースを渡され、それに着替えることになった。
ただ、ウォードがくれた青い真珠のピアスだけは、渡したくないわ。
そこで隠し持っていた金貨で、部屋の見張りをしていた女に交渉した。するとあっさり応じてくれたのだ。安心したのも束の間。ワンピースに着替え、部屋の外に出た瞬間、ここまで私を連れて来た目つきの怖い男に脅され、結局ピアスも取られてしまった。見張りの女が男に告げ口をした結果だ。
悪党は、どうやったって悪党なのだわ。信じてはいけなかった。
その後、連れて行かれた部屋。そこにはソアールくらいの子どもから、私ぐらいの年齢まで、幅広い年齢の女性たちが、閉じ込められていた。窓は板で塞がれ、日中とは思えない程、暗い。
その部屋にいる女性は皆、手枷や足枷をつけられているわけではなかった。でも全員、無気力な顔で床に座り込み、無言だ。
その部屋に入ると、程なくして私を騙した女が、昼食を持って来た。しれっとパンとスープの載ったトレイを渡し、部屋を出て行く様子に、悔しくてならない。でもどうにもできなかった。
武術の覚えがあるわけでもなく、ここから逃げた後の算段もない。頼みの綱はソアールだが、この場所に連れてこられる時、ソアールは私に抱きつき、周囲の様子はろくに見ていなかったと思う。そして警備隊の屯所近くで放置されるまでの間、眠った状態だと思うのだ。
そうなると、私がどこに攫われたかなんて、カシウスに伝えることはできないわね。
ため息をつき、渡された昼食を食べるかどうか、迷うことになる。
というのも、部屋にいる女性達の様子を見るに、何か薬を飲まされている気がしたのだ。そのせいで全員、無気力になっているのではないか。
もしそうなら、食事にその薬が混入されている可能性が高いわ。
ひとまずパンをちぎり、確認するが、こちらに薬が混ざっている気はしなかった。そこでパンを食べながら、一緒に出されたスープを観察することになる。
具などない、まずそうなスープかというと、その真逆。
沢山の刻んだ野菜に、一口サイズのベーコンが沢山入っている。その香りといい、湯気といい、食欲をそそるものだ。しかも私は昼食を摂っていないので、お腹が空いている。
間違いないわ。ここに薬が入っている。でも美味しそうだから、みんな食べてしまうのね。それが今の状態。
食べたら、私も彼女達と同じ状態になってしまうと思えた。でも食べない選択肢はないと思った。食べないと、無理矢理でも食べさせられる可能性がある。
どうするか迷っていると。
「!」
驚いた。
無気力だと思っていた、少し離れた場所に座る女性が、私が手をつけずにいたスープの入った深皿を、手に取った。その上でスプーンも使わず、いきなりお皿に口をつけ、あっという間に飲み干してしまった。
その顔を見ると、やはり瞳に輝きはない。
ただ、スープを飲んだことに満足しているようだった。
飲まない方がいいと思っていたスープは、思いがけず、見知らぬ同い年くらいの女性が飲んでくれた。こうなると後は、あの女が空になった皿などを下げに来た時、きちんと食べたと思わせることが、肝心だろう。
つまりは私もこの部屋の女性達と同じように、無気力になったフリをしないといけないわね。
それは多分、できる。
ただ、そのフリをしたところで、夜までに助けが来ないと、私はお終いだ。競売にかけられてしまう。つまりは人身売買だ。自力で逃げるのは無理に等しい。
そのことを認識すると、フリをするまでもなく、表情は暗くなり、目から光が失われる気がする。同時に、気分も沈み込む。
やめるのよ。
今はネガティブなことを考えないように。
そこでなんとか別のことを考える。
まさかリアベラ海に面したこの美しい街で、人身売買のようなことをしているなんて。これは完全に人を攫い、競売にかける、闇ビジネスだ。
何より、あのリーダー格の大男の元、このビジネスにこの辺り一帯の人間が全員、関わっていた。完全に組織的な犯罪であり、この一画に連れ込まれたら、助かる見込みはない気がする。
きっと私はもう助からないわね。
そう考えると、ここにいる他の女性のように、無気力になった方が楽だったのではないか? 正常に思考できる状態で、競売にかけられるなんて。
そこでノックもなく、いきなり鍵を開ける音がして、あの女が部屋に入って来た。そしてトレイの上の皿を見る。口元がニヤッとした女は、そのままトレイを手に、私を一瞥して部屋から出て行った。
今の様子からも、やはりなんらかの薬は、スープの中に入っていたことを実感した。
実感はできたけれど……。
ネガティブな感情が湧き起こりそうになり、歯を食いしばる。
私は競売にかけられ、誰かに売り飛ばされるのだ。もうそれでおしまいだろう。後になってウォードが見つけてくれるかもしれない。だがその頃には手遅れになっている。
仮にそうなると、私はこの闇組織に、資金提供することになる。私という人間を売り払ったお金は、闇組織の懐に入るのだから。
そこであの大男の顔が浮かび、「負けたくない!」という気持ちが強まった。





















































