くすぐったい気持ち
翌日。
私より早起きしたらしいウォードは、朝から入浴をしたようだ。私が目覚めた時にその姿はなく、サイドテーブルにメッセージカードが置かれている。
そこに書かれていたのは――。
『昨晩は飲み過ぎてしまい、いろいろすまなかった。せっかくシャルロンが気持ちを伝えてくれたのに。……今晩は部屋で、お酒はなしで、ゆっくり過ごそう』
これは何だか少し、ドキッとする。
期待をするわけではないが、お酒はなしで、部屋で夜を過ごすと言うことは……。
「おはようございます、若奥様! お着替えをしましょうか。今日は銀行の金庫にお宝を見に行かれ、ソアール皇女とカシウス皇子とお茶会もあります。こちらはいかがですか?」
チャーチャが元気よく、メイドを連れ、寝室へやって来た。
カーテンが開けられ、朝陽に照らされたリアベラ海が、目に飛び込んでくる。
朝からこの景色は、実に清々しい!
やはりリアベラ海を見ると、気分は南国となり、まとうドレスも海を意識したものになる。
明るい水色のドレスは、白とブルーの花柄の刺繍が、身頃とスカート部分を飾っている。ウエストを飾るバックリボンには、さりげなくビジューが散りばめられ、とても美しい。
おろした髪はハーフアップで、リアベラ海の特産品である、青い真珠を使った髪飾りで留めている。さらにウォードが贈ってくれた青い真珠で作ったピアスをつけた。
我ながら完璧!
ダイニングルームへ行くと、ウォードが席から立ち上がった。
水色のシャツに白のズボンと、彼もまた実に清々しい。
「シャルロン、おはよう!」
明るい笑顔のウォードは、私の手を取り、甲へキスをする。
二日酔いもなく、元気いっぱいだった。
「シャルロンは、レモンのゼリーが好きだっただろう? レモンを使った、爽やかな料理を用意してもらった」
そこでテーブルに案内され、並べられた料理を見ると……。
焼き立てのパンケーキに添えられていたのは、レモンジャム。レモンバターソースの白身魚。レモンジャムと蜂蜜をあえたヨーグルト。搾りたてのレモネード。
着席すると、そこはレモンの香りで満ちている。
「ありがとう、ウォード! とても嬉しいわ!」
朝食は昨晩の続きのようだった。
向き合って座らず、ウォードの右斜めに座った私の手を、彼は時折握りしめ、ニコッと微笑むのだ。まるで新婚夫婦みたいで、くすぐったい気持ちになる。
こんなに愛情を示してくれるなら、記憶が戻ることを心配し、答えを保留にするのではなく、とっと打ち明けてしまえばよかった。そんな気持ちにもなる。
朝食は、ときめきと共に終了となった。
「ではシャルロン、お宝を見に行こう。日焼け対策と帽子を忘れずに」
「はい!」
日焼け対策と帽子。
つまり屋根なしで、御者なしのフェートンで行くつもりなのでは?
そう思い、チャーチャに帽子を用意してもらい、レースの肘上までのロンググローブをつけ、日焼け対策を行った。
ウォードも白いボーターハットを被っている。
「出発だ、シャルロン」
私の手をとり、エスコートすると、ウォードはエントランスに向かう。
建物を出て、エントランスに着くと、私が予想していた通り。
白馬が引く、白い車体のフェートンが待機していた。
ウォードはこの貸別荘に来た時と同じで、問題なく、フェートンを走らせる。後ろからは、チャーチャ、ワイリー、そして従者を乗せた馬車が、着いて来ていた。
貸別荘から銀行は近かった。馬車で二十分くらいの、街の中心部にある。その銀行でダニエルとも待ち合わせていた。
順調に馬車が進む中、私はウォードに尋ねた。
「ウォード、このピアス、覚えていますか?」
ウォードはチラッと私の耳を見て、少し首を傾げる。
「遊学中にこの地へ来たウォードが、私に贈ってくれたんですよ。それをピアスに仕立てたんです」
私のこの言葉を聞いたウォードは、ハッとした表情になり、しばし考え込む。
その間もフェートンの操作は怠らない。
「……シャルロン。思い出した。確かにそれは、わたしの名で贈られたものだ。でも君にその青い真珠を送るよう進言したのはワイリーで、実際に手配したのも彼だ。屋敷へ送ったのも勿論、ワイリー。つまりわたしは……進言を受け『ならば手配しておけ』としか言っていない。ヒドイ話だ。昔の自分を、今のわたしが『何をしているんだ!』と一発殴りたいくらいだ」
「大丈夫ですよ、ウォード。忙しいからきっと、ワイリーが手配しただろうと思っていたので。進言もなく、ワイリーが全て独断で贈ったのなら、そこにウォードの意志は一切ないので、きっとショックだったでしょう。でも進言を受け、許可くださったのですから」
「君は本当に優しい。ありがとう」





















































