許可なんてとらないでいいです
「ウォード」
「どうした、シャルロン」
「私、やはりあなたのことが好きです」
驚きを込め、ウォードが私を見た。
太陽が消えても、まだ空にその残光がある。
ウォードの、ビックリしたが、歓喜している表情はよく分かった。
「ウォードの記憶が戻ったとしても。あなたを好きだという私の気持ちは、きっと変わらないと思います。変えられない……かと」
「ありがとう、シャルロン」
感無量のウォードがなんとか言葉を絞り出した。
「……抱きしめてもいいか?」
「あなたの妻なのですから。お好きにしてください」
ガラージオの洞窟から帰還した時のように。
許可なんてとらず、抱きしめてくれていいのに。
でも冷静な時のウォードは、限りなく私を気遣ってくれた。
ふわりと抱き寄せられ、遠慮がちに背と後頭部に手が回される。
「……キスを」「そういうのは、許可なんてとらないでいいです」
思わず見つめ合い、微笑み合うことになる。
すると不意にウォードが、自身のおでこを私につけたので、距離が一気にぐんと縮まった。このままキスをされるだろうと思ったら。
突然の子ども達の笑い声に、ウォードの動きが止まり、私も固まる。
ゆっくりおでこをウォードが離し、二人で声の方を見ると。
子ども達が浜辺にやって来た。
「あーあ。夕焼け間に合わなかった」
「明日は絶対に見ないと」
「おかあさーん、もう太陽沈んじゃったよぉ!」
家族連れの貴族がやってきたようだ。
「……野外音楽会へ行こうか」
「そうですね」
「では」と言うとウォードが私を抱き上げる。
「靴を脱いで歩くのに」
「シャルロンを運べば鍛えることになる」
「え、そんなに私が重いですか!?」
「!? ま、まさか、そんなわけがない!」
慌てるウォードを見て、心から笑うことができた。
◇
野外音楽会で音楽を楽しみ、屋台で料理を楽しむ時間は、なんというか……既にウォードとは夫婦なのに。でも交際を始めたばかりの恋人同士みたいだった。
まず人が多かったので、手をつなぐことにしたけれど、ウォードはガチガチに緊張している。かなり遠慮がちに私の手を……つなぐというより、掴んでいた。屋台の行列に並ぶと、手を離すことになる。でも串焼きを購入し、歩き出した時、今度は私からウォードの手をとった。
手の平を合わせ、指を絡ませるようにする「恋人つなぎ」をしたところ……。
ウォードが悶絶し、とろけそうな顔になっている。
その表情を見れば、自然とこちらの顔も、緩むというもの。
ただこの手のつなぎ方になってから、ウォードの緊張がかなり緩んだ。
屋台で買った料理は二人でシェアし、食べさせ合った。
偶然空いたベンチに座り、音楽を聴いている時は、お互いに肩を寄せ合う。
本当はずっと。
こんな風にしたかった。
それを今さら実現しているような状態だったのだ。
少し離れた場所にチャーチャとワイリーもいるのに、私とウォードの距離はとても近い。
「少し、飲み過ぎたかな……」
帰りの馬車でウォードはそう言っていたが、それはその通りだった。
緊張をほぐしたかったのだと思う。そして会場では、いろいろなお酒が販売されていたが、ウォードはワイン・クーラーを何杯も飲んでいた。それは赤・白・ロゼそれぞれのワインを使ったカクテルで、オレンジジュース以外にも、レモンジュースやクランベリージュースで割ったものもあった。味にバリエーションがあり、かつジュースのような感覚で飲みやすい。
その結果ウォードは……。
結構な量のお酒を飲んだと思う。それに後半は酔っぱらっていたので、キールばかり飲んでいた。白ワインをカシスリキュールで割ったこのカクテルは、当然だがただワインを飲むより、アルコール度数がアップしている。
よって飲み過ぎであり、酔っていると思う。
一方の私は、ロゼワインをゆっくり飲んでいたので、ほろ酔いのとても気分がいい状態。これ以上飲むと、眠くなったり、翌日に影響が出たりするかもしれない。でもそうはならない、実に絶妙な酔い加減だった。
そんな状況で貸別荘に戻ると……。
ウォードは寝室に着くと、一度は私を抱き寄せた。
でも……。
「こんなに酒臭い状態で、シャルロンにキスをできない」
そんな可愛らしいことを言ったのだ。
私がもしお酒を飲んでいなかったら、アルコール臭い!となったかもしれない。でも二人ともお酒を飲んでいるのだから、アルコール臭なんて分からないのに。
でもなんだかそういうところを気にしてくれるのは、嫌ではない。
それにお互いの気持ちは通じ合ったのだ。
ウォードの記憶がいつ戻るか分からないとしても。
焦る必要はない。
だからウォードに「キスはいつだってできます。ウォードはきっと、私のことを心配し、昨晩はあまり眠れていないのでしょう。今日はゆっくり休んでください」と伝えると、彼は泣きそうな顔で喜び、私の手を取ると、何度も手の平にキスを落とし、そして――。
そのまま眠り込んでしまった。
「若旦那様の入浴は明朝ですね」
「そうね。私は午前中にしっかり入浴をしたから、簡単に汗を流すだけにするわ」
「かしこまりました」
こうしてウォードと二人、同じ寝室で過ごす夜は過ぎて行った。





















































