一秒足りとも無駄にできない
私の着席と同時に昼食はスタートとなり、そこでは金庫に預けられている、いくつかの珍しいお宝について話すことになった。隣国の王族の物だったと思う、レッドダイヤモンドのネックレス。これはもしかすると、先方が買い戻しを希望するかもしれない。そんな感じで、話のスケールは壮大だ。
こうして昼食は終わり、そこにカシウスから手紙が届いた。ソアールが話をしたがっているので、明日の午後、お茶でもどうかというお誘いだ。
これをウォードに相談すると……。
「そうか。皇女が話したいのは、シャルロンだ。わたしはおまけに過ぎない。実は地元の名士が挨拶をしたいと、手紙を受け取っていた。シャルロンが皇女と会っている間、わたしは社交をしておくよ」
「分かりました。でもウォード、あなたはおまけなんかではないわ」
「少なくとも皇女からしたらおまけだろう。……カシウス皇子からしたら、邪魔かもしれないが」
「そんなことないですよ!」と励まし、昼食の後は……。
バルコニーに出て、海を眺めながらウォードとチェスをしていた。
優雅に紅茶を飲みながら、穏やかな陽射しが降り注ぐこの場所でチェスをするのは、実に贅沢。優雅な時間だ。
チェスをしている時のウォードは真剣そのもので、かつ手加減はしてくれない。結局、私が負け、そのままティータイムとなり、その後は……。
ワイリーがこんな情報を持って来てくれた。
近くの広場で野外音楽会が開催されるという。立ち見なので入場も無料で、開催されている二十二時までの間、演奏を聴くも良し、周辺の屋台を見るも良しなのだという。
「シャルロンが元気そうなら、見に行ってみるか?」
「ええ、私は昼寝もとり、昼食もいただき、午後のお茶の時間も楽しめました。チェスには負けましたが、気力は十分、元気です」
「確かにそのようだな。では行こうか」「はい!」
こうして夕食は野外音楽会を楽しみ、屋台で楽しむことにした。
貸別荘を出ると、空は綺麗な茜色に染まり始めている。それを見ると、昨日の夕焼けを思い出す。
「ウォード、広場に行く前に、浜辺に行きませんか? きっと素敵な夕焼けが見えます」
「! 勿論だ。行こう」
本当は徒歩で広場まで行くつもりだったが、浜辺に出ることにしたので、馬車で移動することになった。
「間に合うかしら?」
「大丈夫だ。道は混んでいない。……シャルロンは、夕焼けを見るのが好きなのか?」
「昨日、断崖絶壁で見た夕焼けが、とても綺麗だったと話しましたよね。水平線に沈む夕日は、王都では見られないでしょう」
「……ああ、そうか。昨日……」
そんな会話をしているうちにも、浜辺が見えてきた。
まだ太陽は水平線とキスをしていない。
「ウォード、ここで降りて、浜辺に向かいませんか。駐馬場へ向かうと、遠回りになりそうです」
「! そうだな。降りるか。……シャルロンは靴、大丈夫か?」
「砂浜に着いたら、靴は脱いでしまいます」
ウォードが御者に馬車を止めるように告げると、すぐに止まってくれた。
そして馬車から降りると……。
「! ウォード!」
私の体は、いわゆるお姫様抱っこをウォードにされていた。
これは私が靴を脱ぐと言ったから、気を遣ってくれたのだと思う。
チラリと後ろを振り返ると、後続の馬車から降りてきたワイリーとチャーチャが「まあ」という表情で見守ってくれている。
「シャルロン、しっかり掴まって」「は、はいっ!」
慌ててウォードの首に腕を絡めると、彼はしっかりとした足取りで、砂浜を歩き出す。
地面と違い、砂浜は足が沈みこむようになるから……。
こんな風に私を抱き上げて歩くのは、大変だと思う。
ザザー、ザザー……。
波の寄せては返しての音が聞こえ、西の空はオレンジ色に、太陽は白金色に燃えている。
さすがに少し息が上がっていたウォードだが、ゆっくり浜辺まで来ると、私のことを下ろした。眩しい程の輝きが届き、周囲の木々や建物は、シルエットになっている。隣にいるウォードの彫りの深い横顔は、夕日を浴び、オレンジ色に輝いていた。
「これは王都では見ることができない景色だ。美しい……。自然の雄大さを感じる」
しみじみと呟くウォードは碧眼を細め、そのアイスシルバーの髪を波風に揺らしていた。
自然の雄大さ。
まさにその通りだと思う。
幾億年と繰り返されてきた、太陽が昇り、沈んでいくという営み。
その営みの中で、人間一人の人生なんて、本当にあっという間なのだろう。
自然から見たら決して長いとは言えない人の命。
人生は有限なのだ。
一秒足りとも無駄にしてはいけない。
太陽が消える刹那、ひと際強い煌めきを感じ、そして今日が終わった。
「ウォード」
「どうした、シャルロン」
伝えよう、ウォードに。
お読みいただき、ありがとうございます。
リアルタイム更新でお読みいただいた読者様、遅い時間までありがとうございました。
ゆっくりお休みくださいませ☆彡
素敵な夢を。





















































