可愛い嫉妬
「シャルロン!」
声に驚き、目を無理矢理開けることになる。
細めた目で船を見ると、そこにウォードの姿が見えた。
アイスシルバーの髪と碧眼。
白シャツにグレーのズボンと、軽装のウォードが、船から落ちるのではと言う勢いで、私の名を呼んでいた。すぐ後ろにワイリーがいて、ウォードが落ちないよう、支えている。さらにそのそばには、ソアールとチャーチャの姿も見えた。
ダニエルは船員に指示を出し、私が船に乗り移るために、梯子を下ろしてくれている。
そうしているうちにも、トーマがすぐにボートを船に近づけてくれた。
「シャルロン!」「シャルロンお姉さま」「「若奥様」」
船に乗り換えると、ウォードが間髪を入れず、私を抱きしめる。
汗を濡れタオルでぬぐったぐらいなのだ。入浴はしていない。恥ずかしがると「シャルロンはいつだって甘いいい香りがする。問題ない」とさらにぎゅっと抱きしめる。
「無事でよかった……!」
「船酔いは大丈夫なのですか、ウォード?」
私が尋ねると、ソアールが腰に手を当て、「えっへん」という表情をして、ウォードの代わりに答えた。
「シャルロンお姉さま、ラエル皇国には船酔いに効くと言われる特製ドリンクがあるのです。それは蜂蜜たっぷりジンジャーティー。ウォード様にそれをわたくしが伝授しました!」
「え、それで船酔いを克服したのですか!?」
するとウォードはコクコク頷いている。ジンジャーということは生姜だけど、酔い止めに効果があったのかしら? でも昨日と違い、ウォードの顔は青ざめていない。むしろ頬は赤くなり、気持ちが高揚していることが伝わってくる。
「お兄様!」
ソアールの声に振り返ると、カシウスも無事、船に乗り移ることができた。最後に護衛の騎士も船に乗り込み、無事、全員、港に帰還となった。
◇
港に到着すると、そこには馬車が待機している。
「疲れているだろう? 今日はゆっくり休んで、明日、沈没船から引き揚げられたお宝を金庫に見に行こう」
ウォードの言葉に異論はない。
すぐに馬車に乗り込む。
二人きりになると、ウォードは再び私を抱きしめた。
「わたしが船酔いになんかなったために、そばにいることができず、すまなかった」
「そんな、気になさらないでください。ウォードは何も悪くないわ」
「……男ばかりの中で女性が一人。怖くはなかったか?」
これには思わず笑ってしまう。
あの場には騎士がいて、カシウスもいたのだ。
それにトーマを始めとした船頭の三人は、みんないい人だった。
そのことを伝えると、ウォードは頭をかき、「そうだな」と苦笑する。
多分、カシウスがいたから、心配なのね。
ウォードったら、嫉妬しているその様子。なんだか可愛い。
「夜、寝る時も私は壁際で、しかも衝立で仕切ることもできました。護衛の騎士もいましたし、船頭の皆さんも真面目な方ばかり。カシウス殿下も、とても紳士的でしたよ」
「そうか。……ならばいい。とにかく無事で良かった」
そう言うとウォードは、海風でボサボサになり、乱れている私の髪を撫でつけてくれた。そして耳に髪をかけてくれる。
「ありがとう、ウォード」
そう言って彼の顔を見ると、なんだか息を呑んでいる。
どうしたのかしら?
「ウォード?」
「……あ、ああ、どうした?」
「どうしたって、ウォードこそ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。何も……問題ない」
問題ないと言っているが目が泳いでいる気がした。
でも再度、「本当に、平気ですか?」と尋ね、「ああ。平気だ」と言われては、それ以上聞くことはできない。
「そう言えば、シャルロン。避難スペースにはどんな食料があった? 朝食はちゃんと食べたか?」
「ええ、食料の備蓄は完璧でした。デザートもいただけました」
こうして私は避難スペースでの一泊がどんなものであったか、ウォードに話すことになった。あの断崖絶壁から見た夕日がとても美しかったこと。あの絶景はウォードと見たかったと言うと……。
「その夕日は、船頭たちと見たのか?」
「船頭の皆さんは、夕食の用意をしてくれていました。カシウス殿下と見たんです」
そう答えた瞬間。
ウォードの顔色が曇る。
「しまった」と思うが、遅かった。
「あ、でもすぐそばに護衛の騎士もいましたから、三人で見ましたよ」
「……そうか」
ウォードがしょんぼりしてしまうので、慌てて朝食の話をする。一応、耳を傾けているが、ウォードの表情は冴えない。





















































