僕の所へ
私がラエル皇国に移住すると知ったら、ソアールは大喜びだろう。継続して、私はソアールの教育係となり、ラエル皇国で新生活を始めることができそうだった。
ソアールとカシウスと私の三人で過ごす時間。
それは穏やかで楽しくて、笑顔が絶えないものになりそうだった。
「でも、もはや僕からそんなお誘いをする必要はなさそうですね。どうやらシャルロン様は、ウォード様と上手くいきそうですから」
そこで遂に水平線に太陽が没し、今日の最後の輝きが目に飛び込んでくる。まるでマグマのように燃えながら、太陽がその姿を隠していく。
「実は、ウォードは記憶喪失なんです。いろいろと忘れた記憶があるようなのですが、特に私との出来事は、忘れている部分も多くて……。そしてこの記憶、ある時、突然よみがえる可能性もあるそうです。ウォードは記憶が戻っても、昔のような態度はとらないと言っています。でもこればっかりは分かりません」
「なるほど。そうだったのですね。……ではまだチャンスはあるのでしょうか」
「え?」
「もし記憶を取り戻したウォード様が、あなたに辛く当たるようなことがあれば。すぐにでも離婚し、僕の所へ来てください」
ガタッと音がして、扉が開いたので、カシウスがゆっくり私から体を離した。トーマスがランプを手に「たいしたものではないですが、夕食の用意ができました」と教えてくれる。食事は交代制ですることとなり、晩御飯はトーマス達、船頭三人組が用意してくれることになっていた。
「ありがとうございます。ではシャルロン様、中へ入りましょう」
カシウスが手を差し出してくれたので、私は震える手を乗せることになる。
後ろから抱きしめるようにしていたカシウスだったが、あれは本当に風除けだったのと実感することになった。彼が離れた瞬間、寒さはブランケットをまとっていても、容赦なく私に襲い掛かっていた。
日中は本当に温かい。でも夜は普通に冬だ。
そう思いながら、避難スペースに戻った。
◇
「「「「「「いただきます!」」」」」」
非常食のようなものしかないので、ほとんど期待していなかったのに。
船頭三人組が用意してくれた夕食は、なかなかのものだった。
部屋に入った瞬間、ニンニクのいい香りがしていた。日持ちするニンニクは、棚に常備されていたのだ。そのニンニクとアンチョビと豆の缶詰で作ったスープ、これがいい匂いの大元だった。
このスープに乾パンを浸して食べると、行ける! 美味しい。
正直、料理はこの一品だけだったが、満足できた。
さらに驚くべきはデザートがあったこと!
洋ナシのコンポートがあったのだ。
まさかこんな避難スペースで、甘い物を食べられるなんて。
食事の後は、洗い物をしたり、箒で床のごみを掃いたりで、寝るための準備となった。
ダックボードという、前世で言うなら「すのこ」が二つあり、それはカシウスと私で使わせてもらうことができた。
ダックボードに少し厚手の布と毛布を敷き、さらに上から毛布を掛け、休むことになった。今はまだ、暖炉がついている。それに毛布は重ね掛けすることになっていた。それでも暖炉の火が消えれば、次第に部屋の温度は下がるだろう。それまでに自身の体温で毛布の中を温め、眠らなければならない。
満腹だし、ストローハットを被っていたが、陽射しは浴びている。
眠れるだろう……と思ったが!
やはりベッドではないので、体が慣れず、眠れない。
だが船頭三人組は爆睡のようで、いびきが聞こえてくる。
それが気になって眠れない……というのもあるが、これは仕方ない。こんな状況なのだから。
問題は、このままではいよいよ寒くなり、眠れないのではないかと言うこと。
でも眠ろうとして目を閉じても、頭にはウォードのことが浮かんだり、私を心配しているであろうソアールの姿もよぎる。チャーチャやワイリー、ダニエルも心配しているだろう。
ダメだわ。考えないようにしないといけないのに。ついついいろいろ考えてしまうわ。
困ったなと思い、少し体を動かすと、ミシッと音がしてしまった。
トリオのいびきの合間に、思いがけず大きな音を立ててしまい、焦ると。
「……眠れないのですか?」





















































