目がとても寂しそうで
「実は僕、ティーマスターの資格を持っているんですよ。我が国では紅茶文化が独自に発展しており、名士は客人に上質な紅茶を淹れ、もてなす慣習があるのです」
そう言うとカシウスは、ティーマスターとして、皆のために大変美味しい紅茶を淹れてくれた。椅子にはカシウスと私、船頭二人が座った。トーマは壁にもたれ、護衛の騎士は背筋をキリッと伸ばした状態で紅茶を口に運んでいる。主であるカシウス自らが淹れた紅茶を飲めると思わず、いたく感動しているようだ。
ちなみにカシウスが、ラエル皇国の皇子であることを、船頭たちは知らない。ただ異国の高位貴族ゆえ、洞窟に入る時は、貸し切りにしたとしか思っていなかった。まれに富豪がやってきて、貸し切りにすることはあるという。よって船頭たちも、カシウスの身分について疑うことはない。
ということで、実はとんでもない人物が淹れた紅茶であることを分かっているのは、私と護衛の騎士だけだった。ただ船頭三人は「この紅茶、なんてまろやかで飲みやすいんだ」と感動している。
その様子を見たカウシスはニッコリ微笑み、こんなからくりを教えてくれた。
「温度計があるわけではないので勘になりました。ですがここに用意されていた茶葉が開く、ベストな時間と温度のタイミングを、うまく合わせることができたと思います。少し渋みが抑えられているのは、この茶葉にうっすら塩味があったからです」
「「「「塩!?」」」」
トーマ達船頭三人と、私が驚きの声をあげてしまう。
それを見てカシウスは楽しそうに笑い、護衛の騎士は微笑んでいる。
「実は茶葉の入っている缶に、わずかですが、塩が混じっていたようで。本来、茶葉を入れるための缶では、なかったのでしょうね。ですがこの塩がポイントでした。わずかな塩は、紅茶の苦みを中和してくれます。よって決して高級ではない茶葉でも、こうやって美味しい紅茶としていただけます」
これにはもうビックリ! でも実際、どう考えても古く安物の茶葉だったはずなのに、ちゃんと飲めているのだから……塩が威力を発揮したに違いない。
というかティーマスターなんて資格があるのね。ラエル皇国への興味が深まった。
一休みした後は、建物の外を見ることにしたが、風が強い!
でも日没が近づき、茜色に染まった空は、とても美しかった。
その景色に感動するのと同時に。
ここにはいないウォード、ダニエル、ワイリー、チャーチャ達使用人のみんなが、きっと心配しているだろうと思えた。護衛の騎士と共に、一人港に戻ることになったソアールも、とても気にしていることだろう。
トーマは、私達が避難スペースにいると知らせるため、竈に火をつけた時、煙に色がつくようにしてくれている。よって洞窟に閉じ込められることになったものの、無事であることは伝わっているはずだった。それでもきっとみんな、特にウォードは、心配しているだろう。
なぜなら……。
「シャルロン様、風が強いので、これを」
背後からカシウスの声が聞こえたと思ったら、背中からブランケットにくるまれた。
「ありがとうございます」
ブランケットを掴もうと手を伸ばしたところ、カシウスの手に触れてしまった。
「……!」
ふわりと包み込むように抱きしめられ、驚いてしまう。
「もう日没ですし、風が強いので、冷えるでしょう? こうすれば僕が風除けになりますし、少しは温かいでしょう」
「そ、それはそうですが……」
「ウォード様が見たら、激怒しそうですね。……というか、どうやら馬車での事故以降、彼が変わったように思えます。九死に一生を得ることで、ウォード様は変わった、のでしょうか?」
ウォードが記憶喪失になったことは、公にはしていない。
でもカシウスは、ウォードのこれまでの私への対応を知っている。カシウスするからすると、「これがあのウォード?」と思えたのだろう。
「初めて会った時のシャルロン様は、美しく、華やかでしたが、目がとても寂しそうでした。笑顔なのに、心から笑えていない。そう、感じられました。ですが今は違います。本心からの笑顔だと伝わってくるのです」
これには驚くことになる。てっきりウォードの変化にカシウスが気付いたのかと思ったのに。そうではなかったのだ。私を見て……。
「僕は提案するつもりだったのですよ。春にはこの国を出て、母国に戻るつもりでした。シャルロン様も一緒に来ないかと」
「え、そうなのですか!?」
「ええ。我が国は、女性の力が強いのですよ。その理由は、ハーレムが認められているからです。勿論、妻が多ければ多い程、財力が必要とされます。大勢の妻や子供を養う必要がありますから」
そう言えばラエル皇国はハーレムの国だった。聞いたことはあったが、すっかり忘れている。
「それでも富豪と呼ばれる者は相応にいるので、十人の妻とその倍近い子供を持つ者がいたりします。女性たちは寵愛を競うことで、男勝りなんです。よって男女で差があると、みんな平気で怒りの声をあげます。その結果、この国では男性が就くような職業にも、女性が就いているんですよ。騎士であるとか、法務官であるとか」
「もしや私に離婚して、ラエル皇国に移住し、そこで仕事を見つけてはと、提案くださるつもりだったのですか?」
私の問いにカシウスは「大筋はそうですね」となんだか苦笑する。一方の私はそんな未来もあったのかと、夢想してしまう。





















































