帰れない
いよいよ私の番となり、カシウスが声を掛けてくれた。
「シャルロン様、気を付けて」
「ありがとうございます、カシウス殿下。では行ってきます」
こうして順番が巡って来た私は遂に洞窟の中へ入り……。
「わあああああ!」
そこはまるで夢の中のような世界。
海面が宝石のように煌めき、青い空間が広がっている。
でも顔を上げると、洞窟自体は暗い。
このコントラストも、たまらなかった。
この時ばかりはさすがのソアールも、洞窟の美しさに夢中になっている。私に声をかけることもなく、輝く海に目が釘付けになっていた。
地球が生み出す神秘的な景色には、本当に驚かされてしまう。
ダニエルの手紙でリアベラ海へ向かうことになったが、来て良かったとしみじみ思う。
そしてこの鮮やかでため息が出るような光景は、ウォードと一緒に見たかった。
目にしっかり焼き付けて、この美しさをウォードに後で伝えてあげなきゃ!
船頭は洞窟の中をぐるりと回ってくれることになっている。
適度なスピードで船は進むが、そこまで広い洞窟ではないので、もう半分くらい周回していた。
私の後ろにはカシアス、そして護衛の騎士の船も続いているはずだ。
最後の護衛の騎士が洞窟内に入った後、そしてカシウスが洞窟から出るまでは、貸し切りだった。というのもこの狭い空間で何か起こると大変だ。ゆえにわずかな時間ではあるが、ガラージオの洞窟は、私達だけの貸し切りになった。
「もう終わりか~」
ソアールが残念そうにする声が聞こえてきていた。そう、貸し切りタイムは終了で、これから順番に洞窟の外へ出ることになる。
護衛の騎士が出て、ソアールも出て、次は私と思った瞬間。
波が入口から勢いよく押し寄せ、しぶきが飛んできて、目をつむることになる。
「なんだ、潮の流れが速くなった。それに水位が上がって来たな」
船頭は、すぐ後ろにいるカシウスの船の船頭に声をかけていた。
「ああ。波が高いな。これは……出られないかもしれんな」
これには「え!」と驚き、カシウスと顔を見合わせることなる。
ガラージオの洞窟は夏がシーズンで、冬のこの時期は、なかなか入れないと聞いていた。その理由が、急に波が高くなるからだ。
入口の高さは1メートル弱だったはずだが、今見ると、三十センチくらいしか開いていない。これでは外へ出られない。
「仕方ない。奥の避難スペースへ向かおう」
私の船の船頭が、洞窟内に閉じ込められた全員に向け、そう提案した。
◇
奥の避難スペース。
まさかガラージオの洞窟に、こんな空間があったなんて。
細心の注意を払っていても、今回のように洞窟内に閉じ込められる危険がある。そういった場合に備え、避難スペースが設けられていた。
ガラージオの洞窟は、断崖絶壁にあった。陸地からここへ至るには、困難を極める。恐らくこれまでたどり着けた人類は……いないのではないか。ただ、洞窟の最奥部の壁に設けられた鉄の足場を頼りに上っていくと、外に出られる。つまり洞窟の外へ出ることができた。
断崖絶壁のこんな場所に!と思われる所に、石造りの小さな建物がある。小さいが、十人は入ることができた。中はワンルームだが、竈と水場もある。建物の外には水甕があり、雨水が貯められていた。水は定期的に入れ替えされており、煮沸した上で、飲むことも可能だという。
枕や毛布が置かれた棚には、瓶詰めや缶詰、干し肉やドライフルーツなどの食料も用意されている。着替えもいくつか用意されていた。ベッドはないので雑魚寝になるだろうが、イスとテーブルは用意されている。四人掛けだが、船頭たちは「俺達は忙しいと立ち食いが基本だから問題ない」とのこと。そして現状についてこう説明する。
「ここの備蓄で最大十名が二週間、過ごせるようになっています。それでも水位が下がらない時は、洞窟の入口から、泳いで出ることになるでしょう。ここは温暖と言われますが、冬です。泳いで出ることはかなりリスクがあります。よって、これはどうしてもの最終手段です」
海水の温度は比較的安定していると聞く。日中の気温二十度の時間帯であれば、海水はその前後±五度というところかしら? 泳げなくはない温度かもしれない。だがそもそも私は、転生してから一度も泳いだことがない。しかも海となると、足が着くわけではないのだ。
「でも潮の流れは、毎日変動するのです。一度下がれば、しばらくは低い水位が保たれますので、そこで港の仲間と連絡をとります。そのための狼煙と合図も、決めていますから。必ず生還できます」
どうやら私の船を担当していた船頭が、三人の船頭の中では、リーダー格のようだ。名前はトーマという。
今、避難スペースにいるのは、カシウス、私、護衛騎士、そして三人の船頭だ。
トーマは他の船頭にも声を掛け、まずは竈の火を起こし始めた。紅茶を淹れようとしているのが分かったので、私も手伝うことにすると……。














