彼の弱点
「シャルロンのその顔。見たいんだな?」
ウォードに問われた私は「見たいです!」と即答することになる。
するとダニエルが「お任せを!」と部下に声をかけ、手配をしてくれた。
ガラージオの洞窟は、決して広い空間ではない。まずは近くまで、十名まで乗れる船で向かう。洞窟に近づいたら、手漕ぎの二人の乗りのボートに乗り換える。船頭と自分の二人で、洞窟へと入っていくわけだ。
「ドレスより、簡易なワンピースに着替えていただいていいですか? うちのスタッフが着るような安物であれば、海水で濡れても問題ないでしょう」
ダニエルはそう言うと、水色のワンピースを用意してくれたので、私はそれへ着替えることになった。ウォードもまた、作業服らしいグレーのズボンと白のチュニックに着替えた。
「では行きましょうか」
持参していたストローハットを被り、ウォードと共に、ダニエルに案内され、海の方へ移動した。
港に着くと、ガラージオの洞窟を観に行こうとする人が、この時間でもまだいるようだ。観光客を乗せ、洞窟近くまで行くための船が、何隻も停まっていた。
そこで私は驚くことになる。
「ソアール皇女!」
「シャルロンお姉さま!」
そこには波を浴びることに備え、ワンピースの上に雨避けの外套を着たソアールと、生成りのシャツに、濃紺のズボンというラフな装いのカシウスがいる!
ソアールは、勢いよく私の方へと駆けてくる。そしてぎゅっと私に抱きついた。
「お兄様が、汽車ではシャルロンお姉さまに声をかけちゃダメって言うから、私、ずっと我慢したのよ! でも、もう我慢できない~!」
チラッとカシウスを見ると、彼は「やれやれ」という表情で微笑んでいる。
「サウス地方に向かう汽車は、一日三便です。同じ時間の汽車に乗っていると分かりましたが、ハネムーンのお二人の邪魔をしたくないと思いました。そこでソアールに、大人しくしているよう、申し付けていたのです」
これにはいつもカシウスに嫉妬しているウォードも、困った顔になっている。カシウスのことはライバルでも、ソアールはまだ幼い。気を遣わせてしまったと、申し訳なく感じているようだ。
ウォードの気持ちを代弁するべく、私は口を開く。
「そんな気を遣わせてしまい、申し訳ありませんでした。まったく見かけなかったということは、相当気を遣っていただいた結果だと思います。窮屈な思いをさせてしまい、ごめんなさい」
「いえいえ、使用人が目を配り、ちょっと時間をずらしたり、個室で食事をしたりしただけですから。そもそも防犯的にも、個室へ籠る必要があったので、お気になさらないでください」
そう答えるカシウスにウォードは「気を遣っていただいた御礼に、よければ今晩、夕食を一緒にどうだろうか」と提案した。これにはソアールが大喜びで、カシウスも快諾だった。見守るカシウスの使用人や騎士達もホッとした表情をしている。
きっと汽車ではソアールが「シャルロンお姉さまに会いに行きたい!」と散々駄々をこねたのだろう。それを宥めるのに苦労したことが窺える。
こうして思いがけない再会をした私達は、同じ船に乗り込み、ガラージオの洞窟まで向かうことになった。結構、船は揺れたが、ソアールはへっちゃらだった。カシウスも問題なく、ダニエルは地上よりピンピンしている。私も特に酔うことはなかったが、ウォードは……。
「馬車やボートは平気なのに、船で酔うとは……」
ウォードは船酔いで、この後の手漕ぎの二人の乗りのボートには、乗れそうにない。そこで私達がガラージオの洞窟の中に入る間に、港へ戻ってもらうことにした。あの様子では私達の帰りを待つのは、しんどそうだったからだ。
それにしてもウォードが船酔いをするなんて。意外だった。
なんでもそつなくこなす彼の、唯一の弱点じゃないかしら?
こうしてガラージオの洞窟の中には、ソアール、カシウス、私、そしてカシウスたちを護衛する騎士が向かうことになった。洞窟の入口はそこまで大きくない。一組ずつ順番に、中へ向かうことになる。
その順番は必然的にこうなった。
護衛の騎士、ソアール、私、カシウス、護衛の騎士だ。
ダニエルはワイリーと共にウォードに付き添い、港へ戻っていった。
チャーチャは港でお留守番をしてくれていた。
早速、護衛の騎士が、洞窟の中へと入っていく。
彼が入ると、一組の観光客が洞窟から出てくる。
こうやって入れ替え制にして、洞窟内の混雑を緩和しているようだ。
「お先に行ってきます、シャルロンお姉さま!」
ソアールは元気よく手を振り、洞窟の中へと入っていく。
また一組、観光客が洞窟から出てくる。
いよいよ私の番となり、カシウスが声を掛けてくれた。





















































