縮まる心の距離
「うん。やはりこれを飲むと、夏という感じがするな」
炭酸入りの飲み物なのに、ウォードはあっという間に飲み干してしまった。
飲み物を飲んだ後のウォードの唇は、潤いが増し、発色がよくなっている。
きっと今、あの唇に触れたら、少しヒンヤリしているかもしれない。
「シャルロン」
優しく名前を呼ばれ、顔をあげると、ウォードの澄んだ湖のような瞳と目が合う。スッと伸びた彼の手が、頬に触れる。
「冷たくて気持ちいいです……」
「グラスがよく冷えていたからな。きっと近くの氷室で冷やしていたグラスで、出してくれたのだろう。……少し顔が赤く感じたか、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ」
まさかウォードの唇を見て、キスについて考えていたなんて、言えるわけがない!
「みんな、飲み終わったか?」
頬からウォードの手が離れ、それを残念に思う自分がいる。
「よし。済んだ者から馬車に戻れ。宿はもうすぐだ」
再び馬車に乗り込み、走り出してからウォードに尋ねる。
「宿までの道のり、覚えているのですか?」
「ああ。この馬車を借りた時に、簡単な地図を見せてもらい、分岐点での目印を教えてもらったから」
前世でスマホの地図アプリを使っても、私は迷っていたのに。
ウォードは迷わないなんて、すごいと思う。それに一度聞いただけで、宿までの道のりを頭にインプットできるなんて。
最後まで迷うことなく、ウォードは宿まで到着した。
宿。
ここは宿なのだろうか? どう見ても別荘という感じだ。
「まあ、宿というより貸別荘だ。なんだかんだで、わたし達は人数が多い。何部屋も借りるより、建物一棟を貸し切った方が、早いだろう? 調理人や清掃などは、現地のスタッフが担当してくれる」
なるほど、と思っていると、私達の到着に合わせ、貸別荘から続々スタッフ=使用人が出てきた。こうして一斉に馬車から荷物をおろし、それぞれの部屋で荷解きをしてもらう間、ウォードとワイリー、そして私とチャーチャは、エントランスホールへ向かった。
二階までの吹き抜けのエントランスホールは、かなり広々としている。
豪華なシャンデリアがいくつも吊るされ、ここで舞踏会ができそうなくらいだ。
案内をしてくれる使用人は、エントランスホールに置かれたソファに私達を案内せず、そのまま廊下を進み、そして――。
両開きの扉を開けた瞬間。
眩しくて目を開けていられない。
遠くで海鳥の鳴き声が聞こえる。
潮の香りと海風を感じた。
「どうぞ、こちらのテラスウェティングスペースへ」
薄目で見ると、眼前遠くに輝くような、リアベラ海が見えている!
港も見え、沢山の船が停まっていた。それは交易船、豪華客船、遊覧船と、実に様々。
「シャルロン」
ウォードにエスコートされ、目を細めたまま進むと……。
南国にありそうなガゼボ(東屋)があり、そこにはラタン製のソファがL字型で置かれていた。
そこにウォード、私、そしてワイリーとチャーチャで腰をおろす。
黒の半袖ワンピースに白のエプロンの現地メイドが来て、カットしたオレンジが飾られたジュースも出してくれる。それを見ているだけで、トロピカルな感じがする。
この貸別荘のヘッドバトラーだという、黒のテールコート姿の四十代後半くらいの男性が、いろいろ説明を始めてくれた。トータルでいろいろ聞いて分かったこと。それは。
完璧です!ということ。
この地に滞在したことを後に振り返っても、本当に心から良かったと思えるに違いない。
それを確信できた。
◇
今回、ウォードと共に旅をすることになり、宿の部屋をどうするか――これは大いに悩むことになった。屋敷で夫婦がそれぞれの部屋を持つのは変なことではない。だが通常夫婦で旅行に行けば、ツインベッドルームへ通されるものだ。
もし夫婦別室で滞在したら、当然だが不仲説が浮上するだろう。
本当に不仲なら、その説が流れても仕方ない。
だが現状、ウォードと私は、いい感じで距離が縮まりつつあった。
特に心の距離が。
よって。
同室で滞在することにした。そして……私はウォードに、機会があれば、好きだという気持ちを伝えてもいいと、思うようになっていたのだ。
ということでウォードと共に部屋へ向かうことになる……と思ったら、そうはならなかった。なんと伝書鳩が飛んできて、ウォードは執務をすることになったのだ。
さすがに私に年内の執務は全て終わったと宣言した手前、ウォードはワイリーに「もう休暇中だ、何もしないぞ!」と宣言したが。届いた手紙を読むと、そうもいかないようで、別室でワイリーと会議をすることになった。私のことを気にせず、執務優先でいいのに。それは一応伝えたが、気を遣ってくれたようだ。
こうして私はチャーチャと共に、先に二階の部屋に向かうことになった。
「ここの部屋ですね」
チャーチャが鍵を開け、扉を開けると……。














