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わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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縮まる心の距離

「うん。やはりこれを飲むと、夏という感じがするな」


 炭酸入りの飲み物なのに、ウォードはあっという間に飲み干してしまった。

 飲み物を飲んだ後のウォードの唇は、潤いが増し、発色がよくなっている。

 きっと今、あの唇に触れたら、少しヒンヤリしているかもしれない。


「シャルロン」


 優しく名前を呼ばれ、顔をあげると、ウォードの澄んだ湖のような瞳と目が合う。スッと伸びた彼の手が、頬に触れる。


「冷たくて気持ちいいです……」


「グラスがよく冷えていたからな。きっと近くの氷室で冷やしていたグラスで、出してくれたのだろう。……少し顔が赤く感じたか、大丈夫か?」


「だ、大丈夫ですよ」


 まさかウォードの唇を見て、キスについて考えていたなんて、言えるわけがない!


「みんな、飲み終わったか?」


 頬からウォードの手が離れ、それを残念に思う自分がいる。


「よし。済んだ者から馬車に戻れ。宿はもうすぐだ」


 再び馬車に乗り込み、走り出してからウォードに尋ねる。


「宿までの道のり、覚えているのですか?」


「ああ。この馬車を借りた時に、簡単な地図を見せてもらい、分岐点での目印を教えてもらったから」


 前世でスマホの地図アプリを使っても、私は迷っていたのに。

 ウォードは迷わないなんて、すごいと思う。それに一度聞いただけで、宿までの道のりを頭にインプットできるなんて。


 最後まで迷うことなく、ウォードは宿まで到着した。


 宿。


 ここは宿なのだろうか? どう見ても別荘という感じだ。


「まあ、宿というより貸別荘だ。なんだかんだで、わたし達は人数が多い。何部屋も借りるより、建物一棟を貸し切った方が、早いだろう? 調理人や清掃などは、現地のスタッフが担当してくれる」


 なるほど、と思っていると、私達の到着に合わせ、貸別荘から続々スタッフ=使用人が出てきた。こうして一斉に馬車から荷物をおろし、それぞれの部屋で荷解きをしてもらう間、ウォードとワイリー、そして私とチャーチャは、エントランスホールへ向かった。


 二階までの吹き抜けのエントランスホールは、かなり広々としている。


 豪華なシャンデリアがいくつも吊るされ、ここで舞踏会ができそうなくらいだ。


 案内をしてくれる使用人は、エントランスホールに置かれたソファに私達を案内せず、そのまま廊下を進み、そして――。


 両開きの扉を開けた瞬間。


 眩しくて目を開けていられない。


 遠くで海鳥の鳴き声が聞こえる。

 潮の香りと海風を感じた。


「どうぞ、こちらのテラスウェティングスペースへ」


 薄目で見ると、眼前遠くに輝くような、リアベラ海が見えている!

 港も見え、沢山の船が停まっていた。それは交易船、豪華客船、遊覧船と、実に様々。


「シャルロン」


 ウォードにエスコートされ、目を細めたまま進むと……。

 南国にありそうなガゼボ(東屋)があり、そこにはラタン製のソファがL字型で置かれていた。


 そこにウォード、私、そしてワイリーとチャーチャで腰をおろす。

 黒の半袖ワンピースに白のエプロンの現地メイドが来て、カットしたオレンジが飾られたジュースも出してくれる。それを見ているだけで、トロピカルな感じがする。


 この貸別荘のヘッドバトラーだという、黒のテールコート姿の四十代後半くらいの男性が、いろいろ説明を始めてくれた。トータルでいろいろ聞いて分かったこと。それは。


 完璧です!ということ。


 この地に滞在したことを後に振り返っても、本当に心から良かったと思えるに違いない。


 それを確信できた。


 ◇


 今回、ウォードと共に旅をすることになり、宿の部屋をどうするか――これは大いに悩むことになった。屋敷で夫婦がそれぞれの部屋を持つのは変なことではない。だが通常夫婦で旅行に行けば、ツインベッドルームへ通されるものだ。


 もし夫婦別室で滞在したら、当然だが不仲説が浮上するだろう。


 本当に不仲なら、その説が流れても仕方ない。

 だが現状、ウォードと私は、いい感じで距離が縮まりつつあった。

 特に心の距離が。


 よって。


 同室で滞在することにした。そして……私はウォードに、機会があれば、好きだという気持ちを伝えてもいいと、思うようになっていたのだ。


 ということでウォードと共に部屋へ向かうことになる……と思ったら、そうはならなかった。なんと伝書鳩が飛んできて、ウォードは執務をすることになったのだ。


 さすがに私に年内の執務は全て終わったと宣言した手前、ウォードはワイリーに「もう休暇中だ、何もしないぞ!」と宣言したが。届いた手紙を読むと、そうもいかないようで、別室でワイリーと会議をすることになった。私のことを気にせず、執務優先でいいのに。それは一応伝えたが、気を遣ってくれたようだ。


 こうして私はチャーチャと共に、先に二階の部屋に向かうことになった。


「ここの部屋ですね」


 チャーチャが鍵を開け、扉を開けると……。

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