ずっとこのままでいてくれたら
ワイリーから「困りますよ、若奥様!」という目線を送られるかと思ったら、そんなことはない。「ハネムーン、おめでとうございます」とその顔には書いてある。
夫婦の寝室で度々過ごしているので、遂に脱・愛のない結婚になったと思っている使用人も多いだろう。ワイリーもきっとその一人。でもよくよく確認すれば、分かること。いつもベッドは、一切の乱れがなく、綺麗な状態なのだ。メイドはきっと、気が付いていることだろう、変わらず白い結婚であると。
でも私としては、ウォードとの心の距離は縮まっている。だからもしそうなっても……。どうせ離婚はできないのだ。
ウォードが記憶を取り戻し、以後、没交渉だったとしても。
喪女で終わらずに済んでよかったと、肩の力を抜いて、考えられるといいのかもしれない。それに奇跡的にその一回で、子どもを授かることもあるかもしれないのだ。
もしそんな奇跡が起きれば、ウォードが例え記憶を取り戻しても、子どもを心の糧に、生きて行ける気がした。
などと私は考えている。だがウォードは、脱・白い結婚など考えず、至って真面目に考えていると思う。ハネムーンというのは、休暇を取る名目。ホリデーシーズンでも、ウォードの執務はなくなるわけではない。きっとギリギリまで仕事をして、ニューイヤーを迎えるはずだった。よって「ホリデーシーズンだから、休む!」では「えええっ」となってしまう。でも「ハネムーンだ!」となれば「仕方ない」になるから……。だから「ハネムーン」という言い方にしたに過ぎない。
とにもかくにもハネムーンということで、リアベラ海のあるサウス地方へ行くことが決まった。その話は当然だが、アルモンド公爵夫妻にすることになる。夫妻は大喜びで「ゆっくり楽しんでくるといい」と言ってくれた。実はハネムーンもなく、執務に没頭するウォードのことを、アルモンド公爵は心配していたようだ。
「ハネムーンベイビーは、期待できるだろうか」とほくほくとした笑顔で言われると、私は顔を赤くするしかない。ウォードがどんな顔をしているかは……恥ずかしくて見られない!
そんな一幕もあった翌日。
オーキッド色にロイヤルパープルのウエストリボンが飾られたドレスに着替え、ソアールと二人、演奏会へ向かった。この日のソアールは、フリルたっぷりのジャスミンイエローのドレスを着ており、とてもよく似合っていた。
今回、この演奏会へ行くことを決めたのは、この国を代表する音楽家の曲で演目が構成されていたからだ。
席に着くと、配布されたプログラムをソアールは熱心に見ていた。だがふと会話の流れで、私がリアベラ海へハネムーンに行くと知ると……。
「リアベラ海に行きたい~! 海賊のお宝も見てみたい! 青い真珠も好きだから、わたくしもサウス地方へ行くわ!」
そんな風に言い出したのだ。「行きたい、行きたい」と言っても、その時期は母国に帰るのだから、実現しないだろう。そう思っていたら……。
「シャルロン様。宿や汽車などすべて自分達で手配しますので、現地で合流しませんか? 僕とソアールも、サウス地方へこのホリデーシーズンの後半に、向かうことにしました。ソアールがどうしても行きたいと言って、聞かなくて……。ハネムーンを邪魔するつもりはありません。滞在中、ウォード様を含め、たまにお食事をしたり、観光を共にできたりしたら、幸いです。ご無理でしたら……ソアールのことは、僕が説得します」
カシウスにこう言われた時は、ビックリ仰天だ。
でも私以上に驚愕したのは、ウォード。
「カシウス皇子は、やはりシャルロンのことを」「違います!」
即否定して、補足する。
あくまでソアールが言い出しっぺであり、カシウスは保護者として同行するだけ。そしてハネムーンを邪魔するつもりはなく、たまに食事をしたり、観光をしたりするくらいなのだ。ソアールは私を姉のように慕っており、単純に一緒にいたいと感じている。それを「ハネムーンだから」と撥ね除けるのは……。
「皇子と皇女の頼みだ。『ノー』なんて言えるわけがない。……『分かりました』しかないだろう」
少し不貞腐れたようなウォードは、やはり可愛らしい。こんな表情のウォードにも慣れてきている。
ずっとこのままでいてくれたらいいのに。
かくしてホリデーシーズン前半、ウォードは鬼の形相のワイリーに追い立てられながら、執務をこなした。私は、バロス兄弟の海賊船を引き揚げたダニエルから届く報告書を、ワクワクしながら眺めている。金銀財宝がザクザクの他、価値がありそうな壺や食器、黄金の像なども見つかっていた。同時に学校運営に定評のある商会と交渉し、いろいろ計画書や見積もりを作ってもらっている。少しでも多くの学校を建て、運営できるといいなと思いながら過ごしていた。
ソアールとはクリスマスマーケットへ足を運び、この国の伝統料理やお菓子作りにも挑戦している。カシウスはいろいろと忙しいようで、数日おきに顔を合わせる感じだった。
前世では師走というが、この世界でもそれは同じ。
あっという間に時が流れ、リアベラ海へ向け、出発する日になってしまった。
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