わたしに恋して欲しい
キスの一つをしたところで、罰は当たらないと思う。
だがウォードは、握手やハグさえ我慢し、こんな風に私に告げる。
「今晩いろいろ話したこと、シャルロンもよく考えてみて欲しい。もし気持ちの封印が解け、わたしへの気持ちに再び火が灯ることがあったら……。その時こそ、ここ<夫婦の寝室>で、初夜のやり直しをしよう」
これには心臓が爆発寸前!
ウォードの口から「初夜」という言葉が出たのも大きい。しかも「初夜のやり直し」って……。つまり今度こそ、ちゃんと夫婦になろうということだ。
正直、封印は解け、ウォードへの想いが募りつつあるが、初夜のやり直し……。もしそんなことをして、目覚めたウォードが記憶喪失になっていたら……。
「シャルロン、焦らなくていい。君には無理をさせたくないんだ。だからどうかもう一度。わたしに恋して欲しい」
そんな優しい言葉に見送られ、私は自分の部屋へ戻ることになった。
◇
翌日からは、怒涛の勢いで時が流れた。
まずはアルモンド公爵夫妻が帰還し、そしてその日の夕食にあわせ、私の両親が訪ねてきたのだ。日中は、領民を代表として、各村や町の代表も、わざわざお見舞いに来てくれた。クーヘン村の村長も来てくれている。
その様子を見るに、アルモンド公爵は良き領主として慕われているのだと分かってしまう。さらにその公爵の息子であるウォードも、次期当主として期待されていることが、伝わってくる。
こうして見舞客への対応。さらにちょっとした夕食会の準備、ポツポツと地方領の貴族から届く手紙やお花の対応にも追われた。
ニュースペーパーで、ウォードは重体ではないこと、執務には復帰できていると伝えられている。それでも時間差で、手紙や花は届いた。
こうしてこの日は、ウォードとじっくり話す間もなく終わっている。だが、短い会話は普通にしていた。ウォードは昼食の席にも姿を現している。ただし商会の幹部が同席だった。つまりランチミーティングの席に、私がいる状態だったが……。
ウォードが商会で、どんな仕事をしているのかがよく分かった。スパイスの他に茶葉やシルクも仕入れている。その一方で、シルクを自国で生産しようと、蚕の養蚕場をアルモンド公爵は運営していた。
そう、蚕、シルク……。
そこで前世記憶から思い出したのが、乙女ゲーム内での「お洒落大作戦」というイベントだ。舞踏会に、目一杯お洒落をして、素敵なドレスで参加し、本命の好感度をあげよう!というものだったけど……。
ドレスを仕立てること自体もゲームになっており、生地となるシルクを手に入れ、良質なレースをゲットし、刺繍のために針子を雇ったりした。
その際、輸入シルクは海路で海賊が邪魔をするので、その討伐に。国内シルクでは蚕が病気になるので、その病原菌とバトルをしていたのだ。
よくよく考えると、「お洒落大作戦」というイベントは、この世界に転生し、まだ発生していないと思う。ということは、いつかは起きる。ならば備えあれば患いなしではないか。
そこで私はその昼食の席で、遠慮がちに手を挙げることになった。
記憶喪失以前のウォードであれば、無視するか、「口出しをするな」と怒ったかもしれない。でも今のウォードは違う。私を見て、あの碧眼をキラキラと輝かせ、全力で聞く姿勢になってくれる。ウォードがそんな態度なので、商会の幹部もちゃんと耳を傾けてくれた。
「なるほど。わたしが輸入で使っているルートでは、海賊が力をつけつつあるのか。でも確かにそのルートで運航する他の貿易船に、海賊被害は出ている。これは対策をした方がいいな。そして父上の蚕の養蚕場。微粒子病や軟化病で、蚕が死滅する危険があると。分かった。シャルロンの言う予防策は、養蚕場を維持するためにも有効だと思う。父上に報告だ」
テキパキと幹部やワイリーに指示を出し、その合間に食事を摂るウォードは……まさに仕事ができる男という感じでカッコいい! 彼への好感度は私の中でうなぎ上り状態だ。
何より自分が少しでも役に立てたのかと思うと、嬉しかった。それに食事を一緒に食べるためとはいえ、ランチミーティングに同席できたのは……とても有意義に感じている。
前世の私は仕事人間だった。容姿に自信がなく、恋愛を諦め、仕事に没頭していた。そしてオフの時は、乙女ゲームにハマっていたのだ。そして転生してもその気質――仕事人間だった部分は残っているのかもしれない。だからこそランチミーティングに身を置いても、興味深く聞くことができたのかもしれない。
ともかくそんな感じで、ウォードとは二人きりにはならないが、会話はある程度出来ていた。
そんな最中で我が家を訪ねてくれたのは、ソアールとカシウスだ!





















































