相当焦った
また臆面もなく「好き」と言われてしまい、耳がジーンと熱くなる。一方のウォードは、とても真摯に答えてくれた。
「あの頃のわたしは、こんな風に考えていた。夜遅くに帰ってこようと、どれだけお金を使おうと。好きなようにさせていたのに、突然、離婚を切り出された。驚き、頭にもきていたわけだ。よって売り言葉に買い言葉……のような会話になっていたと思う。大人げないな。申し訳なかった。ごめん」
「冷静に考えれば、ウォードの言う通りです。あの時の私は、ウォードに愛されることはないと悟り、ある意味、自暴自棄になっていました。それではいけないと気が付き、離婚するしかないと考えてしまったのです。でもあれだけ自由を許してくれていたのに。それ以上何を求める……となっても、おかしくないと思います」
「シャルロン……」
遠慮がちにウォードが私の手に触れる。まるで少年が少女の手に、初めて触れるように。でも我慢できないというように、ぎゅっと握りしめ、私の手を自身の額に押し当てた。
「……辛い思いをさせてしまい、すまない。本当にごめん。わたしは……大バカ者だ。愛する人を苦しめるなんて」
なんだかウォードが、また泣いてしまいそうだった。
ウォードは記憶喪失になってから、涙をこぼし、何度も謝罪の言葉を口にしてくれた。それだけ彼が私にとっていた言動を、後悔しているということだ。
記憶喪失になったからと言って、手のひらを返したように態度が変わるなんて!とは、もう思わなくなっている。例え元のウォードに戻ることがあっても。彼は前言撤回しないと宣言してくれている。何より私は……記憶喪失だった時のウォードのことを、忘れないと思えた。
「もう売り言葉に買い言葉になっていたのは、仕方ないと思います。それでも最終的に、ソアール皇女の教育係になることを、認めていただけました。そこは今も感謝しています」
すると自身の額から私の手をはなし、ウォードは苦々しい顔になってしまう。そして私が想定した通りの言葉を口にした。
「だがそのせいでカシウス皇子が君に」「何もありませんから、皇子とは!」
子犬のように瞳を潤ませるウォードが、私を見つめた。
嫉妬の必要なんてないのに。
そう思うがウォードとしては、不安なのだろう。
自身の態度が、私にどんな影響を与えていたのか、それを知ってしまったのだから。私が自暴自棄になっていたと知ったのだ。その上でウォードは、いまだ自分が私から愛されると確信を持てていない。そこに私を絶賛するカシウスが現れたとなると……。
しかもカシウスは皇子なのだ。影響力もある。ウォードが嫉妬してしまうのは……当然といえば、当然だった。ならばもう少し、ちゃんと伝えよう。
「カシウス皇子は、妹思いの優しい方です。時間が許す限り、妹であるソアール皇女のそばにいようとされています。でもそれだけです。私はソアール皇女の教育係であり、それ以上でもそれ以下でもありません」
ウォードは「分かった……」と、少し拗ねたように返事をして、それはとても可愛らしい。カシウスの件は、一旦頭から忘れて欲しいと思い、別の話題を振ってみた。
「朝食の席に、急に現れるようになりましたよね? あれはどうしたのですか? 仕事で忙しく、食事は同席できない……はずでしたよね?」
これにはまたウォードがたじたじになっている。こんな反応をされると、母性本能がくすぐられ、ウォードのことをぎゅっ抱きしめたくなってしまう。
「それは……君から離婚を切り出されたんだ。夫婦らしいことが、何もないと言われて。君からすると、冷静沈着に見えたかもしれない。でも実際、わたしも相当焦った。だが二人の関係改善のため、すぐにどうにかする勇気は……ない。だからせめて食事を共にしようと考えた。それでも忙しく、毎朝同席はできなかった。これが……わたしの精一杯だ」
「え? 本当ですか? 今はぐいぐいきていますよね?」
「そ、それは……」
ウォードの顔や耳、首まで、瞬時に赤くなっている。
その様子を見て、今日の所はここまでだろうなと思った。
「ウォード、私の疑問に答えてくださり、ありがとうございます。気になっていたことは、だいたい聞けたと思いました。でもまた何か思ったら……その時はその場ですぐに聞くようにします」
「ああ、そうしてほしい」
改めてソファで横に並び、ウォードと向き合った時。
胸がドキドキしていた。
暖炉の火に照らされたウォードは、なんだか情熱的な気配に包まれている。
キスの一つをしたところで、罰は当たらないと思う。
私達は夫婦なのだし、いろいろ話を聞くことで、誤解もとけたのだから。





















































