でも好きだった
「わたしはクレアルへ気持ちを持っていかれた時期がある。そこを悔いた結果だ」
あああああ、なるほど。
彼が私と距離をとったのは、そこが起点なのね。
乙女ゲームの世界なのだから、ヒロインにロックオンされ、彼女へ心を奪われても仕方ないことなのに。でもヒロインが別の人物と結ばれ、解放されたことで、自身の浮ついた気持ちが許せなかったのだろう。ウォードは根が真面目なだけに。
そう考えるにつけ、ウォードは、なんて不器用なのだろう。
どれもこれも説明されないと、理解できるわけがない!
結局、初夜に何もしなかったのも。その後も夫婦の寝室が使われなかったのも。
クレアルへ浮気心を抱いたことを、私が許していないと思っていた。申し訳なさが先に立ち、とても手を出せなかった……というのだから。
変なところで我慢強いのも、考えものだと思う。
「ただ、食事の件。これは本当に、忙しいから共に食べるのは難しいと考えていた。何せ食事をしながら会議も同時進行だ。サンドイッチを食べながら、書類に目を通すこともあった。この件については、表も裏もない事実だ」
「その件を、胸を張って言われても!」とウォードに言いたくなるのは我慢した。代わりに気になっている別の件を尋ねる。
「クーヘン村の件は、どうなのですか? 私は現場に向かったことを責められ、『何をしたかった?』と、あなたに問われましたが」
「ああ、もうそれは心配過ぎて、怒りへ感情が変わった結果だ。野宿なんて、危険だろう? 無事だったことが嬉しいのに。なんで素直にそう言えないのか。そこは……子供っぽかったと思う」
もう本当にこれは……!
心配し過ぎて怒りに変わっていたなんて、JK(女子高校生)の子どもを持つ親ではあるまいし。娘の帰りが遅いことを心配し過ぎて、結局雷を落としている両親みたいだ。
ホント、子供っぽい!
「すまなかった。ごめん」
こんなに今、素直に謝罪するなら、「何をしたかった?」なんて問う前に「ありがとう、よくやった」くらい、言ってくれればいいのに。
そう、思うけれど。心配してくれたと分かった。だから……。
「確かに心配になりますよね。騎士を連れていたとはいえ、夜遅くに村に向かうなんて。非常識でした。そこは私も軽率だったと思います」
「いや、そんなことはない。皆、シャルロンのことを褒めている。……あのカシウス皇子も」
そこでウォードの顔にジェラシーが浮かんだので、慌てて話題を変えようとしたが、うまく思いつかない。
でも私があわあわしているのを見て、ウォードは自ら話し始めた。
「あとレッドウッドの件は、祖先を敬う気持ちが強くて、つい言ってしまったのだと思う。言い方を考えるべきだった。何より、シャルロンは正しい行動をとっている。きちんと感謝の気持ちを伝えるべきだった」
「思う」という言い方になってしまうのは、記憶喪失で、その時の記憶がないのだろう。それでも「言い方を考えるべきだった」と言えて、「感謝の気持ちを伝えるべきだった」と言えるのは、誠意あることだと思えた。
「今さら、遅いかもしれない。だが、シャルロン、ありがとう。君の判断は村を火災から守ることにつながるだろう。……祖先にこだわったわたしや父上では、またレッドウッドを植えていたかもしれない」
「そう言っていただけると嬉しいです。ただ、レッドウッドを植えることになったとしても、それはアルモンド公爵家の意向だけではないと思います。村人たちもまた、レッドウッドを気に入っていました。木に生えるキノコも、有効活用していたのです。……少し臭いキノコでしたが」
「……なぐさめてくれているのか?」
これには「そんなわけでは!」とつい反応しそうになったが。
ウォードはこんなにも素直な自分を見せてくれているのだ。
私も……記憶喪失がどうの言わず、伝えよう。
「そうですね。なぐさめているというか……アルモンド公爵家だけのせいではないと、言いたかったというか。とにかくお役に立ててよかったです!」
この時のウォードの笑顔は、限りなく優しい。
見ていると、自然にキュンとしてしまう。
これを実感した瞬間。
気持ちの封印が、はずれ始めている気がした。
「シャルロンが聞きたかったこと。これですべて聞くことができたか?」
「あ、まだあります。……今さらですが、頑なに離婚を阻止されましたよね? 手段はないわけではないのに。それはやはり、家同士のつながりがあるからですか?」
「無論、家同士のつながりの件もある。だがそれ以上に……あの時のわたしは、うまく自分の気持ちを伝えられていなかった。でも好きだったんだ、シャルロンのことを」
また臆面もなく「好き」と言われてしまい、耳がジーンと熱くなる。





















































