わたし達は夫婦なのだから
ロイヤルブルーのテールコートをビシッと着こなしたウォードは……普通にカッコ良かった。「有無を言わさず、連れて行こうとするなんて、意地悪です!」と文句の一つも言うつもりでいたが、その気持ちは自然に冷めてしまう。
「シャルロン、ありがとう。急なお願いだったが、受け入れてくれて、嬉しく思う」
こう言われてしまうと、私はチクッと答えるしかない。
「国王陛下との夕食に誘われ、『無理です』とは言えませんから」
「それはそうだ。ともかく嬉しい。乗ってくれ」
ウォードにエスコートされ、そのまま馬車に乗り込む。
乗り込んだまではいいが……。
「隣に座るのですか!?」「夫婦なのだから」
これには「う~~~っ」と、威嚇する猫のように唸ってしまう。するとニコニコとしたウォードは「猫みたいで可愛いな」と私の頭を撫でた。
「な、何を……!」
私が驚愕したところで、馬車が走り出す。
ウォードは上半身をこちらへ向け、アイスシルバーの髪を、サラリと揺らして尋ねる。
「ダメか? わたし達は夫婦なのだから、これぐらいのスキンシップ、構わないだろう?」
またも「う~~~っ」と唸ると、頭を撫でられていた。
これには嬉しいのか、困っているのか、自分でも分からなくなる。
「シャルロン。わたしは記憶が断片的だ。だから教えて欲しい。わたしはこれまで君に、どんな態度をとってきたのだろう? ワイリーから聞く限り、わたしとシャルロンは……離れで共に暮らしているのに、ほとんど会話もなく、食事はまれに朝食を一緒に摂るくらいだったと聞いている。外出を、夫婦揃ってすることもないようだった。……本当にそうなのか?」
ウォードの碧眼は、真剣そのもので、真実を欲しているように思えた。こうなると、話した方がいいだろうと思った。宮殿に着くまでの道中は、ウォードと私の愛のない結婚生活を、明かすことになったわけだ。
窓の外から煌々と明かりが灯る宮殿が見えてきた。そこでようやく長話は終ったわけだけど……。
「ウォード、あなた、こんなに泣き虫でしたか?」
その頬を流れる涙をハンカチで押さえると、ウォードは私の手をぎゅっと握りしめ、さらに涙を落とす。
「シャルロン。申し訳ないことをした。わたしは……なんて愚かなことをしていたのだろう。それはわたしの本心ではない。わたしは……クレアル男爵令嬢の件があったから、シャルロンに自分が嫌われているのではと思い込んでいた。それでもわたし達の婚約は、家同士の取り決めであり、破棄にするなど許されない。シャルロンは、本当はわたしに愛想を尽かしている。だが体裁のため、結婚してくれたと思っていた」
ウォードの思いがけない打ち明け話に「え」となったところで、宮殿のエントランスホールへ到着してしまった。
すると。
ウォードは完全に公人モードになってしまい、さっき涙をこぼしたのが嘘のように、キリッとしている。そして私をエスコートし、国王陛下の侍従の案内で、宮殿内の廊下を進んでいた。
幅が広い廊下は、大理石で、等間隔に柱が並び、右手には庭園が見えている。左手には等間隔で扉が並んでいた。そんな周囲の景色に目をやりながらも、私の頭はウォードの言葉でいっぱいだった。
ウォードは自分が私に嫌われていると思っていたの? でも婚約破棄は許されない。だから我慢して私が結婚したと思っていたと言うの?
全くの誤解だった。そんなことはなかったのに。
でも……私への無反応や無関心、冷たく感じた言動が本心ではないとしても。だからと言ってウォードが私を好きだとは限らない。つい期待してしまうが、それはやめよう。
ということで国王陛下との私的な夕食に集中することにした。





















































