ざまぁをする気、満々になっている
「チャーチャ、着替え、必要かしら? 来客を招いてのお茶会ではないのよ。……ウォードと、いわばビジネスライクなお茶をするだけなのに」
「若奥様のおっしゃる気持ちはよ~~く分かります。ですがここは思いっきりお洒落をして、若旦那様に、切ない気持ちを味わわせましょう」
「え、チャーチャ、あなた何を言っているの……?」
淡いピンク色に、繊細な刺繍があしらわれたティーガウンを手にしたチャーチャは、ズバリ指摘する。
「勿論、一時的なものなのかもしれません。ですが傍から見ていても、明らかに以前の若旦那様と違います。……事故に遭う数週間の若旦那様は、朝食の席に不意に現れるなど、少し変化はありました。でも今はその時とは比べ物になりません。記憶喪失で、若奥様にどんな態度をとっていたのか、すっかり忘れたせいだからでしょうか。若旦那様が若奥様を見る時のあの眼差しは……まるで愛情を欲している子犬のようです」
昼食ではウォードを、なるべく見ないようにしていた。
でもきっと昼食の最中、ウォードは……子犬のようにしていたのかしら。
とにかく私自身、ウォードの異変を察知し、動揺している。それはチャーチャも同じようで、ウォードの激変に気づいていた。
「若奥様はこれまでのことがありますから、決して隙を見せません。するとますます若旦那様は若奥様に熱い視線を向けているんです。これまで散々な態度をとっていたのですから、若奥様が今のような態度をするのは当然だと思います。ですから、もっともっと若旦那様に、苦しい思いをさせてやりましょう。若奥様が涙で枕を濡らした分を、今ここでお返ししてやるんです!」
大変! チャーチャがざまぁをする気、満々になっている。私は……何もこれまでの分をやり返すつもりはない。ただ、記憶喪失をきっかけに変わったウォードと、うまくやっていこうとは思っていないだけだ。それはいつ何時、彼が元のウォードに戻ってしまうか、分からないから。そしてその私の態度が、ウォードを切なくさせるものだとしても……仕方ないと思う。
そのことをチャーチャに伝えると「分かっていますとも、若奥様。仕返しする気持ちなどなくとも、距離をとる若奥様の態度だけで、若旦那様には十分ダメージを与えることはできていますから!」となんだか嬉しそうだ。
ともかくチャーチャとしては、私がきちん美しくドレスを着ることで、切ない気持ちを勝手に高めてくれるからと、ティードレスを嬉々として着せてくれた。
こうして着替えを終えた私は、ウォードが指定した温室へ向かう。
温室に着いて、驚くことになる。
だって。
温室の中には、元々グリーンと花が咲き誇っていた。そこにバルーンが飾られ、グリーンにはリボンも結ばれていたのだ。アイアン製の丸テーブルには、わざわざクロスが敷かれ、椅子にはクッションも敷かれている。
テーブルにはチョコファウンテンが置かれ、沢山のフルーツやマシュマロが並ぶ。さらにシュークリーム、一口サイズのケーキ、カップケーキとスイーツが沢山あった。カラフルなマカロンや宝石みたいなチョコレートが並び、クッキーや焼き菓子もズラリ。とても食べきれる量ではない。
もうティーパーティーみたいな状態だった。
そこにコバルトブルーのスーツの上下に着替えたウォードが、着席している。真ん中分けされたアイスシルバーの髪の下の碧眼の瞳を細め、極上の笑顔を浮かべていた。
「どうしたのですか、こんなに……」
これは以前と言動が異なるウォードへの疑問ではない。二人しかいないのに、ティーパーティーでもするのかというスイーツの量に驚いた結果、口をついて出た言葉だった。
「せっかくシャルロンとティータイムができる。そこで思い出したんだ。シャルロンがどんなお菓子を喜んでいたのかを。『スイーツ・フェアリー』のメレンゲ菓子、『ショコラ・エレガンス』のエクレア、それに……」
ウォードは、婚約者になった私と半ば義務的に週に三回、お茶をしていた。そこで出されたスイーツで私が喜んだものを……彼は覚えていた。
そう、ウォードが思い出したスイーツは、全部私も覚えているものばかり。今もお店があるし、『スイーツ・フェアリー』のメレンゲ菓子なんて、屋敷に来たソアールとカシウスに出したものでもあった。
ウォードとお茶をした回数は多い。でも会話はそこそこ。特に、ヒロインであるクレアルと距離が近まりつつあった時のウォードとのお茶では、会話はないに等しかった。てっきりそんなお茶のこと、ウォードは忘れていると思っていた。でもそうではなかったようだ。
こんなにもいろいろ覚えており、そしてこのお茶の席に用意したということは……。
おそらくウォードにつく従者が買いに行ったのだろうが、大変だったと思う。
「シャルロン、座ってくれ。好きなだけ食べて欲しい。ちゃんと契約書は持って来た。大丈夫。君が食べている間に説明する」
こんな風に言われると、素直に腰をおろすかしかなくなる。
席に座った私を、ウォードがじっと見ていた。
碧眼の瞳は、澄んだ泉のようで、本当に美しい。
「あの頃は学校の制服姿だった。それはそれで可愛らしいものだ。でも今日のその淡いピンクのティードレスも、とってもいい。似合っている」
平常心を保つため、スイーツに視線を移し、ウォードに尋ねる。
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