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わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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17/71

その時、何が起きたのか

「倉庫の盗難の方は、扉をより厚みのある鉄製のものに替えたり、鍵を三か所つけたり、窓の位置を高い場所に変えたりといくつかの改善をすることでまとまったのです。夜間の警備兵をつける手筈も整え、スパイス泥棒の件は、大丈夫だろうとなりました。そこで行きに乗った馬車に、ウォード様と乗り込み、倉庫街を出発しました」


 港の近くにある倉庫街は、王都の中心部から、西へ馬車で一時間半程の場所にあった。雨が本降りになり、舗装されていない道は、ぬかるんだりしていたが、問題なく、馬車は走り続けた。


「馬車の中でウォード様は書類に目を通し、サインを入れるなど、いつも通りの執務をこなしていました。領地の村から届いた時計塔の修繕希望などについて自分と話したりして、もう間もなくお屋敷というところまで、帰って来ていたのです」


 湯気が立つポタージュが到着した。ワイリーは雨に打たれ、体が一度、芯まで冷え切ったはずだった。ポタージュを飲み、体を温めるよう勧めた。


「若奥様、お気遣い、ありがとうございます」


 そう言うとワイリーはスープを平らげる。そして再び話を再開させる。


「T字路に向かい、馬車を走らせていました。その途中に、アーチ型の橋を通過することになったのです。少し傾斜のある橋ですが、いつも問題なく通過しています。ところが今回、御者が言うには、アーチの頂点近くに着いた際、人が倒れているのが見えたと言うのです」


 その人を避けようとして、馬車はバランスを崩し、左側に大きく傾いた。ワイリーとウォードは、思いっきり馬車の扉に激突することになった。


「どうも馬車の扉の鍵が緩んでいたのか、ウォード様と自分の二人で激突することで、扉が開いてしまったのです。外へ放り出されそうになりました。ですがウォード様が掴んでくれたんです。上衣の首の後ろの襟もとを。そして馬車の奥の方へと、自分のことを投げ飛ばしてくれました。おかげで自分は落下を免れましたが……」


 代わりにウォードが橋の上に投げ出された。しかも投げ出された直後、馬車が倒れ込んできたのだ。つまり、逃げ場がない。ないわけではなかった。橋から川へ飛び込めばいい。


 そこでウォードは橋から川に飛び込んだ。


「馬車の後ろには、護衛で騎士がついていました。彼はすぐに川へ飛び込み、ウォード様の救出に当たってくれました。と言ってもウォード様は、泳ぎの訓練を子どもの頃に受けています。よって騎士に先導されながら、川岸へと向かいました。その時点では、ウォード様は意識があったのですが……。岸に着き、護衛の騎士が手をウォード様に貸そうとしたところ、そのまま倒れられたのです」


 馬車から投げ出された時、ウォードはきちんと受け身をとったようで、頭を打たずに済んでいる。だからこそ、咄嗟の判断で、川に飛び込むこともできた。だが川岸に到達した時、不運なことに意識を失い、倒れた。そして頭を打ったようなのだ。


「その後は、通りがかった他の馬車が、自分や御者のことを助けてくれました。さらに後続でやってきた馬車は、王都警備隊を呼びに行ってくれたようで……。情けないことに自分は、激痛にほぼ何もできませんでした」


 何もできないと言うが、ワイリーは倒れた馬車の中で散乱する大切な書類を、王都警備隊が来るまでに、全て回収しているのだ。そしてその書類を持って、病院へ案内してもらい、治療を受けた。その後、書類を手に屋敷まで帰還したのだ。公爵家当主補佐官として、立派な働きをしたと思う。それを指摘し、「立派でした」と褒めると、ワイリーは頬を赤くした。


 ちなみに王都警備隊は、王都の警備や事件・事故の捜査・解決に当たる、前世でいう警察組織だ。交番のように、王都内のあちこちに屯所が設置されていた。


「若奥様にそんな風に言っていただけるのは、とても光栄です」


 そこに鶏もも肉のグリルが到着し、ニンニクのいい香りが漂う。

 この香りでウォードが目覚めたりしないかとチラリと見るが、瞼が閉じられ、碧眼の瞳を見せることはない。


 そこでふと思い出す。


「ワイリー。馬車が事故を起こすことになったきっかけ、馬車道に倒れていた人間はどうなったのですか?」


「フード付きのロングローブが、馬車道に落ちていたのです。しかもフードの部分にボールが置かれていました。咄嗟に見ると、確かに人のように見えたのです」


「ということは、人間は馬車道に倒れていなかったのですね。それはそれで一安心です。でもなぜそんなものが?」


 鶏もも肉のグリルは、ちゃんとワイリーの分は、切り分けられている。おかげでワイリーはナイフを使うことなく、フォークのみで、食事を続けている。


「馬車の進路に障害物を用意し、無理矢理停車させる。そこに仲間がやってきて、強盗を働く……という犯罪が、郊外では増えているそうです。もしかするとそういった犯罪者の仕業かもしれません」


「王都警備隊は、事故の原因についての捜査、そんなものを置いた犯人の捜査は、してくれているのよね?」


 ワイリーは頷き、口元をナプキンで拭う。


「勿論です。ただ、残されたボールもローブも、これと言った特徴がなく……。犯人逮捕は難しいかもしれません」

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