その上で、私は求めます
「どう思っているか、だと? 君はどう思っている?」
ウォードはチラッとこちらを見ただけで、肉料理を口に運んでいる。
しかも質問に対し、質問で返すって……。
それはこちらの質問に、答えていないことになる。
でもそんなこと、ウォードはおかまいなしだ。
ここで「あなたはどう思っているのですか!」と問い返したくなるのをグッと堪える。
「私はこの結婚生活は、意味がないものだと思います」
ガチャンとお皿にナイフとフォークを置いたウォードが、ここにきて初めて感情を露わにした。
「意味がないもの、だと?」
焼き立てのパンをお皿に置こうとしていたメイドの体が、ビクッと震える。
ウォードにしては、剥き出しの感情だった。
「はい。お互いがそこにいないような関係です。この状態を維持し続ける意味が分かりません」
腕組みをし、背もたれに身を預けたウォードは、碧眼の瞳を細めた。不快感露わな顔で私を見る。無反応・無表情より、感情があるだけマシかもしれないが、こんな顔を向けられるのは、普通に悲しい。前世でゲームをプレイした時、なぜ私は彼を推していたのだろう?という悲しみも湧き上がる。
「君は……もっと聡明だと思っていた。わたし達の結婚は、家同士のつながりを深めるための、実に政治的なものだ。意味がないわけがない。意味は大いにある。それくらい、言われなくても分かっていると思ったが」
貴族社会における結婚の定番理論だ。確かに言われなくても分かるべきこと。
例え、そうであったとしても……。
「それはあなたの言う通りです。その上で、私は求めます」
「一体、何をだ?」
ウォードが片眉をくいっと上げる。
「離婚です」
これにはウォードより、メイドが反応した。ウォードが食べ終えた料理の皿を下げようとして、そのお皿に載ったナイフとフォークを落としてしまったのだ。
毛足の長い絨毯が敷かれているので、大きな音はしない。
それでもメイドは大慌てでそれを拾い「申し訳ありません!」と謝罪し、急いで部屋から出て行く。
一方のウォードは完全に怒りの顔つきになり、怒鳴った。
「離婚など、認めるわけがない! この国、いやこの国だけではない。この大陸にある国の多くが、主の教えに従い、離婚を良しとしていない。そんなこと、常識だろう!」
「ではイーロ国へ行きましょう。この国は、大陸では数少ない離婚を制度として認めています」
「な……なぜそんなことを知っている!?」
ウォードは驚きの目で私を見るが、そこで話が途切れるようなことは、したくなかった。
「花嫁の修行の一環で、外国語を覚えました。そこで大陸には他にどんな言語があるか気になり、様々な国ついて調べたのです」
「本当に君は……学園にいた時から才女だったが……。イーロ国で離婚が認められている理由も、分かっているのだろうな?」
この様子だとウォードも、イーロ国のことを知っているようだ。
イーロ国は、大陸のはずれにある小国で、もしかするとこの大陸の大勢が、その名を知らない国かもしれない。それを知っているということは、ウォードもそれだけいろいろ学んだということだろう。
そこは……やはり尊敬せざるを得ない。彼が勤勉なのは、今に始まったことではないのだから。
「イーロ国は、独自の宗教観を持っています。多数の神が存在し、物にも神が宿ると考えているのです。離婚を許す神もいれば、許さない神もいる。よってイーロ国では、離婚も認めているのです」
「その通りだ。つまりはわたし達からすると、異教徒だ。そんな異教徒の暮す国に移住し、生きて帰って来れなかったら、どうするつもりだ!?」
「そんな、まさか。ちゃんと生きて」「それに移住なんてして、商会の経営はどうする? 執務だってたまる。無理だ!」
私の言葉に重ねるように、ウォードが否定の意見を表明した。
でもこうなることは想定内。ひるまずに口を開く。
「では別居をしてください!」
「別居!? それこそありえない! どれだけ外聞が悪いことだか、分からないのか!?」
「ではラエル皇国の皇子の妹君、ソアール皇女。この国に滞在中の彼女の教育係をやらせてください」
「なに……?」





















































