表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/71

私には見せない顔

 クーヘン村から届いた手紙を読んだ私は、泣きそうになる。


 まず、こんな風に手紙をもらえたこと自体、喜ばしいことだった。

 次に、ウォードが復興のために予算を割り当てたことに、良かったと思っていた。

 さらに、イチョウの木を植えることを、ウォードが認めてくれたと分かり、驚き、嬉しい気持ちが湧いていたのだ。


 レッドウッドを植えたのは、ウォードの祖先だ。それなのに私がイチョウの木を植えるよう勧めたので、ウォードは「レッドウッドを植えたことを、批判するつもりなのか?」と実に辛辣だった。それに「なんて生意気なことを」なんて言い出したのだ。


 てっきり、イチョウを植えることは認めず、「レッドウッドを植えろ!」になったと思っていたが、そんなことはなかったのだ。


 なんだかんだで私には冷たいウォードだが、未来の公爵としての器は、ちゃんと持っているのだろう。


 薄々気づいていた。


 ワイリーは公爵家当主補佐官をしているが、彼自身は伯爵家の次男だ。もしウォードの性格が最悪であり、執務も自己中心的に回すようなスタイルだったら、匙を投げ、辞めることもできた。でもそうしないということは。ワイリーはウォードと執務をこなすことに、苦痛を感じていない。公爵家当主補佐官として、ウォードを支えたいと思っているに違いなかった。それはつまりきっと、ウォードはワイリーに、私には見せない顔を見せているのだろう。


 クーヘン村からの手紙で、ほっこりしていた気持ちが急速に沈んでいく。


 ううん、もう気にするのはやめよう。


 気持ちを切り替え、それぞれに返信の手紙を書いていると、ワイリーが部屋へ訪ねてきた。


「若奥様、ウォード様と話す時間がとれました。昼食をご一緒に摂るとのことです」


「……! ありがとうございます、ワイリー。でもまさか昼食を一緒に摂ることができるなんて……」


 驚く私を見て、ワイリーは苦笑する。


「本来、若奥様とウォード様は、三食を共にしてもおかしくないのです。これまで別々だったのが、異常なんですよ。昼食くらい、一緒に摂って当然です」


 ワイリーの言葉に「そうよね」としみじみ思ってしまう。

 周囲から見たら夫婦なのだから。一緒に食事をしているだろうと思われていたはず。それなのに実態は、この離れで一度も食事を共にしていないのだから……。確かに異常だ。でも食事は別々に慣れっこになっていた。


 何はともあれ、食事を共に摂るなら、一時間は会話できる。それならば例の件も、じっくり話せるだろう。


 そう思い、お昼が来るまで手紙の返信を書き続けた。


 ◇


 いよいよお昼の時間になった。


 自分の中で決心ができたとはいえ、これはとても緊張する。


 何度か深呼吸をして、さらには何かを察知したチャーチャにも励まされ、ダイニングルームへと向かった。その扉の前に着くと、再び気持ちが張りつめていると感じる。


 それでも扉をノックし、内側で待機しているメイドが開けてくれると、背筋を伸ばし、中へ入る。


 私の中では、既にウォードが着席しているイメージだった。


 だがダイニングルームのテーブルに、食器やグラスが並べられ、今にも食事をスタートできる状態だったが、そこには誰も着席していない。


 ウォードは忙しい人だ。私より先にここに来て、着席しているはずがない。


 そう思うと肩から力も抜ける。


 期待をするから、裏切られたと思ってしまう。


 急に話をしたいと言い出した。何だろうと気になり、早く部屋に来て待っていてくれる……そんな想像と期待、最初からしなければ、こんな気持ちにならないのに。


「若奥様、どうぞこちらへ」


 メイドに案内され、着席する。

 その席は、私の定番位置。

 窓から離れの美しい庭が見えた。


 離れの庭は、まるで林の様だった。

 母屋の庭園には花壇があり、沢山の花が咲く。

 でも離れの庭園には、木々が並び、そして池があった。

 紅葉したプラタナスの森が、広がって見える……。


 ダイニングルームには、私の背丈ぐらいはある置時計がドーンと配置されている。振り子が左右にスイングし、時を刻んでいた。


 カチ、カチ、カチ、カチ……。


 鳥の鳴き声が聞こえ、視線を再び庭に向ける。


 リスが駆けて行く姿が見えた。


 王都の一等地なのに。この庭園では、リスをよく見かける。


 カチ、カチ、カチ、カチ……。


 静かに時が刻まれる。


 メイドは扉のそばで待機し、私はテーブルの上に飾られた秋薔薇を眺めた。

 春薔薇は外で楽しみ、秋薔薇は内で愛でる――そう言われているゆえんは、秋薔薇は小ぶりだが発色がよく、長持ちするからだろう。まだ蕾の多いその薔薇は、しばらくこのテーブルを飾ってくれそうだ。


 カチ、カチ、カチ、カチ……。


 スマホがあれば、時間を潰せるのに。

 この感覚は異世界転生した後も、ずっと残っていた。

 この世界で覚醒して過ごした年数より、ガラケーから始まり、スマホを持っていた年数の方が長い。だからいまだにスマホがあったら……という感覚が抜けきれない。


 そこで思うのが、こういう時の手持ち無沙汰な時間、どうやってやり過ごしていたのだろう?――ということ。


 スマホが当たり前になっていたから、飲食店で注文し、料理が出てくるまでの間。電車やバスを待つ時も。電車やバスに乗った後も。ずっとスマホを見ていた。


 コン、コン、コン。


 ノックの音に飛び上がりそうになる。

 予定時刻から二十分近く遅れ、ウォードが部屋に入って来た。


 ウォードは私に「待たせた」の一言もなく、席に着き、メイドに目配せをする。

 すぐにメイドが動きだす。


「それで、話とは何だ?」


 ウォードがナプキンを広げながら、上目遣いで私を見る。

 本当に宝石みたいに美しい瞳なのに。

 こんな風に一切の感情なしで見られるのは……。


「はい。それは私達の結婚についてです」


 この一言でウォードが動きを止めたり、少しは感情が動いた目で私を見てくれるかと思ったが、そんなことはない。


 卵料理の皿を出すメイドの様子を目で追っている。


「それで?」


 手を合わせ、祈りの言葉を短く口にしたウォードは、スプーンを手に取り、既にスープを口に運んでいる。


 私がいるのに、私などいないように、どんどん食事を進めていた。しかも結婚について話があると言っているのに、完全に無反応。


 今の愛のない結婚状態で、結婚について私が話題にしようとしていると分かったら、もっと何かリアクションがあってもいいのでは?


 そう思うが、グッと堪え、祈りの言葉を捧げ、私もスプーンを手に持つ。


「結婚式を挙げてから、間もなく三ヵ月が経ちます。ですが私達は夫婦らしい会話もなく、夫婦の営みもなく、夫婦らしいことを一切何もしていません。これについて、ウォードはどう思っているのですか?」


 怒りを堪えたつもりだったが、完全にコントロールはできていなかった。

 「夫婦の営みもなく」なんてことを、メイドがいる前で口にしてしまったのだ。

 直前のウォードの無反応に、どうしても感情が揺さぶられてしまった結果だと思う。


 ただ、もう使用人の多くが気づいていると思った。皆、口に出せないだけで。


「どう思っているか、だと? 君はどう思っている?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●商業化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●もふもふも登場!●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
日間恋愛異世界転ランキング3位!

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●心温まる物語●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~
『悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~』は勿論ハッピーエンド!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ