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第9話 女はマウントしなきゃ生きていけない生物♡ ~女には負けられない戦いがある~

 快諾してから気づいたが、魔法少女の話を誰にも聞かれたくない。だから二人は戦闘現場になった公園で、缶ジュースでも飲みながら話すことにした。奥まったベンチで声を落として話せば、誰にも聞かれる心配はなかった。


 一応助けてもらったからと、近くの自販機でジュースを買う野乃花。本日二本目とあって、辟易している。



 ジュースを手にベンチへ戻ると、見覚えのあるセーラー服姿の女子高生が座っていた。

 変身を解いた青い魔法少女は、なんと西女の生徒。前話で野乃花が散々「バカ高」とこき下していた、あの西女だ。だとしたら、敬語が怪しいのも納得だ。


 だがしかし。万一にも「受験に失敗して滑り止めに入学した賢い子」のパターンかもしれない。

 雰囲気はしっかりした子っぽいし、バカではないと信じたかった。


「改めまして、アタイは速水萌音(もね)と申します。アナタ様は何者でござんますか?」

「私は佐倉野乃花。よろしくね」

「その校章、もしかして一年生の方でよろしかったですか?」

「あ、はい」

「アタイも今年入学したでござんますのよ」

「じゃあ同い年ね。お互いに敬語はなしにしようよ」


 でたらめ敬語に辟易していたので、野乃花はぜひにとタメ口を勧めた。

 しかし萌音はキッパリとこう言った。


「いえ、アタイはこの話し方が()()()()()ですから。お気になさらず、あんたはお好きにお話しになってくんなまし」

 デフォルメ? なぜ今デフォルメが出てきたのだろう。一瞬、野乃花は虚無顔になったが、すぐに「デフォルトと間違えた」のだと気づいた。語音が似ているし、仕方ない……と思おうとしたが、やっぱり無理があると思う。


(やっぱり西女クオリティって感じかしら)

 野乃花はそんなことばかり考えていたが、萌音は顔を輝かせた。


「実はアタイの兄貴も桜高に通っていますのよ。なんだか運命を感じるでござんますわね」

「もしかして、速水ナイト先輩ですか?」

「あら、兄貴をご承知でしたのね」

「!」


 なんという偶然の連続だろう!

 ナイト先輩の妹に会えるだけでなく、自分と同じ魔法少女だなんて。これは運命に違いない。


 野乃花の脳内で、ナイト先輩との将来を確約する勝ち確定演出が流れ始めた。


「あの、私、ナイト先輩と同じ部活の後輩なのね。お兄さんにはいつもお世話になってます」


 野乃花はペコリと頭を下げた。つられるように、萌音も頭を下げた。

「こちらこそ、うちの愚息がお世話になり申してござんす」


 愚息って、息子に使う言葉では? 野乃花は虚無顔になりそうになったが、突っ込んじゃいけないと思い、すぐに疑念を打ち消した。


 しかしこうも言い間違いが多いのは、やっぱりナイト先輩に似ている。野乃花は妙な嬉しさを覚えた。


「でも兄貴には魔法少女のことを隠してますの。おだまりになってくださいまするでしょうか?」


 やっぱり、なんか敬語が変じゃね?

 なんとなく言いたいことはわかるが、話が入ってこない。


 まぁ魔法少女やってるなんて誰にも知られたくないし、家族には一番知られたくない気持ちもわかる。野乃花は快諾した。



 これを皮切りに二人は打ち解け、様々な話をした。


 萌音は高校入学と同時に魔法少女になったので、野乃花より二週間ほど先輩になる。少しの差に思えたが、萌音は魔法少女についてよく知っていた。

 萌音の話には、野乃花に理解できない知識や用語が時折混ざっていたが、萌音は丁寧にフォローしてくれた。体力を消耗しにくい魔法や、無関係な人に見えない結界を張る魔法とか、萌音は便利な魔法を教えてくれた。


 役立つ新情報を聞くたびに「先に教えておけよ、あの毛玉野郎!」というイラつきが膨らんでいった。もちろん人前には出さない感情だが。



「萌音ってよく知っているのね!」

「野乃花さんは、お妖精さんに教えてもらいにならなかったのであらせられますか?」

「あはは。うちの妖精、ぼんやりしてるから……」


 言えない。まさか主なコミュニケーションが恫喝と暴力で、まともに会話したことがないだなんて。

 今さらながら、ポロンとは歪な関係になってしまったと野乃花は痛感した。


「そうだ。ご紹介して差し上げます。うちのボロロンちゃんです。アタイ共々、よろしくお願いしてくんなまし」


 萌音はそこら辺に漂っているボロロンを呼び寄せた。


 ボロロンが萌音の頭に乗ると、萌音はニコニコ笑顔のまま、ぼそっと呟いた。

「そこじゃねーだろ」

「すまんボロロンッ」


 ボロロンは飛びのけるように、慌てて萌音の肩に移動した。


(え、今のなに?)

 きっと二人はお互いにしか聞こえない声で話したつもりなのだろう。しかし野乃花はバッチリ聞いてしまった。


(き、気のせいよね。私が口悪いから、他人も同じこと言うんだと思っちゃっただけかも)


 柔らかい笑顔の優等生様が、あんなドスのきいた声を出すだなんて。野乃花は自分の見間違いだと思うことにした。



「ポロンさんは、ボロロンちゃんとご学友ござんますのね?」


 萌音が尋ねた。

 ポロンが言葉を選んでモジモジしているうちに、ボロロンが答えた。


「おれたちは同期だボロロンッ。でもポロンは成績が悪くて、人間界に来れなかったボロロンッ」

「あらぁ。だからボロロンちゃんの方が先に人間界に馳せ参じたのでござんますのね。御身に余る光栄ですよ、ボロロンちゃん」


 褒められたボロロンは、のけぞるほどに胸を張った。


「でも結果として、ぼくも同時期に派遣されたポロン。ボロロンもそこまで上じゃないポロン」


 ポロンは独り言のように呟いたが、しっかりと通る声だったので皆によく聞こえた。


「ぐっ……」

「ああ、ごめんポロン。心の中の声がつい漏れ出ちゃったポロン!」

「お前ッ、覚えてろよッ!」

「怖いポロン! いじめないでほしいポロン!」

「ノープロブレムでござんますわ、ポロンさん。こっちにいる間は、アタイが目ぇ張っときやすから」

「ありがとうポロン、萌音」


 一連のやりとりを見て、野乃花はこう思った。

(毛玉同士でも、あんなバチバチにやり合うのね)


 あのヘタレなポロンが、まさかいじめられっ子に言い返すなんて。意外と根性があるのだと、野乃花は感心した。


「さ、仲直りの握手でござんますわ。野乃花さんもぜひ」

「あ、はい」


 まずは人間・妖精同士が握手し、次にお互いのパートナーと握手することになった。萌音と握手した後、野乃花はボロロンと握手することになる。

いけ好かない野郎との接触は正直嫌だったが、ここで断るのも感じが悪い。野乃花は何事もないように、右手を差し出した。


「ふんっ!」

 差し出した野乃花の右手を、ボロロンは思いっきり弾いた。そしてケタケタと楽しそうに笑ってい

た。


「あら、ごめんあそばして。うちの子はヤンチャでして」

 萌音はあっけらかんと笑っている。その顔は「しからない育児と称してクソガキを野放しにしているバカ親」という感じだった。



 なんとなくだが、野乃花は萌音に見下されているような気がした。

 ポロンから習っていないせいで野乃花は知らないことが多く、萌音にとっては「こんなことも知らない無能者」という烙印を押されたのだろう。言葉や態度の端々に、マウントじみたものを感じた。


 その笑みが決定打となり、野乃花はキレた。


 いつもポロンにやっているように、野乃花はボロロンを鷲掴んだ。一応いつもよりは力を弱めているのだが、ボロロンは半狂乱でわめき続けた。


「い、痛いボロロンッ! やめるボロロンッ!」

「ごめんなさいは?」


 野乃花の声はゾッとするほど冷たかった。


「ボロロンッ?」

「悪いことしたらごめんなさいでしょ」


 ボロロンはヒッと小さな悲鳴をあげた。


「おい、うちのボロロンに何してやがる!」


 ここで萌音の目つきが変わった。睨みは素人とは思えないほどに鋭く、声は先ほどのボロロンとの会話時のようにドスがきいている。


(あ、こいつは元ヤンだ)


 野乃花は確信した。しかしそんなことは関係ない。もしここで引けば、萌音は野乃花が格下だと確信し、これからもずっとバカにしてくるだろう。こちらにもメンツがあるので、引くという選択肢はなかった。


「いい加減手ぇ離せや」

 萌音は野乃花の腕を掴んだ。


 しかし野乃花はボロロンを手放さない。


「その前にやることがあんだろ。てめえコイツの飼い主だよな。ペットが粗相したら、先に言うことあるじゃねーの?」


 萌音はボロロンと野乃花を一瞥して、頭を下げた。


「うちのが無礼を働いたのは詫びる。でもいきなり暴力は違うんじゃねーか」


 野乃花は笑顔で、ボロロンごと右手を萌音の前に突き出した。

「肝心のボロロンちゃんから、まだ謝罪の言葉をいただけてないようですが?」


「おい、謝れ」

 萌音は顎でくいっと野乃花を示して、ボロロンに謝罪するよう促した。


「ご、ごめんなさいボロロンッ、ごめんなさいごめんなさい!」


 必死にすがる様子を見て、野乃花の溜飲が下がった。

 手を離すとボロロンはその場に落ちた。


「お前、根性ねえな。うちのはこれくらいじゃピンピンしてるぜ」


 野乃花はいつもポロンに話すノリで、感想を伝えた。しかしその言葉が決定的となり、ボロロンはおいおいと泣き出した。


(ええ、コイツこんなにメンタル弱いのかよ)

 野乃花はドン引きしていたが、ポロンは愉快そうにボロロンを見ていた。


 だが面白くないのは、萌音だ。一件落着したのに、まだ厳しい目で睨んでくる。


「てめぇ、最低だな」と萌音。

「そう? 初対面から悪い冗談仕掛けてくる妖精をお持ちのあなたには負けるでございます。あ、ごめん。アンタの敬語、でたらめすぎて上手く真似できなかったわ(笑)」


 野乃花はあえて、先ほどまでの萌音の口調を真似た。それがよほど気に障ったのだろう。

 萌音はまさにムキーッという感じで、怒りで口をパクパクさせていた。


「てめぇと仲良くできると思ってたアタイが馬鹿だったわ! 二度と話しかけんじゃねーぞ!」

「あら、奇遇ですね。私も同じこと思ってましたよ」


 野乃花は去りがてら、足を止めてこう付け加えた。

「『アンタが馬鹿』ってところがね!」


「キーッ!」

 萌音は奇声をあげて公園の遊具を蹴りまくっていたが、野乃花は無視して帰ってきた。

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