第14話 ついにきた!ようこそ☆後輩さん ~野乃花、涙のラストバトル~
テスト期間中は踏んだり蹴ったりな野乃花だが、実はいいことも同時進行で起きていた。
それは、野乃花の後任になる魔法少女候補が見つかったことだ。
話は宗介と勉強を開始した、その翌日に遡る。
机にかじりついている野乃花のもとへ、ポロンがやってきた。
「野乃花、グッドニュースだポロン!」
「大事な話じゃないなら後にして」
野乃花は教科書から顔を上げずに冷たく言い放った。
「野乃花の代理が見つかったって言いたかったポロンが……」
野乃花はがバッと顔を上げた。
「聞かせて!」
「野乃花の召喚獣が協力してくれたおかげで、桜高内で候補になりそうな子を五人くらい見つけたポロン。これから適性とかを見極めて、さらに候補を絞り込んでいくポロン」
「そう。交代の日が決まったら教えて」
野乃花は机に向き直った。
「それだけポロン? ぼく頑張ったんだから、少しは労わるポロン」
「甘えんな」
それから野乃花は英単語を呟くだけのマシーンと化してしまった。
ポロンは寂しそうにしていたが、毎回テストのたびに超不機嫌な野乃花の相手をするのはたまったもんじゃない。釈然としないが、ポロンは引き続き調査を続けた。
× × ×
ポロンが野乃花に最終候補者を教えたのは、テスト最終日の夜。抜け殻になった野乃花だが、喜ばしい報告を聞いて若干生気が戻った。
「野乃花の学校にいる、二年生の立花ホノミって子ポロン。プロゴルファーを目指して、今はプロテストに向けて特訓しているポロン」
「いいじゃない! 魔法少女も兼任したら、いい売名になるわね」
「本人も同じこと言ってたポロン。そこで野乃花の戦いぶりを見学させてあげたいポロン」
「は? なんでよ」
「ホノミからお願いされたポロン。身体を壊さないか、一度見ないとOKできないらしいポロン」
「まあ、プロスポーツ選手なら当然か。でも見学なら萌音でよくない? いつかは共闘するかもしれないんだし」
「ぼくボロロンに会いたくないポロン」
「あーハイハイ」
「もちろん変身後の姿しか見ないから、野乃花だとバレないはずポロン。遠くから見るし、野乃花には迷惑かけないポロン」
「わかったわよ。さっさと片づけたいし、何時でもどうぞ」
「ありがとポロン。じゃあ次に悪の組織が出てきたら、ホノミを呼ぶポロンね」
こうして後任魔法少女(仮)の見学が決まったのだが、翌日早速、悪の組織が現れた。
昼休みになった途端、野乃花の腕時計が震えた。腕時計を操作すると、近所の神社に太陽マントが出現したと表示された。
内容的に召喚獣に任せられる案件だが、今回ばかりは見学のため野乃花が戦うしかない。
これが最後の戦いかとしみじみしながら、野乃花はそっと教室を出た。
屋上に着くと、すでにポロンが待っていた。
「野乃花、行くポロンか?」
「ここからなら後任さんが見学できるでしょ?」
「じゃあホノミを呼んでくるポロン」
「用意ができたら連絡してね」
野乃花は腕時計を指さした。
ポロンが去った後、野乃花はステッキを構えた。
「わくわくマジカルピク♡ピクチャー」
ピンクの煙幕があがり、マッチョな召喚獣が登場した。
「神社まで飛んで」
「ジュテーム、モナムール」
召喚獣は野乃花をお姫様抱っこすると、強靭な脚力で神社までジャンプした。
(気持ち悪いけど、コイツかなり便利なのよね)
最近レベルが上がったせいで、召喚獣は色んなことができるようになっていた。
戦闘用の新技はもちろん、音速移動や飛行並みの跳躍、さらにはモールス信号やカービングまでできるようになっていた。
まあ人参の飾り切りなど役に立たないスキルも多い上に、なにより欲している「人語を喋る」だけが未だ達成されない状態なのだが。
神社の境内にある森の中へ、二人は着陸した。
「何者だ!」
ガササッとかなり大きな音がしたので、太陽マントたちは慌てふためいていた。敵は全部で五人。いつもの人数である。
(うわー、こっちに来てる!)
見つかったらマズイので、おとりとして召喚獣に戦わせることにした。
「気持ち弱めの出力で、敵をタコ殴りにしてきて。あ、トドメは私がさすから」
「ジュテーム、モナムール」
命じられた召喚獣は、一気に森から飛び出した。
最初は「キモッ」という声が聞こえたが、次第に悲鳴の質が嫌悪から苦痛へと変わっていく。キモイ見た目に反し、野乃花の召喚獣はかなり強いのだ。
野乃花が待機していると、腕時計に通知が届いた。
「野乃花、準備オッケーポロン」とポロンの声。
「わかった。今から戦うわ」
野乃花は召喚獣を下がらせ、自分が前に出た。
敵はすでにボロボロだったが、まだ戦う気力を失っていない。だが魔法少女の登場により、絶望的な顔をしていた。
「お、お前は……!」
「小桜♡ちくちくハリケーン!」
遠くからホノミが見ていることを意識し、野乃花はあえて魔法少女らしい大げさで可愛い動きをしながら魔法を唱えた。
桜吹雪が舞い踊り、かまいたちのように敵の身体を切り裂いていく。
「このマント、昨日新調したばかりなのに!」
太陽マントは情けない声を出し、戦闘員を連れて急いで撤退していった。
「正義は勝つ♡」
野乃花はあえて勝利のポーズを決め、遠くからホノミにアピールした。
(決まった……!)
野乃花は密かに感動していた。
最後の戦いをやり遂げたのだ。長かったような短かったような、これまでの思い出たちが走馬灯として駆け巡る。その余韻に浸っていたのだ。
× × ×
召喚獣は野乃花を抱くと、ジャンプして屋上に戻った。
屋上にはポロンとホノミが待っていた。
ホノミはガッチリとした体格で、いかにも健康そうな女子だった。ショートカットヘアと日焼けした肌がよく似合っている。
野乃花は親愛の意味も込めて、努めて優しく微笑んだ。
「はじめまして。私の戦い、見ててくれた?」
「あ、はい」
ホノミは困ったように頷いた。
さすがに覚悟していても、魔法少女の生の戦いを見てビビったのだろうか。だがいきなり非日常に出会えば当然の反応だ。野乃花はその反応を初々しいと感じていた。
「最初は大変だろうけど大丈夫。すぐに慣れるし、頼れる先輩魔法少女もいるから。だから安心して」
「ごめんなさい!」
野乃花が話している最中で、ホノミは深く頭を下げた。
「私、やっぱり無理です」
「は?」
「あんな気持ち悪い敵相手に戦うなんて無理です。それにその人、めっちゃ気持ち悪くないですか?」
そういって、ホノミは野乃花の召喚獣を指さした。
「生理的に無理なんで、失礼します」
一方的に言い切ると、ホノミは屋上を飛び出した。後にはポカン顔の野乃花とポロン、そしてやたらいい笑顔の召喚獣だけが残された。
「だ、だめだったポロンね」
ポロンがその場を和ますように言った。
「ちょっと繊細な子だったから、仕方ないポロン。野乃花みたいに根性が座ってないなんて、ダメだポロンね!」
ポロンは陽気に笑っていたが、今はその声がやたらと耳につく。
野乃花はポロンの顔を鷲掴みにして、屋上から遠くへと投げ飛ばしたのだった。