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小説を書くのって難しいですね。
さむい...
ねむい...
ふとん...ふとん......
「――したがって、この数式を解けば――」
うるさい...ねかせろ......!
「なんだとこの野郎!!いつまで寝てんだ!!」
「どぅぉおあ!」
こうだいなゆめのせかい――もとい、しがみついていた机が強引に揺すられて、脳が一気に現実に引き戻される。まじ眠いんだって。寝かせてくれよ……。
「先生...」
「『せんせぇい』じゃねぇ!毎度毎度最前列のど真ん中で寝やがって」
毎度おなじみの魔導学の先生だ。頭頂部だけ禿げてる60過ぎのじじいのくせになんて声量してやがる。
「退屈なんすよ」
「解説くらい聞いとけ!」
「そんなでかい声出さないでくださいよ、それ以上禿げたらどうするんすか」
「うるせぇ!いいから顔洗ってこい!!」
クラス中大爆笑である。俺は立ち上がると、逃げるように教室を飛び出した。
「お湯で洗ってこぉい!!そっちの方が効果あるぞぉ!!」
後ろからハゲの大音声と皆の笑い声が聞こえる。わかったよ、お湯ね。
水道にたどり着いて、備え付けの魔法式湯沸かし装置を起動する。こいつ、つい最近まで設置工事やってて、騒音で寝不足にさせられたんだよな。で、やっと使えるようになったわけだけど……。おお、もうお湯が出てきた。手に掬って顔にぶつける!
「ほぇえぇぁ~」
あったけぇ...なるほど、寝起きのお湯洗顔、いいな...
あーでも、すぐ戻らないとハゲじじいがうるさいな、はやく乾かして戻るか。手のひらを軽く振り、水を落とす。
「えーっと、強めで」
指先に風の魔法陣が浮かび上がると、軽い突風が手と顔に当たった。
魔法?いくら下手でも、俺だってこれくらい出来るさ。
「お、戻ってきたな!」
見りゃわかるだろ。うるさいな。
「アオイも戻ってきたし、問題の解説を続けるぞ! 列《1, 11, 111…》のうち第7項、すなわち1111111を素因数分解する問題だったな!答えは239×4649だ!」
え、あれ魔導学だったの?ただの嫌がらせ問題じゃなくて?
「この分解という操作は単純に見えるが、魔法陣を下位の魔法陣に分解するときの操作に対応する奥深い仕組みなんだ!お、時間だな!残りは次回!号令!!」
ちょうどチャイムがなって、3限の授業は終了になった。このくそじじい、歴史の先生みたいにだらだらやらないのは評価できる。うるさいけど。
「アオイ~、よく寝るねぇ」
幼なじみのハルがやってきた。こいつ高校入って2ヶ月の間に可愛くなったな。好きな男でも出来たんじゃないだろうか。少なくともその「好きな男」とやらが俺でないことは確かだ。俺はそこら辺をわきまえてるからな。
「るせー。今に始まったことじゃないだろ」
「そんなに寝てたら溶けるよ」
「そんときゃよろしく」
「はぁ......。それで、テストはどうだった?」
「48。ハルは?」
「えっへん、私は100点~!」
「うわ、またかよ」
「だって簡単だったよ?素因数分解のとことか、魔法陣の対称性と照らし合わせたらすぐ分かったし!」
「そういうもんかねぇ」
「そうそう。そういうもんだよ。あ、そうだ、次体育だよ、着替えないと」
「忘れてた......また俺の睡眠時間が減るんだ」
「もう!アオイはそればっかり。」
そんなこんなで、次は体育の時間である。嫌でも目が覚めること、間違いなし。やだなぁ......。