第八話
正式に登録が済み、ティアが魔導薬師ギルドについて説明してくれた。このギルドは大きく分けて三つの部門に分類されているそうだ。
[素材採集部門]、[魔道具・創成薬部門]、[魔法探究・育成部門]の三部門に分かれており、各部門に部長、三部門統括部長として副ギルドマスター、最高責任者にギルドマスターという構成となっている。素材採集部門は主に薬草等の素材がメインとなり、魔物討伐を伴う素材に関しては冒険者ギルドに依頼することが多くなっている。逆に冒険者ギルドからはポーション等の治癒薬の大量納品を請け負うことで相補的な関係を保っているそう。一部の上級魔導士は魔物討伐も自分で行い、素材採集も行っている者もいるらしい。
なお、現在ギルドマスターは東のダンジョンへの調査依頼があり、直々に赴いているそうだ。
「レンタ君、希望部署はあるかな?」
アルムスが興味深そうに問う。もし可能であれば、と頭に付け足し希望を伝える。
「召喚獣や自分を鍛えたいので素材採集部門でこきつかってください」
冒険者みたいなこと言うんだな、承知した、とアルムスは鼻で笑って返答をしつつ手元の書類に書き込んでいく。ティアがアルムスから手渡された書類に目を通しなにかを打ち込んで運転免許証のような大きさのカードを作成した。
「はい、これがレンタさんのギルドカードです」
身分証にもなるので無くさないでくださいね〜と天真爛漫な笑顔で手渡してくれた。かわいい。
初めて登録した者は全員G級から始まり、素材採集部門は納品した素材や達成した依頼に応じて昇級していくらしい。頑張ってくださいね、と応援してくれた。かわいい。
「もう夕方になってきているので、実際の依頼や納品素材リストなどの説明は明日にしましょう」
気付かないうちにかなりの時間が経っていたことに驚きつつまた明日よろしくお願いします、と挨拶をして魔導薬師ギルドを後にした。
◇
「なんていうか、あんな魔力の人本当にいるんですかね」
「本当かはわからん。だが自慢している様子も嘘をついている雰囲気もなかった。単に自分の現状を理解していないというところか」
「有望株になるといいですね、ふふっ」
◇
魔導薬師ギルドにいる間、ずっとフーリィはソファに仰向けで大の字になって寝ていた。ずいぶん暇させちゃったな、と思いつつ肩に乗ったフーリィを撫でながら帰路についていた。
「きゅーー!」
お腹すいた、と不満を漏らすように鳴いてこちらの顔をつねってくる。もうそろそろ着くから待ってろといいつつ歩いていると【旅宿 川のせせらぎ】が見えてくる。ドアを開けると食欲がそそられる芳しい香りが鼻を打つ。
おかえりなさい!と元気よくアイナは迎えてくれる。帰るところがあるっていいよな、なんて思っているとアイナがこちらに向かって言い聞かせるように声をかける。
「もう少しで夕ご飯だからね!荷物置いたら降りてきて!」
寝ちゃダメだからね!と言いながらテキパキと作業をしている。二階に行き、上着を脱いですぐに下に降りていく。怒られるのは怖いからね。
食堂にはいくつかのテーブルがあり、キッチンの近くにはカウンターも設置されていた。おもむろにカウンターの端の席に座るとすぐにアイナが水を持ってきた。
「注文はどうする?オススメは本日の肉料理だけど!」
もちろんそれで、という言葉以外は見つけられないほどの圧で注文をとるアイナ。怒らせないように気をつけよう。注文をして10分程度待った後、ジュージューと心地よい音をさせながら肉料理がやってきた。
「今日の肉料理はクラッシュボアのステーキ、アムルソースがけだよー!」
クラッシュボアもアムルも全く分からないが大鼠を手で引きちぎって食べたレンタには一瞬の躊躇もなかった。
「うわあ、幸せやー」
初めての料理に舌鼓を打ち、夢中になって貪り食う男の姿がそこにはあった。
◇
翌朝、目が覚め部屋で準備をしているとアイナが元気に起こしてきた。
「おはよー!朝ごはんあるから食べにきてね」
せかせかと同階の部屋の人たちに声をかけてまわっている。よく働く女の子だなと尊敬しつつ一階に降り朝ごはんをとる。今日は魔導薬師ギルドに入って初めての仕事だ。
◇
さっそくギルドに着き、エントランスにいるティアに声をかける。
「改めまして本日よりよろしくお願いします」
彼女も立ち上がり優しい笑顔でこちらこそ、と微笑む。
「今日は素材と依頼について説明していくね。ある程度説明が終わったら実地訓練です」
理路整然と説明していく姿はとても凛々しく美しい。
素材に関しては知識がつくまでは簡易素材辞典が貸し出される。手書きの絵と名前や特徴がそれぞれ書かれており、それを参考に採取するように、とのこと。
依頼に関しては【常時依頼】と【指名依頼】があり、ランクがC級になるまでは基本的には【常時依頼】をこなしていき昇級を目指すようにと教えられた。
「本当は別のC級魔導士が実地訓練の指導係になるんだけど今回は事情があって忙しいから私が見るね」
ぜひティアさんでお願いします、と心の中で懇願し頷く。実地訓練は西門を出た先の平原をしばらく進んだところにある湖畔で行うらしい。初めての採集なので素材袋はギルドが貸し出してくれた。採集と同時に魔物が出てきた際は戦闘評価も行い、単独採集可能範囲を見極めてくれるようだ。そんな話をしながら西門まで後少しのところに差し掛かかった。
「そうだ、移動なんですがレンタさんは早く走れたりしますか?もし厳しいようでしたら馬を借りることもできますが」
私は風魔法で早く走ることができるのですが、とティアは言う。心遣いはありがたいが俺にはここで試したいことがあるのだ。
「大丈夫だと思います。ちょっと召喚獣にお願いしてみたくて」
そうでしたか、と興味深そうに頷くティア。したがってなにも準備はせずに西門を出た。俺はステータスのMPが900/1700に戻っていることを確認する。
「いでよ、バンダル!」
大きな体躯の土人形が召喚された。ティアは目を見開く。
「に、二体も召喚できたんですか」
苦笑いでこちらを見る。召喚獣はフーリィだけだと思っていたようだ。俺はバンダルの肩に乗せてもらい『捕獲固定』をしてもらう。これで準備は万端だ。
「よし、走ってみようバンダル」
無言で頷くバンダルがおもむろに走り出した。亭々たる図体とは思えないほどの軽やかなスピードで走り出す。これは馬いらずだわ。火狐を肩に乗せ、土人形の肩に乗るというどこか滑稽な見た目であるが非常に便利である。
ティアはもう苦笑いを通り過ぎて真顔になっているのだった。
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